北朝鮮国民の間で広がる「コロナではなく飢餓で死ぬ」恐怖

北朝鮮の国営朝鮮中央通信は16日、14日18時からの24時間で全国で39万2920人の発熱患者が発生したと報じた。4月末からの時点での累計では121万3550人で、うち56万4860人が依然として治療を受けており、死者は50人に達する。

最大非常防疫体系への移行に伴い、地域外への移動が禁止され、警戒が強化されている。咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

政府は、道、市、郡の境界線上に設置されている哨所(検問所)と、咸鏡北道、平安北道(ピョンアンブクト)、両江道(リャンガンド)、慈江道(チャガンド)の国境に向い道沿いにある国家保衛省(秘密警察)管轄の10号哨所に対して、警戒を強化し人の行き来を徹底して遮断することを指示した。

当局は、コロナ感染拡大と関連して、人の移動を防ぐことを最重要課題とみなし、早急に指示を下し、徹底した統制下に置いたものと思われる。

また、哨所を通過せずに境界線を行き来できる裏道についても、保衛部(秘密警察)、安全部(警察)、非常防疫指揮部が合同で統制しなければならないと強調している。さらに物資の移動も最大限減らし、政府の命令で運ばれる国家経済物品についても、コロナ対策関連の用品に制限するとのことだ。

全国に封鎖令が下され、住民からは「なんとか耐えしのいで生きてきたのに、さらなる難題がふりかかった」「ただでさえ餓死しそうなのに、封鎖とはあんまりだ」などと不満の声が上がっている。食糧が底をついた絶糧世帯が続出するなど、食糧事情が非常に緊迫している今の北朝鮮。「コロナより飢えで死にそう」との声が出るのも当然だろう。

一方、哨所の人員も困窮するのは一般住民と変わりない。

中国との貨物列車が運行再開されるなど、完全にストップしていた貿易が少しずつ動き出し、地域間を移動するトラックや行商人が増え、哨所で通行料名目のワイロがやり取りされていた。今回の封鎖令でそれが全くなくなるため、哨所の人員は収入が途絶えてしまうのだ。

一方、保衛部と安全部も困り果てている。各地域で行われている国家対象建設に関連して、必要な物資の調達を命じられているが、必要な砂、砂利、セメント、ディーゼル油、ガソリンなどを他地域から運搬できなくなってしまったのだ。

「政府はそんな実情に合わせて、国家対象建設の課題(ノルマ)を引き下げるわけでもなく、保衛部、安全部に対して『物資がなければカネを出せ』と締め上げている」(情報筋)

上述の通り、ワイロも入ってこなくなってきたため、物資も現金も納めるのは困難な状況だ。進行中の平壌住宅5万世帯建設などへの影響も避けられないだろう。

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