優れた鉄道旅行の栄冠、頭文字に「J」の3社が連携した北海道一周旅行に 鉄旅オブザイヤー「鉄道なにコレ!?」(第30回)

By 大塚 圭一郎(おおつか・けいいちろう)

鉄道博物館に展示されたJR東日本の新幹線用車両400系(左奥)、E5系(中央奥)の前での受賞者らの記念撮影=4月20日、さいたま市(鉄旅オブザイヤー実行委員会提供)

 優れた鉄道旅行商品を選ぶ「鉄旅(てつたび)オブザイヤー」の第11回となる2021年度の授賞式が4月20日に鉄道博物館(さいたま市)で開かれ、日本一の「グランプリ」にJTBが主催して貸し切り列車で北海道を一周したツアーが選ばれた。JAL(日本航空)、JR北海道を含めて社名・ブランド名の頭文字に「J」が付く大手3社がコラボし、21年10月に3回催行した。授賞式当日の決選投票でこのツアーに一票投じた審査員の1人として高評価の理由を明かしたい。(共同通信=大塚圭一郎)

 【鉄旅オブザイヤー】国内の鉄道旅行に贈られる賞の代表格。旅行会社がその年度の10月までに催行または開催を決めた国内の鉄道旅行を対象として応募を募り、日本一となるグランプリなどの賞を選ぶ。2011年度に始まって毎年実施しており、授賞式を鉄道博物館で開催している。
 旅行業界でつくる鉄旅オブザイヤー実行委員会が主催し、後援にはJR北海道、東日本、東海、西日本、四国、九州のJR旅客6社全てと、私鉄でつくる日本民営鉄道協会、日本旅行業協会といった鉄道・旅行業界の主要企業・団体がそろう。
 旅行会社のツアーを対象にした旅行会社部門は実行委員会の一次審査で候補を選び、最終選考する外部審査員は委員長の芦原伸・日本旅行作家協会専務理事や筆者ら計10人・1団体が務めている。
 鉄旅オブザイヤーのホームページはこちら https://www.tetsutabi-award.net/

[(https://www.tetsutabi-award.net/) ▽応募件数は84%増

 旅行会社部門の21年度は旅行会社が20年11月から21年12月までに実施、または催行が決まった国内企画旅行が対象。応募件数は83件と、新型コロナウイルス禍前の前年度より84%増えた。今回は実行委員会が1次審査で最終候補を17件に絞り、筆者を含めた外部審査員が旅行のプロとしての企画力が感じられるか、独創性、乗車する列車や路線の魅力度など六つの項目を60点満点で採点した。
 団体旅行を対象としたエスコート部門賞、個人旅行が対象のパーソナル部門賞、鉄道愛好家向けの鉄っちゃん部門賞、JRグループと自治体が手がける大型観光企画「デスティネーションキャンペーン(DC)」の開催地への旅行を対象にしたDC賞の四つの主要部門賞を選出。それらの中から授賞式当日の投票でグランプリを決めた。

グランプリを獲得し、授賞式であいさつするJTBの松成諭さん(正面右)と日沼景子さん(正面左)=4月20日、さいたま市の鉄道博物館(鉄旅オブザイヤー実行委員会提供)

 グランプリに輝いたのは、エスコート部門に選ばれたJTB主催の3泊4日のツアー「貸し切り列車HOKKAIDO LOVE!ひとめぐり号で行く 秋の北海道4日間」。札幌駅を発着してJR北海道の多目的特急車両261系5000代を使った貸し切り列車を主に利用して北海道を一周した。釧路湿原のタンチョウの姿やオホーツク海の車窓を楽しめる釧網線などを通り、JALの客室乗務員が列車内で案内放送をするといったユニークな企画で参加者を楽しませた。

 ▽グランプリ予想が連続的中

 筆者は勤務先の契約社で、福岡県の「CROSS FM(クロスエフエム)」の番組「Urban Dusk(アーバンダスク)」(月曜日~木曜日午後5時~6時51分)に授賞式前日の4月19日に出た際、ナビゲーターの栗田善太郎さんから「グランプリを取るのは?」と聴かれた。鉄道を中心に利用して47都道府県全てを巡り、誠に微力ながら無報酬で審査員を引き受けて9年目を迎えた経験から「エスコート部門賞を受けた貸し切り列車などを利用して北海道を巡ったJTBのツアーが受賞すると私は予想しています」と断言。幸いにもその通りの結果となった。
 鉄旅オブザイヤーの旅行部門は、19年度までは1次審査を通過した全ての応募商品の最上位となったツアーをグランプリに選んでいた。筆者を含めた関係者は結果を事前に知っていたが、発表時までは一切口外しなかった。
 それが20年度からは授賞式が開かれる前に四つの主要部門賞を発表した上で、当日の決選投票(筆者を含めて授賞式に参加できない審査員は事前投票)でグランプリを選出する方式に変わった。
 グランプリの行方が授賞式当日まで分からなくなり、筆者は授賞式への関心を高めるために四つの主要部門賞の発表後に結果を予想するようになった。20年度は本連載「鉄道なにコレ!?」の第18回の「九州復興応援ツアーに2部門賞、『鉄旅オブザイヤー』グランプリは?」(https://nordot.app/752012463679946752?c=39546741839462401)で第三セクター鉄道を巡り、寺社で押印してもらう朱印から着想した「鉄印」を集めるツアーがグランプリの「『本命』と予想している」と記し、その通りになった(第19回「日本一の鉄道旅行に『鉄印収集ツアー』 https://nordot.app/759230906749911040)。21年度もラジオ番組で予想した通りになり、決選投票導入後に全て的中したことになる。

