井倉洞、集客へ体験型観光に活路 デイキャンプ場設置、若者視点も

鍾乳洞の入り口がある絶壁と高梁川。井倉洞は川遊びやデイキャンプなど「体験型観光」の要素を取り入れ、にぎわいを取り戻そうとしている

 新見市を代表する観光名所の一つで、岡山県天然記念物に指定されている鍾乳洞「井倉洞」―。悠久の自然が生み出した神秘的な造形美を見ようと、1970年代後半には年間20万人を超える人が訪れたが、岡山自動車道開通(97年)による観光客の流れの変化やレジャーの多様化などで客足は長年低迷している。近年は西日本豪雨、新型コロナウイルス禍が追い打ちをかけ、苦戦は続くが、創意工夫と市民らの力で新たなニーズに呼応した観光地への脱皮を目指す動きが出始めている。

 ◇

 新見市の南部を流れる高梁川の東岸に、石灰岩の絶壁(高さ約240メートル)がそそり立つ。下方部分にある穴が井倉洞(同市草間)への入り口だ。

 住民によって発見されたのは1957年。市と地元有志が調査に乗り出し、59年に全長1200メートルの見学路を有する鍾乳洞としてオープンした。JR井倉駅に近い交通の利便性に加え、マイカーの普及を追い風に来場者は増えてゆき、79年度には24万人を超えた。

 しかし、レジャーの多様化や社員旅行の減少などで客足は次第に鈍化。さらに岡山自動車道が開通すると、県南からの観光バスが真庭市蒜山地区や山陰へ直行し、素通りするケースが多くなった。

 また2018年の西日本豪雨と台風24号で、5軒あった飲食店や土産物店が浸水し、うち2軒が営業再開を断念した。新型コロナウイルス禍では再三、営業を自粛した。外出控えもあり、来場者は21年度に3万5千人台にまで落ち込んだ。

 こうした中で、井倉洞を管理運営する第三セクターは今年4月下旬、駐車場脇の芝生広場(約250平方メートル)にデイキャンプ場を設けた。家族連れらに鍾乳洞の見学と併せて、川遊びやバーベキューを楽しんでもらうのが狙いだ。杉一夫社長(66)は「コロナ後は『屋外での体験型』の観光が求められるはず」と話す。

 さらには、まちづくりに詳しい岡山大地域総合研究センターの岩淵泰准教授の協力を得て、大学生との意見交換会も計画。若者の視点を借りて、集客につながる魅力向上や情報発信のヒントを得ようとしている。

 「井倉洞の現状は人口減少が止まらない新見市の姿とダブって見える」。市まちづくり審議会の会長だった岡崎允さん(82)=自動車販売業=は危機感を募らせる。

 今月15日、クラシックカーなどの愛好者でつくるグループで、岡崎さんが相談役を務める「倉敷旧車倶楽部」は井倉洞の駐車場に70台を展示して交流イベントを開く。約10年前に始まった催しで「参加者が家族を連れて再訪したり、口コミで広めたりしてくれれば」と願う。

 山陽新聞社は、地域の方々と連携して課題解決や魅力の創出を図る「吉備の環(わ)アクション」を展開中。井倉洞の観光客誘致の取り組みを追い、紙面などで報道。共に新たな時代に即した観光地の在り方を探っていく。

© 株式会社山陽新聞社