約362万票の「民主党」、今回はどこへ行く?政党略称と按分票の解説(オフィス・シュンキ)

昨年10月に行われた「第49回衆議院議員総選挙」の比例代表で「民主党」と同じ略称を総務省に届け出た国政政党が2つあったため、全国で投じられた約362万票がどちらの党へのものか判別できない事態が起こりました。

公職選挙法の規定に則り、各開票区ごとに当該政党の得票に応じて按分されました。しかしほとんどの有権者はどちらかの政党に投じるつもりで投票したはずと考えられますので有権者の意思が投票結果に違いが出ているようにも感じられます。

今夏に行われる「第26回参議員議員通常選挙」でも、再び正確に民意が反映されない事態が起こることが決定的になっています。当該の政党は、前回と同じく「立憲民主党」と「国民民主党」。5月2日までが期限だった総務省への届け出で、両党ともに「民主党」と略称届けを出しているとみられます。

この「按分票」がどの程度のものになるか。例えば、筆者の居住地のある近畿ブロックでみてみます。昨年の総選挙の際、近畿2府4県を合わせた比例票は「立憲民主党」が109万665票、「国民民主党」が30万3480票です。

「民主党」と書かれた票はこのブロックで31万6459票に上り、「国民民主党」の当該ブロックでの比例票総数を上回っているのです。もちろん、この総数に「按分票」が入っていますので、単純な数字の比較自体に大きな意味はないのですが、数の多さは理解できると思います。

そして、重要なのは「票」という呼び方で見落とされがちですが、ひとりの人間が投票して「1票」。「票」を「人」と読み替えるとこのことの重要さが伝わるのではないでしょうか。昨年の総選挙では全国で約362万人の民意が、不正確に選挙結果に反映された可能性があるということなのです。

国内の選挙を統括している総務省自治行政局選挙部管理課に問い合わせてみたところ、「政党の選挙にかかる自由は保証されています」とのことで、同じ略称となっても公職選挙法上で止める手立ては基本的にはない、との見解でした。

ただ、最近の例として2020年12月22日に「NHKから自国民を守る党」(当時)が、党の略称を「自民党」として申請してきた際に「『自由民主党』の略称として広く通用しており、有権者の混乱をもたらす」などとして、不受理にしたケースも事実としてあります。

過去を紐解いてみると、少ないとはいえ、同一略称で違う政党が争った国政選挙も昨年の例以外にもありました。1992年の参議院選挙では「日本新党」と「国民新党」が「新党」の略称で、2010年の参議院選挙では「新党日本」と「たちあがれ日本」が「日本」の略称で選挙に突入しています。いずれのケースも総務省の見解は「公職選挙法の第68条の2、の規定に則って、有効投票数に応じて按分していくだけです」とのことでした。

来るべき参議院選挙での略称「民主党」を巡る事象は、昨年の総選挙ですでに起こっていただけに避けられないのか?の疑問が、有権者の心に沸き起こるのは当然だと思います。そこで、両党の広報担当に聞いてみました。

まずは「立憲民主党」ですが「元々、党規約に略称を『民主党』とする、と明記されています。それに則ってやっているだけです」との回答でした。「国民民主党」の方は「規約などの規定はないが、党の慣例として、略称にずっと『民主党』を使っています。変える必要はないのです」との回答でした。

ただ、「国民民主党」の方は「なんらかの問題があるから、『立憲民主党』とうちの幹事長同士が話し合いをしていた。幹事長同士が話し合うのは大きなことだったのです」と、両党での調整が結局、不調に終わったことに無念さをにじませていたことは付け加えておきます。

現在の両党は、ともに旧民主党の流れを基調に吸収や合併、分裂を経て、2020年の秋に発足しています。その際、同年9月11日に政党名、略称を届け出たのが「国民民主党」。9月15日の党大会で規約など決定して発足したのが「立憲民主党」。昨年の総選挙が、新しくなった両党にとって初めての国政選挙だったわけで、2019年の参議院議員選挙では旧立憲民主党が「りっけん」、旧国民民主党が「民主党」を使ったから、というのは、今の両党にとって『前例』でないのも確かなのです。

ちなみに、旧立憲民主党は2017年の総選挙では「民主党」を略称として使っていますので、「りっけん」が統一略称でなかったのも選挙史上残っています。両党の広報担当ともに声をそろえていたのは「有権者の方に申し訳ないです」とのこと。参議院選挙は数か月うちに必ずありますが、略称・按分問題は再度、避けられない形になりそうです。

ちなみに「民主」と書いたらどうなるか?これは、今回の参議院選挙に向けてどこかが略称として届け出ているかは定かではありませんが、先の2党に加え、「自由民主党」「社会民主党」にも入っている文言なのです。答えは、各自治体選挙管理委員会での判断にゆだねられるとなっているのですが、結局、根本的な原因は,党名・略称に関して「公職選挙法」を中心とした法整備が厳格に出来ていないことにあるのでは、と改めて思ったのは確かです。(オフィス・シュンキ)

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