2千年前にして精巧・精緻なポンペイの美しき出土品の数々に片桐仁が感動!

TOKYO MX(地上波9ch)のアート番組「わたしの芸術劇場」(毎週金曜日 21:25~)。この番組は多摩美術大学卒で芸術家としても活躍する俳優・片桐仁が、美術館を“アートを体験できる劇場”と捉え、独自の視点から作品の楽しみ方を紹介します。2月19日(土)の放送では、「東京国立博物館」で開催された特別展「ポンペイ」に伺いました。

◆大噴火によって消えた幻の街「ポンペイ」

今回の舞台は、東京都・台東区上野にある東京国立博物館。

片桐は平成館で開催されていた特別展「ポンペイ」へ。ポンペイとは、かつてイタリア南部にあった古代ローマ帝国の地方都市で、繁栄していましたが西暦79年(日本では弥生時代)、火山の大噴火により街は灰の下へ。その後1748年に再発見され、現在も発掘が進められています。

同館の研究員・山本亮さんの案内のもと、片桐が最初に目にしたのは「女性犠牲者の石膏像」。この像は、死亡した人の上に火山灰が降り積った後、死体だけが分解され、中が空洞となったものに石膏を流し込んでできたもの。その経緯を聞いた片桐は「すごいですね……大変な状態で亡くなっていると思うんですけど、歴史上の資産として重要なものですよね」と感慨深そうに語ります。

続いては、当時ポンペイの人々に愛されていた美術品を鑑賞。なお、18世紀に始まり、いまだ発掘が続くポンペイですが、これまで出てきたものは全体の3分の2程度だと言われているそう。

まずはモザイク画の「辻音楽師」(前1世紀)。モザイク画とは小さなキューブ状の色のついた石を並べて作る作品で、その細かさに片桐も驚嘆。「すごく状態がいいですね」と感心しつつ、「戦争などで壊されたり、略奪されたりしなかったから残っているところもありますよね」とその理由を推察。

描かれているのは仮面を被った喜劇の登場人物たちが楽器を演奏しながら民家を訪れる様子で、その賑やかさに応えて家の主人も楽器を持ち出して演奏しています。そこからはポンペイの人々は日常的に演劇など豊かな文化が根付いていたことが窺えます。

一方、漆喰を壁に塗り描かれたフレスコ画「円型闘技場での乱闘」(59~79年)は、その名の通り乱闘の様子が描かれています。この闘技場の収容人数が約2万人だと聞き、片桐は「そんなものを2,000年前に作っていたんですね!」と驚きを隠せません。

このような風俗画や歴史画、さらには静物画など、後の西洋美術の絵画のジャンルになる画題がこの頃は普通に描かれていました。後世のローマ帝国滅亡後は神話や宗教をテーマに描いたものが爆発的に増え、風俗画は描かれなくなったとか。

続いては彫刻作品、大理石でできた「ビキニのウェヌス」(前1~後1世紀)。「ウェヌス」とは"美と愛の女神”で、英語でいう"ビーナス”。

一方、「ビキニ」は、像に残る金の装飾がビキニスタイルの水着のように見えるたことから、作品にこの名が付けられたとか。

また、大理石像というと一般的に白いものが多いですが、実際には着色されたカラフルなものもあったそう。しかし、時間の経過とともに削れてしまったり、発掘後に磨かれてしまったケースもあるそうで、片桐は「美術品としての価値というか、中途半端に残っているより磨いたほうが綺麗だからかな」と推察します。

◆彫刻・絵画以外に当時の"パン”も出土

ひと目見た片桐が、「細かい彫刻が施されていますけど、これも2,000年前のもの?」と驚いていたのは「ブドウ摘みを表した小アンフォラ(通称「青の壺」)(1世紀前半)。これはカメオ・ガラスという技法を使った「アンフォラ」という液体を入れるツボで、紺青色ガラスの上に白色のガラスを重ね、精緻な浮き彫りを施していますが、ここまで完全な形で出土するのは珍しいとか。

一方、モザイク画「テーブル天板(通称「メメント・モリ」)」(前1世紀)からは、当時の死生観が垣間見えます。"メメント・モリ”とは"死を忘れるな”という古代ローマの一般的な死生観で、富める者も貧しい者も、どんな立場の人にも平等に死が訪れるので今を楽しもうという考えだとか。

