元キーエンス・トップセールスが「理解してない営業が多い」と指摘する問題点

企業の売上を作る「営業」という職種は、どんな人が向いているのでしょうか?

元キーエンスのトップセールス・天野 眞也( @amanotch_ch )氏の著書『シン・営業力』(クロスメディア・パブリッシング)より、一部を抜粋・編集して営業の原理原則について紹介します。


「口下手な人=営業ができない人」ではない

「営業ができる人とは?」と質問されたら、どんな人を思い浮かべますか?

おそらく多くの人が「コミュニケーション能力がある人」をイメージするのではないでしょうか?

では、コミュニケーション能力があるとは、何を指しているのでしょうか?おそらく「話がうまい人」だったり「商品やサービスの魅力を伝えるのがうまい人」など、「トーク」や「プレゼンテーション」のスキルの高さを指す回答が多いのではないかと思います。

もちろん、話がうまいことは営業の仕事に大きく生かされることでしょう。実際に、私自身、新人営業研修でつたないロープレをした過去はありますが、その後は場数と工夫を重ね続けて、どんどん話すことがうまくなっていきました。周りからも「天野さんは話がうまい」と言っていただけることが多々あります。

ただ、「話がうまい人=営業がうまい人」かといったら、それは違います。

例を挙げてご紹介します。キーエンス時代の私の部下に、口下手ながらも大きな数字を作り上げた若手社員がいました。彼の名前を仮に「カワちゃん」とします。私は、口下手だけれども実直さが取り柄なカワちゃんを、グローバルでシェアを伸ばす大企業の超重要案件の営業担当者に抜擢しました。社内の人たちからみたら驚きの指名であり、「なぜ彼を担当にするのか?」と反対意見もあったのですが、私はこの指名に自信がありました。それはなぜか? 彼の「実直さ」はお客様に寄り添えるという意味で大きな武器であり、製品の魅力を伝えるのが得意な営業よりも、お客様からは信頼されるだろうと思ったからです。

結果、この決断は当たりました。カワちゃんはお客様に向き合い、寄り添うことを大事にすることで、みるみる信頼を勝ちとっていったのです。

信頼を得るには、競合の営業にも勝たないといけません。キーエンスの競合にあたる会社がお客様にアプローチをしてきた際に、お客様のほうからわざわざカワちゃんに「君の競合から提案があって、安い見積もりを提示してもらったよ」と教えていただけることがありました。続けて、「もっとよい提案をしてほしい」というご要望を話されるのかと思いきや、比較検討のテーブルに上がることはなく「今回はキーエンスさんにお願いします」とご契約をいただいたのです。

ちなみに、カワちゃんはこの成功体験の後も、変わらずずっと口下手営業でした。それでも営業として成果を出せるという事実からも、「口下手な人が必ずしも営業ができない人ではない」と私は断言できます。

話せることより、聴けることこそが重要

なぜカワちゃんは営業担当としてお客様からの信頼を勝ち得たのでしょうか?それは、カワちゃんが「お客様の話を聴ける人」であったからだと私は考えています。彼は自分が口下手であることを自覚していたため、お客様の話を聴くことを何よりも大事にしていました。上司の私から見てもカワちゃんの「聴きに行く」という行動の徹底ぶりは凄まじいものでした。ある時、お客様企業の担当者一人ひとりに「◯曜日に◯◯の件でお伺いしてもよろしいですか?」と電話をかけていたのです。数名ではなく、片っ端からです。それがいいかどうかはお客様によると思いますが、ある意味、計算のないまっすぐなアプローチがお客様に気に入られる要因になっていました。そうしてお客様から課題を伺い、課題解決に向けて最適な提案を積み重ねていきました。

なお、お客様との最初の商談で、ほとんどの時間を自社サービスの説明に費やす営業担当者がいますが、これは後ほど述べますが典型的なNG行動です。

営業という仕事は人と接することから、「話がうまい人」「人と話すのが好きな人」が適職と思われがちですが、決してそうとは限りません。口下手営業でもお客様に向き合い、お客様が話すことにしっかりと耳を傾けることができるなら、適職と言えます。むしろ、話すのが得意だと思っている人で営業としての成果が出ずに悩んでいるなら、うまく話そうとするよりも、まずは聴くことを意識していきましょう。営業の成果がグッと上がると思いますよ。

図 話せることより、聴けることこそが大切

「営業」とは何なのか?

皆さんは「営業」をしているわけですが、そもそも「営業」って何なのでしょうか?営業という仕事の意味について考えたことはありますか?

