【香港】日本の半導体「当社が売る」[IT]

最大手商社アロー、協業を熱望

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アジア太平洋事業を統括するアロー・アジア・パックの余会長がNNAの単独取材に応じた=4月、香港科学園(NNA撮影)

半導体商社世界最大手の米アロー・エレクトロニクスが、日本の半導体・電子部品メーカーとの協業拡大を熱望している。世界の半導体市場の5割以上を占めるアジアで、日本のサプライヤーからの調達を増やし事業をさらに拡大したい考え。アジア太平洋事業の統括会社で会長を務める余敏宏(サイモン・ユー)氏は「日本の技術は素晴らしい。当社がアジアに持つ1万8,000社の顧客網を活用してもらい、ともに市場に価値を生み出したい」とラブコールを送る。【天野友紀子】

アローは、米経済誌フォーチュンの世界企業番付「フォーチュン・グローバル500」2021年版で102位にランクインする大企業。米半導体大手テキサス・インスツルメンツ(TI)の独占販売代理店として知られ、昨年の売上高は344億8,000万米ドル(約4兆4,880億円)に上る。

アジア太平洋地区本部を香港に置き、香港政府系ハイテク産業団地の香港科学園(サイエンスパーク)に入居する。

■対話と結果で信頼築く

余氏は「日本企業の技術はアジア市場での成長のカギだ」と語り、特にコンデンサーに使われるセラミックや微細加工における日本の技術は突出していると絶賛する。米国企業であることもあり従来は欧米サプライヤーの製品を主力としてきたが、2019年から日本のサプライヤーの開拓を本格化。3年で村田製作所やローム、パナソニックなど、日本メーカー約20社と取引を拡大させてきた。

日本企業との協業について余氏は「決定権を持つ人物と会う機会を取り付け、関係を築くことが最も重要」と語る。日本ではアローの社名すら知らない企業が多いほか「大手しか相手にしない転売屋」と勘違いされているケースも多いという。中小企業との取引が売上高の多くを占め、部品の使い方を含めた顧客企業への技術支援に重点を置いている事実を自ら日本企業の幹部に伝え、自社を知ってもらいたいと意気込む。

日本の約20社とも、そのように関係を構築してきた。例えば村田製作所とは、同社のセンサーの販売をいかに増やしていけるかをとことん議論。共同で目標を設定し、実績を出すことで信頼を勝ち取り、取扱商品や代理販売地域の拡大につなげていると説明した。

香港科学園に入居するアローのアジア太平洋地区本部=4月(NNA撮影)

■日本企業側にも利点

日本の半導体関連企業で20年以上働き、現在はアローでアジア太平洋地区の日本サプライヤー管理責任者を務める児島康氏は「日本の半導体・電子部品メーカーにとっても、アジア市場はまだまだ巨大な開発余地がある」と指摘する。

日本のメーカーはこれまで、自社の営業員を各地に送り込んだり、ローカルな小規模代理店と組んだりする傾向が強かった。だがネットワークが限られていることや代理店の動きの鈍さなどから販売を思うように伸ばせず、新たな販売チャンネルを模索する企業が近年、目立っているという。児島氏は、アローと組むことで同社がアジアに持つ顧客基盤1万8,000社にアクセス可能になるとして「当社が新たなパートナーになれれば」と呼びかけた。

アローは技術人材の育成に力を入れており、営業では顧客にさまざまなレファレンスデザイン(参照設計)を持ち込んで使い方を提案する。サプライヤーはアジアだけで760社に上り、取り扱う製品も幅広いため、さまざまな組み合わせが可能だ。余氏は「共同で新たな用途や市場を生み出すことができる」と力説する。

■最新技術に積極投資

スタートアップ支援などを目的に設置したオープンラボ。半導体やAIの各種試験設備のほか、ミーティングスペースを完備=4月、香港科学園(NNA撮影)

常に変化する業界のトレンドや技術にキャッチアップするため、技術の掌握やエンジニア育成への投資を活発に行っている。

毎年1回、中国広東省深センにアジアの全技術人材を集めて1週間の研修を実施。香港とインド南部ベンガルール(バンガロール)には、スタートアップ支援と自社の開発・検証施設を兼ねたオープンラボを設置した。6年前に開設した香港のオープンラボは累計1,500社が利用登録。無料開放するだけでなく技術支援も行い、未来のサプライヤーや顧客を育てている。

近年は、香港と広東省の珠江デルタ9市、マカオから成る経済圏「粤港澳大湾区(グレーターベイエリア)」に注目する。広東省東莞の松山湖に新たなオープンラボを整備し、香港科学園を運営する香港科技園公司(HKSTP)と共同で同ラボを活用したインキュベーションプログラムを展開。マイクロエレクトロニクス(微細電子工学)を中心に、大湾区のスタートアップや起業家、エンジニアの技術開発を支援している。

大湾区の技術力は「近いうちに米シリコンバレーを抜いて世界一になる」(余氏)との予測から、今後も同区に積極投資していく考えだ。

業界は昨年から半導体不足に悩まされているが、来年には状況が正常化するとみている。余氏は、新型コロナウイルス禍で2年以上中断している日本出張を7月に再開させ「日本企業との協業を加速する」と力を込めた。

<メモ>

アローのアジア太平洋事業

香港法人のアロー・アジア・パックが日本を除くアジア太平洋地区を統括。従業員数は約4,000人。昨年の売上高は前年比31.6%増の122億8,000万米ドル。アロー全体の売上高にアジア太平洋地区が占める割合は、18年の24%から昨年には36%へと拡大した。