そして、フレスコ画「パン屋の店先」(50~79年)では、ごくありふれた街の日常が描かれています。

さらに「パンのある静物」(50~79年)はポンペイの人々に欠かせないパンが主題。片桐は「パンそのもの、静物画ってことですよね。パンの絵なんて向こう何百年も描かれないじゃないですか」と話し、当時から風俗画や静物画が普通に描かれていたことに興味を示します。

当時ポンペイではさまざまなジャンルの絵が描かれ、それらをメインの絵の周りに散りばめるように飾っていたそうです。

また、ポンペイからは噴火時に釜のなかに残っていたものなど、当時のパン「炭化したパン」(79年)も出土。

片桐は一目見て「あの絵のままですね!」と目を見張りつつ、「2,000年前の風俗画や静物画でパンを見た後、本物のパンが残っているって、すごいことですね。本当に特殊な状況で残されたものというのを実感できますね。美術品としてもすごいものを見たし、いろいろなものを見てきましたけど、パンが展示されるって相当ですよね」と興奮気味に語ります。

◆後の西洋画に通ずる萌芽がポンペイに

さらに歩を進めると、当時の建物が再現されたエリアに。そこにはボンペイの代表的な3つの邸宅の一部が再現展示され、まるで2,000年前にタイムスリップした気分が体感できます。そして、そこには有名な「アレクサンドロス大王のモザイク」(再現)が。

片桐は「これは見たことがある。世界史の教科書で必ず出る絵ですよね!」と感動。

その次には、ナイル川の風景を描いた大きなモザイク画「ナイル川風景」(前2世紀末)。幅3メートルを超えるこの大作には、ナイル川に生息するさまざまな生き物が描かれています。当時、エジプトは学問的に発達しており、さまざまな動物が描かれた絵を飾ることで、その家の持ち主の教養を示していたとか。

別の邸宅には、トロイア戦争の一場面で、ギリシア神話の登場人物ブリセイスが英雄アキレウスから引き離される様子が描かれた「ブリセイスの引き渡し」(50~79年)が。手前のアキレウス、その奥の男性、さらにその奥の兵士と徐々に淡く描くことで遠近感が表現されており、西洋画の萌芽を感じさせます。

建築や彫刻は後世に残りやすく、後の時代においても過去の名作をもとに芸術が盛り上がりますが、当時の絵画というのはあまり残っていませんでした。そのため、18世紀にボンペイが発掘されると、美術界にとって大変な衝撃だったそうです。

特別展「ポンペイ」で時を超えた体験をした片桐は「何よりビックリしたのがこの規模と、2,000年前のものがこんな綺麗な状態で残っていること。噴火によってタイムカプセル的に閉じ込められていたとことがすごいということを実感しましたね」と感想を語ります。

そして、「今も当時の人々の息遣いを感じられるポンペイ遺跡、素晴らしい!」と称賛し、2,000年前の暮らしを教えてくれた貴重な作品たちに拍手を贈っていました。

◆今日のアンコールは、「ヒョウを抱くバックス」

特別展「ポンペイ」の展示作品の中で、今回のストーリーに入らなかったものからどうしても見てもらいたい作品を紹介する「今日のアンコール」。片桐が選んだのは「ヒョウを抱くバックス(ディオニュソス)」(前27~後14年頃)。

これは東大の研究員が発掘したもので、「火山灰のなかにこれを見つけたってロマンですよね。これが出てきたら嬉しいですよね」と語る片桐。さらには、「規模のデカさと文化度の高さを実感しますね。向こうに行ったらいろいろなものが見られると思う、というか街を見てみたいですね」とポンペイに思いを馳せていました。

最後はミュージアムショップへ。絵ハガキやマグネット、ノート、クリアファイルなど特別展「ポンペイ」グッズが数多く並ぶなか、片桐が「出ました! パンと言っても伝わらないですよね(笑) 」と興奮していたのが「炭化したパンのクッション」。

さらには「これだ! ネットで話題になってた。急に80年代のアニメ感が出てきちゃうんですけど」と目を輝かせていたのは「古代都市ポンペイ」と描かれたアクリルスタンド。ミュージアムショップでも大満喫の様子の片桐でした。

※開館状況は、東京国立博物館の公式サイトでご確認ください。

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<番組概要>
番組名:わたしの芸術劇場
放送日時:毎週金曜 21:25~21:54、毎週日曜 12:00~12:25<TOKYO MX1>、毎週日曜 8:00~8:25<TOKYO MX2>
「エムキャス」でも同時配信
出演者:片桐仁
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/geijutsu_gekijou/

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