草刈り機を改造した船外機が故障…オールも折れ漂流の憂き目に 通報場所に急行も姿なく【敦賀海保日誌】

故障した「草刈り船外機」(2022年5月・福井県敦賀市)

突然ですが私、メカが好きです!! 様々な素材でできた部品と部品との組み合わせが、電気、火、水、空気などを動力として目的・用途に応じた働きを生み出す、そんなメカに興奮を覚えるんです! 小さな部品が一つ欠けただけでも作動しなくなるという、融通の利かなさも愛おしい・・・

ちょっと変態が過ぎますね。すいません。 ところで、メカにはそれぞれの“役割”というものがあります。 この“役割”を無視して使ってしまうと、時として使用者に牙を剥くことがあるんです。 これだけ言うと、人工知能を搭載したロボットが人間の排除に向けて暴走し出す映画のような光景が思い浮かびそうなところではありますが、今回はもっと単純な話です。

⇒「カヤックを海に落とした」連絡はありがたいが…「もう要らない」はご勘弁

2022年5月のゴールデンウィーク中、福井県敦賀湾内から海上保安庁118番に救助要請の通報が入りました。 内容は「ミニボートのエンジンが動かなくなり沖へ流されて帰れなくなってしまった」というもの。 この日は南から吹く風が秒速5メートルほどとミニボートにとっては比較的強くて、転覆などのおそれを考えると事は急を要し、敦賀海上保安部から直ちに巡視艇すいせん救助艇で海上保安官3名が救助に向かいました。

事故者の場所は、118番通報を受けたときにGPS信号をキャッチして確認できていましたが、その場所に向かうと・・・いない? 事故者と連絡を取りつつ、陸上から向かった海上保安官が海を確認して、なんとかそのミニボートを発見。ボートは風に煽られてかなりのスピードで流されていたのです。 結局、事故者は通報時の場所から2.5キロメートルも北側の海上で救助艇に無事救出されました。

⇒春の海、目をこらすとミニボートにしがみつく男性 体温31度!いったい何が

救助後、この男性に事故の経緯を聞いてみると、この日は自身でも風が強いと感じていたそうで、直ぐに戻れるよう岸から100~200メートルほどの比較的岸寄りの海の上で釣りをしていたそう。 釣り場を移動しようと、一旦止めていた船外機のエンジンを再び起動しようとしたところ、かからなくなっていたんだそうです。 男性は慌てて、積んでいたオールで岸に向けて漕ぎ出しましたが、南からの向かい風で一向に進みません。その挙句に片方のオールがボキッと真ん中から折れて使い物にならなくなってしまい、まさに“泣きっ面に蜂”状態。 こうしてコントロールを失いみるみる風に流されることに男性は恐怖を感じ海保に通報したということでした。

そして、この事故の原因ともなった故障した船外機、これ実は「草刈り機」を改造したものだったんです。 そう。これこそが、その物の“役割”を無視した無謀ともいえる使用方法。 「草を刈る」という役割りのものと「ボートの推進機」としての役割のものとでは、たとえ使うことができたとしても、全く形態が違ってきます。

例えば、耐水性や耐食性の部分。 船の推進機は、塩分を含む海水を浴びて腐食しやすいことから、正規の船外機はその耐性を持つ構造や材質となっているものです。 一方草刈り機は、潮をかぶるような過酷な状況下で使用することを想定して作られたものではありませんし、スロットル全開で走り続ける船外機のような使い方も同じく想定されてはいません。

⇒夜釣り中ボートが浸水し転覆、携帯電話や信号灯も海に水没…窮地を救った備え

にもかかわらず、インターネット上で正規の船外機と比べておおよそ5分の1程度の価格で購入できるこのような「草刈り船外機」は、安全性よりも価格を重視される方々から近年人気を博し、そのため、部品の劣化やエンジンの焼き付きが原因となる事故が後を絶たない状況です。

“改造”といえばメカ好きの私としては心躍る響きですが、この「草刈り船外機」はただ単に“使えるようにしただけ”のもの。そのフィールドにおける構造や品質は度外視されているように思います。 結局、どんなものを使用しても基本的にはその人の自由なんですが、安全の保障は一切ないものと思っておいてください。

⇒釣り、マリンスポーツ中の思わぬ事故、連載「敦賀海保日誌」を読む

それにしても、草刈り機を船外機にって、こんなこと誰が最初に思いついたんや・・・ 中には、アタッチメントの付け替えによって船外機と草刈り機の2WAYとして使えるものも・・・いや誰が器用に使い分けれんねん!!!w 小さな“安全”という部品が一つ欠けただけで、楽しいボートフィッシングは成立しなくなるということをお忘れなく。(敦賀海上保安部・うみまる)

© 株式会社福井新聞社