「無人運航船」実現なるか 横須賀・猿島へ自動着岸、北九州へ高速運転… 実証実験続々

無人運航実証を行った 「それいゆ」=1月17日

 海運業界で船員の人手不足や高齢化が深刻化する中、日本財団などは解決策として期待される「無人運航船」の実用化を目指して、神奈川県内などで実証実験を終えた。安全で効率の良い運航ルートの選択やヒューマンエラーによる海難事故減少などにつなげたい考えだ。

 横須賀市の猿島で1月11日に実施された実験には丸紅や三井E&S造船、猿島航路を運航する「トライアングル」、同市が参加。通常の猿島航路で使用している小型旅客船(19トン)にカメラやセンサーなどを設置し、機器から得た情報を基に自律操船システムで運航した。新三笠桟橋(同市)を離岸し、約1.7キロを約10分で航行。猿島の桟橋に着岸するまでを自動で行い、航路上に他船を検知した場合に減速、回避する実験も行った。

 自律操船システムを開発する三井E&S造船の梅澤賢亮さんは「小型船舶特有の制御の難しさや課題についての知見も得ることができた。まだ新米船長レベルだが、ベテラン船長を目標に、アドバイスを受けながらシステムを改良したい」と意欲を見せる。

 同社は別の実証実験「内航コンテナ船とカーフェリーによる無人化技術」にも参加して成功したとし、「仕様が異なる3つの船種で実証できた意義は大きい」と手応えを感じている。

 同17日には、三菱造船(横浜市西区)が建造した大型フェリー「それいゆ」(全長222メートル)でも実証実験が行われた。横須賀港新港ふ頭(横須賀市)-新門司港(北九州市)を定期運航する同船に実証実験中、赤外線カメラで夜間でも他船検出が可能な物標画像解析システムや自動避航機能を備えた自動操船システム、AIを用いた離着岸自動操船システムなどが搭載された。

 実験は新門司から瀬戸内海西部の伊予灘海域を往復する約240キロの航路で最大速度26ノット(時速約50キロ)の高速運転で実施。他船やブイなどの障害物を自動回避して航行した。三菱造船の森英男プロジェクトマネジャーは「港内外ともに問題なく、特に離着岸が非常にうまくいった。運航の安全性向上や乗組員の負担軽減にも生かせる」と自信を深めた。

 このほか実証実験は海上交通量の多い太平洋上でのコンテナ船や水陸両用バスでも実施。いずれも成功したという。将来的には船員不足に悩む離島航路の維持などへの技術活用も視野に入れる。

 安全性評価では、学識経験者や研究機関、関係官庁の委員で構成する委員会をすでに設置。今後は技術的課題の解決や法整備などに取り組む予定。海野光行同財団常務理事は「無人運航のテクノロジーが進化し、将来的には海難事故が限りなくゼロに近づくと思う。船員不足などの社会課題解決に生かすとともに、世界に先駆けて実証実験を進めることで、無人運航のルール作りを日本が主導したい」と展望を語る。

◆無人運航船プロジェクト「MEGURI2040」
 2020年2月、日本財団が海運や造船、ITなど40を超える企業・団体と共に開始、今年3月までに実証実験を終えた。人工知能(AI)や画像解析などの技術を組み合わせ、安全でスムーズな船の無人運航の実現を掲げる。財団は事業費総額約88億円のうち約74億円を支援。世界に先駆けて25年までに実用化、40年までに内航船の5割の無人運航化を見据える。

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