FC琉球が「FCRコイン」を発行!そこから何が生まれるのか、倉林啓士郎社長に聞いた(前編)

4月27日、FC琉球が、暗号資産を取り扱うGMOコイン株式会社を通じて独自暗号資産となる「FCRコイン」を発行すると発表した。

GMOコインは2018年にFC琉球のシーズンクラブパートナーに就任。2019年からはオフィシャルトップパートナーに就任している。

既にFCRコインに関する活動は始まっている。4月30日に開催されたアルビレックス新潟戦では、MOMを受賞した清武選手が100万円相当のFCRコインを受け取った。また、5月18日まではGMOコインを通じた抽選によるFCRコインの事前販売(IEO)、5月19日からは一般販売が開始される予定だ。

今回は、FCRコイン発行の目的や狙い、FCRコインによって期待しているものなどを、FC琉球を運営する琉球フットボールクラブ株式会社代表取締役社長の倉林啓士郎氏(以下、倉林)とGMOコイン取締役の小谷絋右氏(以下、小谷)に伺った。

前編では、FCRコインを発行する背景やFCRコインを導入することによるサッカー観戦の変化などの質問を中心に行った。

なお、取材は2022年5月8日に実施している(聞き手:河合カエル/写真提供:FC琉球、GMOコイン)

FCRコイン発行のきっかけ、狙い

――FCRコインは、FC琉球の発案なのですか。

倉林:まだ取引所を介した独自コイン発行の法的な整備がされていない頃に、FC琉球コインを発行して新しい資金調達をしようという構想がありました。

ちょうど4年ぐらい前だったので、Jリーグ法務部とかライセンス提言の方々とも話し合いをさせていただきながら、金融庁にも定期的に訪問し確認をしていたんですが、最終的には当時の解釈では、独力でFC琉球コインを発行することは100%適法的とは言えない状況でした。

Jリーグとも相談した結果、このタイミングでは一旦延期しようということで1年ぐらい法整備が整うまで待っていました。その間にGMOコインをスポンサーを介してご紹介いただいて、何か一緒にできませんかというところからスポンサーシップが始まり、取引所を通して発行するやり方ならば法的整備がされてきたので、本格的に準備を始めたというのが経緯になっています。

――FCRを発行する狙いは何ですか。

倉林:シンプルに4年前からアイディアとして持っていたのは、地方の地域スポーツクラブとしてどうしても資金的な問題を常に抱えていて、収入が少ないので強化費が増やせない。とはいえ、同じリーグに所属している大きい予算のチームと試合では対等に戦っていかなければならない。

もしくは、良い選手や監督とかを獲ると、どうしても支出が増えてしまうので、支出が先行してしまうと赤字が続いて経営危機に陥るようなクラブも、毎年少なからず出てきてしまう。そういうのが地域スポーツクラブの、特に親会社を持っていないようなクラブの課題だと思っていました。

そういった資金的な問題を、自分たちで独自のコインを発行して資金調達するという、新しい資金調達の仕方によって解決するというのが1つ大きな狙いではありました。

その上で、FCRコインは使い道がありますので、ファンやサポーターからの応援のレベルとか熱量を、うまくクラブの応援とマッチングさせていくことができるかなと思っています。

具体的にどういうことかと言いますと、今までのファンクラブやファン・サポーターのクラブへの支援は、当然試合会場に来ていただき応援してもらうということもあるのですが、資金的な面ではチケットや年間パスを買っていただいたり、グッズやユニフォームを買っていただく。そういったことで応援していただくケースが多かったと思います。

法人に関しては、数百万円とか数千万円の広告看板とかを出していただいて、スタジアムで企業名を告知するとか、ユニフォーム・練習着に企業名を露出するとか、そういった支援をいただいていました。

ですが、そこで拾えていないファンやサポーターの熱量があったかなと気付きまして、今回、僕らがFCRコインを発行するということで、例えば、僕の知人でもそれなりにまとまった金額分を買わせていただくという方が何名かいらっしゃるんです。

そういう方は昔からFC琉球や選手達を応援してくださっていますし、会社としてもスポンサーしてもらったりしているのですが、個人として看板を出す必要もないですし、沖縄に住んでいなければ試合に行けるわけでもないのでお金の使い道がありませんでした。

今回に関しては、応援している気持ちでコインを購入していただく一方、資産も増えるかもしれない。ひょっとしたら少し値上がりするかもしれない。Jリーグのクラブだからゼロにはならないでしょうし、新しい株式投資みたいな雰囲気で応援してくださる方がいらっしゃいます。

そういう方たちというのは、コインを相応枚数持っていることでさらに応援に熱が入るでしょうし、勝ったら少し値段が上がるとか、順位が上がったらちょっと値段が上がるとか、降格圏を出たらまたちょっと値段が上がるとか、プレーオフ圏内に入ってまた値段がちょっと上がったとか。

資金的な部分と応援の熱量がすごくマッチングしてくるというのが、新しい応援の在り方としては出てくるんじゃないかと思います。そういうのが2つ目の狙いです。

琉球フットボールクラブ株式会社代表取締役社長の倉林啓士郎氏(©FC RYUKYU)

暗号資産やGMOコインに対するファン・サポーターの心理の変化

――GMOコインがFC琉球のスポンサーに就任して4年目になりました。ファンやサポーターの中で暗号資産やGMOコインに対する印象などに変化はあったでしょうか。

倉林:2017、18年に暗号資産の発行を検討していたときは、社内でも疑わしいもの、よく分からないものといった意見が多かったのは事実です。GMOコインにスポンサーとして18年、19年から入っていただいて、当時はファン・サポーターの方も暗号資産の取引所とかあまり馴染みがなかったと思います。