 ▽グランプリの商品を高く評価した理由

 JTBが主催した北海道一周ツアーを高く評価したのはなぜか。それは新型コロナウイルス感染拡大防止に最大限留意しながらも、ポストコロナ時代をにらんで本格的な旅行体験や、旅行会社ならではの珍しい体験を提供する方向にシフトしていく中で鉄道旅行の手本となる画期的なツアーだったためだ。

北海道・釧路湿原のJR釧網線沿線で見られるタンチョウ=2018年1月28日、北海道標茶町で筆者撮影

 受賞したツアーは札幌駅に集合し、解散という現地発着をベースとしながらも、1人当たりの参加費用が1人当たり11万9千円からと決して安くないため経済波及効果が大きい。列車内などで地元特産品を販売する機会を設け、その売り上げだけで計約113万円に上ったのも評価に値する。参加者にとっても貸し切り列車と観光バスを使って北海道の景勝地を効率的に巡れるようにしたのも利点だ。
 筆者は「北海道のように観光業が経済の柱となっている地域は新型コロナ禍の打撃が特に大きく、地域経済の再生には観光業の貢献が欠かせません。本商品は、ポストコロナ時代のツーリズムのレールを敷いた先行事例になったと感服しました」とコメントした。

北海道のJR釧網線沿線から見たオホーツク海と知床連山=2018年1月28日、北海道網走市で筆者撮影

 ▽「伊予灘ものがたり」の乗り納めも

 パーソナル部門賞は、近畿日本ツーリストの四国一周ツアー「『伊予灘ものがたり(道後編)』に乗る 5つの列車で四国一周の旅」が受賞した。JR四国の「四国フリーきっぷ」を活用し、観光列車「伊予灘ものがたり」の昨年12月に引退した初代車両「キロ47」に乗り納めするのを目玉に据えつつ、予土線で新幹線初代型車両0系に似せた「鉄道ホビートレイン」にも乗車できるようにした。

JR四国が特急「しおかぜ」で走らせている電車の8000系=2013年1月、香川県多度津町

 勤務先の初任地が松山支局だった筆者はこの商品にパーソナル部門の中で最高得点を付け「自由時間が長いのが魅力で、自己負担をすれば1日目ならば特急『南風』に琴平駅で乗る前に元京浜急行電鉄の車両などが活躍する高松琴平電気鉄道で移動したり、夜は高知市などで『とさでん交通』の路面電車に乗ったり、2~3日目は松山市内にある伊予鉄道の高浜線と路面電車の線路が交差する名所ダイヤモンドクロッシングを見物したりできます」と指摘した。

 ▽特急用車両に乗って洗車体験も

 鉄っちゃん部門賞には、日本旅行の日帰りツアー「271系新型ハローキティはるかで行く車両基地入線日帰りの旅」が輝いた。JR西日本の主に京都と関西空港を結ぶ特急「はるか」の新型車両271系の「ハローキティ」装飾編成で新大阪駅を発着し、近畿圏の車両基地を訪れた。
 参加費用を大人1万2800円、小学生1万800円、幼児3千円に設定。21年11月23日に運行し、新型コロナ感染拡大防止で設けた上限の164人が集まった。列車に乗ったまま車両を洗う機械を通る洗浄線を通過したり、運転席で記念撮影をしたりする機会を設けた。日本旅行によると、鉄道好きの親子連れらから「貴重な体験だった」との声が寄せられたという。

 DC賞には、JR東日本グループが21年7~8月に2回開催し、計59人が参加した旅行商品「『銀河リアス号』で行く“里と海のイイトコ取り”ツアー」が選ばれた。参加者が乗り込んだ蓄電池とディーゼルエンジン、モーターを併用するハイブリッド車両「リゾートあすなろ」が盛岡駅からJR釜石線を東進し、第三セクターの三陸鉄道の恋し浜駅(岩手県大船渡市)まで直通した。

 ▽西九州新幹線の暫定開業も

 旅行会社部門の主要4部門以外では、南海国際旅行の「南海・鉄たびシリーズ第35回 紀州路ローカル線 鉄道遺産めぐりの旅」が審査員特別賞、21年に発生から10年を迎えた東日本大震災で被災した三陸鉄道を訪れるJTBの「通って深まる旅の旅情、何度も通って地元の人々と心通わせる新しいスタイルの旅 いわて 三陸鉄道 通い旅」が国土交通省鉄道局長賞をそれぞれ受賞した。
 一方、DCが翌年度に開かれる地域への旅行企画を消費者から募った一般部門には81件の応募があり、「ベストアマチュア賞」には渡邊瑞貴さんの「『江戸時代にタイムスリップ!』東海道新幹線で行く~東海道五十三次 聖地巡礼の旅」が選ばれた。

 一般部門のベストアマチュア賞の表彰場面。一番右は渡邊瑞貴さんの代理で出席した女性=4月20日、さいたま市の鉄道博物館(鉄旅オブザイヤー実行委員会提供)

 22年は鉄道開業150年の節目となり、9月23日には西九州新幹線の武雄温泉(佐賀県)―長崎間が暫定開業するなどの明るい話題も待ち受けている。旅行業界が商品企画の絶好のチャンスを見逃すはずがない。新型コロナ感染拡大防止に気を付けながらも、参加者を楽しませる意欲的な鉄道旅行が“出発”していくことを強く願っている。

 ※「鉄道なにコレ!?」とは:鉄道と旅行が好きで、鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」の執筆者でもある筆者が、鉄道に関して「なにコレ!?」と驚いた体験や、意外に思われそうな話題をご紹介する連載。2019年8月に始まり、ほぼ月に1回お届けしています。ぜひご愛読ください!

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