ド迫力!モノラル専用カートリッジで本物の “ウォール・オブ・サウンド” を体験せよ  ブライアン・ウィルソンや大瀧詠一も畏敬したサウンドとは?

オーディオ・システム=ステレオ?

以前はみんな、オーディオ・システムのことを「ステレオ」って呼んでいました。今はシステムを持っている人自体少ないからか、そういう呼び方も聞かなくなりましたが、本来は「モノラル」に対する「ステレオ」という再生方式の違いなのに、再生システムそのものの名前のように使われた陰には、「モノラルなんてもう時代遅れなんだから、ステレオのセットを買いなさい」という電器メーカーの商魂が跋扈していたに違いありません。

それはまんまと成功し、「モノラル」は、「蓄音機」などと同様の、音楽再生技術発展史の初期に現れ、やがて消えていった、過去の遺物のように思われています。

実際にはビートルズやストーンズの初期はモノラルですから、「MONO」と書かれたそれらの音源を、ふつうのオーディオ機器、つまりステレオで聴いたことがある人は多いでしょうが、おそらく今の世の中、「モノラル」のための再生装置で、モノラル・レコードをちゃんと聴いたことがある人など、ほとんどいないんじゃないでしょうか? 私も数年前まではそうでした。モノラル盤は何枚か持っていますが、それを家の「ステレオ」で聴いても、音が広がらないし、昔の録音だから低域高域が十分でないし、ステレオ再生が発明されるまでの「発展途上の」再生方式に過ぎないと思っていました。

ブライアン・ウィルソンや大瀧詠一も畏敬したサウンドとは?

ところがある時、高級モノラル専用カートリッジ(約25万円)と超弩級プレーヤー(約150万円)でモノラル盤シングルを聴くという会があったのです。その音を聴いて私はぶっ飛びました。目が覚めました。もちろん左右の広がりはありません。だけど音がとにかく太い。エネルギーが強いんです。中でも驚いたのがロネッツの「Be My Baby」。フィル・スペクターが編み出した「Wall of Sound」の代表曲ですが、ビーチボーイズのブライアン・ウィルソンや大瀧詠一さんが畏敬するそのサウンドの、何がそんなに画期的だったのか、いまいちよく分からないでいました。車の運転中、カーラジオでこの曲を初めて聴いたブライアン・ウィルソンは、衝撃のあまり道端に車を停めてドアから転がり出た、というエピソードがありますが、「それは話10倍やろー」とずっと思っていました。

それがついに理解できた。左右に広げようがないモノラルなのに、点ではなく面として「音の壁」を感じさせる音づくりの革命。その凄みをしっかり感じました。

ステレオとモノラルで違うレコードのつくり

実は、ステレオ以前のモノラルはカッティングの仕方も違っていたんだそうです。ステレオは一つのミゾで2チャンネルの音を再生するために、ミゾの壁の片側を左、もう片側を右と分けて、音の波形を刻んでいます。針はその波形にそって上下運動をし、その動きが音に再変換されるわけですね。だけど、モノラルの場合、1チャンネルの音だけなので、上下方向に波形を刻んでもいいけど、横方向に刻むことも可能ですね。その場合、針は水平に動いて、それが音になるのですが、なんと、60年代以前のモノラル・レコードはほとんどが横方向でカッティングしているそうなんです。ステレオ普及以降は互換性をとるために、モノラルも上下方向のカッティングになったそうなのですが。

で、上下だと盤の厚みがあるので、そんなに変化の幅をつくれないけど、水平ならその制約があまりありません。大きな振れ幅をつくれるということです。振れ幅=音のダイナミクスなので、それが、私がイベントで驚いた、モノラルの太い音の要因というわけですね。

カートリッジもモノラル専用

ただ、そのモノラルの音をちゃんと再生するには、水平の動きをトレースできる専用のカートリッジが必要だということなんです。モノラル専用カートリッジは今も、いろいろ販売されていて、モノラル再生ファンもしっかりいるようなのですが、オーディオ機器全般が売れなくなっている昨今では、まあ、ごく少数であることは間違いないでしょう。

モノラルが進化してステレオになったのではない。例えてみれば、「モノラル族」は独自に高度の文明を築いていたのだけれど、立体音響という強力な武器を持った、新興の「ステレオ族」に攻撃され、滅ぼされてしまった。その後「ステレオ族」の天下は続き、「モノラル族」は未開時代の祖先に過ぎなかったとされている……というような感じでしょうか。

モノラルの音を楽しんでほしい!

モノラル時代に築き上げられた独特の音の魅力、特にフィル・スペクターが編み出した「Wall of Sound」の音世界などを、知らないでいるのは実にもったいない。だけど、モノクロ写真やモノクロ映画なら、今でも簡単に観られるのに、音楽再生ではそう簡単ではありません。アナログ・レコードが再び注目を浴びているように、モノラルにも興味を持ってもらえるとうれしいのですが、専用カートリッジ、もちろん数少ないソフトも必要、とあってはハードルが高過ぎます。

せめて、「本当のモノラル再生」のイベントを行って、ひとときでもその魅力に触れてもらいたいと思います。本イベントは、単に昔を懐かしむだけのレトロ趣味ではありません。きっと、「昔の人間もこんなに凄かったんだ」と、新鮮な感動、大いなる刺激を、味わうことになると思います。

*イベントのお知らせ*

■ 知られざるモノラル・サウンドの世界!
~モノラル専用カートリッジで聴く「いい音&爆音」レコードコンサート~
ビートルズ、ローリング・ストーンズ、ビーチ・ボーイズ、クリーム、坂本九…

開催日:2022年5月26日(木曜)
開場:18:00
開演:19:00
料金:3,500円(税込)
会場:ケネディハウス銀座
ナビゲート:ふくおかとも彦(いい音研究所)、金田有浩(Golden Time Age CLUB)、太田秀樹(Re:minder) 監修:梶原弘希(カジハラ・ラボ) 主催:Golden Time Age CLUB、Re:minder、ヒビノ株式会社

カタリベ: ふくおかとも彦

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