良かった面としては、4年間GMOコインにパートナーを続けていただいたことで、FC琉球のファン・サポーターの中では、「暗号資産といえばGMOコイン」といった形で、暗号資産に対するふれあいとかが緩くできてきたので、そういった中でGMOコインへの認知度、もしくは理解度が少しずつ広がっていったというのはあると思います。

ただ、まだ具体的にGMOコインに口座を開いて暗号資産を買ってみるという体験をやっている方は少ないと思うので、FCRコインを導入することで認知度が上がったり、実際に使ってみるハードルが下がったりしてくると、ファン・サポーターが暗号資産に触れたり、暗号資産の投資とかをやっていた方にFC琉球を知ってもらえる。そういう相乗効果が狙えるのではないかと思っています。

FCRコイン導入によるサッカー観戦の変化

――FCRコインを導入することで、サッカー観戦がどのように変わると期待されていますか。

倉林:観戦スタイルもそうなのですが、まだ先週発表したばかりなので、FC琉球のファン・サポーターの中でも熱心な方がコインについて勉強してくださったりとか、理解しようとしてくださっているという状況なので、どうしてもサッカーのファンと暗号資産をよく知っている方との情報量は、かなり隔たりがあります。

我々がシンプルに簡易な文章で説明したとしても、通常のサッカーファンに対しては難解な話に聞こえてくるとか、そういうところはあります。それは、今後FCRコインの使い道や、実際に使っていく中でどんどん身近になっていくのではないかと思っています。

実際にFCRコインを導入することでのサッカー観戦というのは、よりエキサイティングになると思っています。例えば、勝ったら当然うれしいですけど、前半いい試合ではなくて仮に負けていたら少し値段が下がっていて、後半逆転したら値段がぽこんと上がる。そういう楽しみ方ができると思っているんですよ。

勝利してうれしいし、さらにコインも値上がりしていて、倍うれしいみたいな。ちょっと買い増してしまおうとか、買ったものを少し選手に投げ銭してみるとか、投票してみるとか。

観戦もそうですし、クラブ経営により関わっていただく。株式をファン・サポーターの方々に持っていただくことはなかなかできないので、そういう株主さんが意思決定をするような。経営の根幹はちょっと難しいが、チームにおける意思決定により関わっていただけるようなことをやっていきたいと思っています。

――FCRコインは、今のところ関係者やサポーターの方々からはどのように受け止められていますか。

倉林:まだ分からないですが、何か始まったから、5000円から買えるし買ってみようという方は何人かお声をいただいています。既存の沖縄県内のスポンサーの社長さんとかからも、これぐらい買ったよ、いくらぐらい買うねというようなお言葉はいただいていて。

実際にこれが使えるようになったりとか、FC琉球の運営とか試合結果に連動して値段が動き始めると、よりリアルになってくるのかなと思っています。

ファンクラブとの違い

――FC琉球にはファンクラブがあります。FCRコインとファンクラブの違いは何ですか。

倉林:ようやくFCRコインが実現して、5月18日に実際にファン・サポーターの方にも持っていただいたら、FC RYUKYU SOCIOというウェブサイトがオープンします。そちらで新しい投票や投げ銭といった機能ができるようになります。

既存のファンクラブは、年会費3000円からでいくつかの階層があるのですが、グッズがもらえたり、イベントに参加できたりします。それとは違う角度のFCRコインを使ったファン・サポーター向けのサービスというのがスタートする予定です。

そこの住み分けというのは、ひょっとしたら統合していくかもしれないですし、コインを持っていただかなくても参加できるようなファンクラブ制度を維持するということも考えてはいます。

具体的な差別化については、これから考えていかないといけないなという状況です。

FCRコイン発行を記念してつくられたジンベーニョのNFT(©FC RYUKYU)

――FCRコインでやってみたい投票案などはありますか。

倉林:選手入場時の入場曲とか、キャプテンマークに書かれる文言とか、グッズのカラーとか、そういったあまりチーム経営の深いところに関わらない、けれどもファン・サポーターとしてはニッチな部分で興味のある部分に投票できるというようなものは他のファントークンでも多いと思うのです。

当然そういった部分も用意していくんですが、それだけだとなかなかコインを持つというモチベーションや興味を持ってもらうには弱いかなとも思っているので、最初はもう少し大きい枠組みの投票も用意したいと思っています。

我々は2003年に創設したクラブなので、来年の2023年がクラブ創設20周年です。新しくクラブのリブランディングというのも考えていまして、例えば、エンブレムのリブランディングだとか、チームロゴのリニューアルであるとか。

ひょっとしたらチーム名称を、ほかのクラブだと北海道コンサドーレ札幌やアルビレックス新潟など、名前がついているクラブもありますので、そういったものも付ける付けないとか。そういったものを20周年を契機にファンサポーターの人と一緒に考えていく。そういったものをメニューとしては今後考えていきたいなと思っています。

ファン・サポーターの方たちも当然重要な意思決定になるので参加してもらえると思っていますし、それだったら一口コインを持っておこうかみたいに身近になってくると思うんです。そういったことを考えてはいます。

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――基本的にはファンに買ってもらうというのが第一なのですか。

倉林:ファン・サポーターの方にぜひ持ってもらって、いろいろFCRコインを活用した活動に参加してもらいたいです。最初から応援してもらっているファン・サポーターの方には、ぜひメリットがあるように今後値上がりしていくような活動をしっかりしていきたいと思っています。

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