「自社の製品やサービスを売るのが営業の仕事です」と考える方が多いと思いますが、もう一段視座を高めて営業の仕事を捉え直してほしいと思います。

私は営業の仕事を「お客様が事業・ビジネスを進める一歩目をつくる仕事」と定義しています。

「製品やサービスを売る」というのは、間違いなく営業に求められることですし重要です。しかし、主語が「自分」であるがゆえに、どうしても営業としての思考や行動が独りよがりになってしまいがちです。

例えば、目標を達成するために無理矢理売り込んだり、お客様にとって必要もないオプションをつけて売上を伸ばそうとする行動が起きてしまうのです。一方で、「お客様が事業・ビジネスを進める一歩目をつくる仕事」と捉え直したらどうでしょうか? 主語がお客様であるため、営業としての姿勢が変わります。

お客様がどのような事業やビジネスをしていて、これからどうなっていきたいのか?そのなかで自社製品やサービスがどのようにお客様に貢献できるか? そのように変わっていくはずです。

お客様が自社の商品を買ってくれたら、営業のあなたは嬉しいですよね。ただ、「買ってくれたことが嬉しい」と思っているうちは、営業の仕事を本当の意味では分かっていないのかもしれません。「お客様のビジネスの成長に役立てて嬉しい」という感覚を知れば、営業はもっと楽しくなりますよ。

法人について、理解していない営業は多い

法人向けの営業をされている方に質問です。「法人」とは何でしょうか?何のために存在しているのでしょうか?そして「生活者としての個人」と「法人」は何が違うのでしょうか?

「答えられそうで答えられない」という人が多いのではないでしょうか。でも、営業する上で「法人」を正しく理解しておくことは非常に重要です。一つひとつ紐解いていきましょう。

皆さんは法人が何のために存在しているかご存じでしょうか?

私は、研修やコンサルの機会をいただいた際には、営業の皆さんにこのような質問をすることがあります。しかし、質問してみると回答がだいたいバラつきます。

「社会に貢献するために」「国に税金を納めるために」といったような社会的使命が存在意義であると回答する人もいれば、「働く従業員の雇用を守るために」といったような回答をする人もいます。同じ営業という職種であるのにも拘らず回答がバラつくのは、つまり、多くの営業の皆さんが「法人」をしっかり認識できていないということなのです。

「法人が存在する理由」は、「利益を出すこと」にあります。

国のために、社会のためにといったビジョンを持つことは素晴らしいことですし、実際にビジョナリーな企業は日本にもたくさんあります。私の会社も「製造業から日本を盛り上げたい」といった大きなビジョンを持っています。しかし、法人である限り事業がうまくいかなければその先のビジョンの実現もあり得ません。だからこそ「利益を出すこと」が、どの企業にも言える共通の存在理由なのです。

法人の「買う」は「投資」である

営業として「法人」をより理解するために、「法人が製品やサービスを購入(契約)する理由」についても考えていきましょう。

先ほど、「法人の一番の存在理由は利益を出すことである」とお伝えしました。では法人が製品やサービスを購入(契約)する理由は何でしょうか?

それは「その製品やサービスを購入(契約)することが会社の利益につながるため」です。

なぜなら、法人の存在理由が「利益を出すこと」だからだということは前項で述べました。皆さんが勤める会社でも、様々な製品やサービスを利用していると思いますが、これらのすべては基本的に「利益を出すため」に購入(契約)しています。

つまり、言い換えるなら「投資」です。「利益を出すための投資」として、製品やサービスを購入(契約)しているのです。

ここで併せて、「投資」と「消費」の違いも確認しておきましょう。

あなたは「ウィンドウショッピングしていたら、セール中だったので、買うつもりのなかった服をつい買ってしまった」といった経験をしたことはありませんか?ちょっとテンションが上がってしまって気分で購入してしまうことがありますよね。私もつい大容量のお徳用食品を買ってしまって余らせてしまったことがあります。こうした「つい買ってしまった」という行動は、「生活者視点の個人」ならではです。これを「消費」と言います。

「消費」は満足感を得られたり楽しいひとときを過ごせたりすることがありますが、利益を生み出すことはありません。

そのため、法人は「消費」をすることはないのです。あくまで利益を出すための「投資」として、製品・サービスを購入(契約)します。何回もお伝えしたいほど重要なポイントです。

法人は利益を生み出すために「投資」をしているのです。

著者 天野眞也

[(https://www.amazon.co.jp/dp/4295406589)※画像をクリックすると、Amazonの商品ページにリンクします
「営業力」と言われると「コミュニケーションが上手い」「話し方が上手い」といったことを一般的に連想するが、そうではない。
その本質は「営業しない」営業にある。「営業しない」営業とは、「営業しなくても、お客さんのほうから仕事を提供してくれる」システムである。それをつくることができれば「売り込まなくてもいい」のである。
シン・営業力とは「営業しない」営業というコンセプトであり、それを具現化するための営業力として「観察眼」と「戦略眼」が必要だと説く。
AI時代が本格的に到来し、営業力が問われるなか、その本質をわかりやすく解説。
筆者がキーエンス時代から今に至るまで実際に使っている営業ツールも紹介していく。

© 株式会社マネーフォワード