人間将棋

 「佐々木殿と師匠の深浦殿(康市九段=佐世保市出身)には痛い目に遭わされておる。借りを返す絶好の機会、いざ尋常に勝負っ」-少し前の話だが、満開の桜に彩られた藤井聡太五冠の武者姿、ご記憶の方もおられるだろう▲将棋の駒の生産量が日本一の山形県天童市で4月に開催されたイベント・人間将棋。藤井五冠の西軍に対し、東軍を率いた対局相手は対馬市出身のプロ棋士、佐々木大地さん▲公式戦さながらの熱局。全ての駒を動かす難ミッションを巧みにクリアしつつ、軽妙な会話の応酬でも沸かせた。難しい局面で指し手を探す藤井五冠に「じゅーびょう♪」と秒読みの茶々を入れ、五冠の妙手には「鋭いな藤井殿。激痛でござる」。佐々木さんのトークセンスが光った▲藤井五冠の活躍ばかりが注目される将棋界、佐々木さんも通算勝率が7割超と勝ちまくっている。「将棋のまち」の名物イベントに相手役として登場すること自体、トップの一角を走る何よりの証拠▲今年に入って2月と4月の末に立て続けに昇段を重ね、現在は七段。竜王戦では挑戦者決定トーナメントに進んだ。頂上で待ち受けるのは藤井竜王▲人間将棋は佐々木さんが無念の“斬られ役”となった。お返しは真剣勝負の場で-渾身の一太刀を浴びせる日を楽しみに待ちたい。(智)

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