【日本】【アジア本NOW】『「帝国」ロシアの地政学 「勢力圏」で読むユーラシア戦略』[政治]

© 株式会社NNA

ビジネスパーソンにおすすめのアジア関連書籍を、新刊を中心にNNA編集スタッフがセレクト。今号は、ロシアのウクライナ軍事侵攻の背景を理解するために読んでおきたい1冊を紹介。

■「国境=浸透膜」のロシア的論理

アジア経済にも大きな影響を及ぼしているロシアのウクライナ侵攻。その背景とロシアの狙いをより深く理解できるのが、気鋭の学者が記した本書だ。

著者の専門はロシアの安全保障政策と軍事政策。本書のテーマをロシアの「境界」を巡る物語とし、東西南北へ勢力圏の拡大を狙うロシアおよびプーチン政権の思惑を地政学の観点から読み解いていく。

北方領土をはじめとしたロシア周辺の国境問題には、ある種の特殊性があると著者は唱える。「それは国家の境界が線ではなく、よりあいまいなグラデーション状にイメージされる」と説明し、前者をフラスコ、後者を浸透膜にたとえる。ロシアが関与する国境紛争において論点となるのは「法的な国境線をどこに引くのか」ではなく、「ロシアの主権は国境を越えてどこまで及ぶか」という点が他国の紛争とは大きく異なると分析する。

「その典型例」と指摘するウクライナについては、1章を割いてじっくり解説。広大な国土を有する同国をロシアが勢力圏内にとどめておけるかどうかは、米国のカーター政権を支えたブレジンスキー元大統領補佐官の言葉を借りて、ロシアがアジアから欧州にまたがる「ユーラシア大陸」でいられるか、「アジアの帝国」になってしまうかの分水嶺(れい)であると記す。

発行は2019年だが、通読すれば22年のウクライナ侵攻が決して青天のへきれきではなかったことが理解できる。描写力豊かな紀行文や、ウオッカを酌み交わしたロシア人との交流エピソードもよい案配で挿入され、ロシアという国を包括的に知ることのできる良書だ。

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

『「帝国」ロシアの地政学 「勢力圏」で読むユーラシア戦略』

2019年6月25日

小泉悠(著)

東京堂出版 

2,640円 電子版あり データは印刷版

──────────────────────────────

■その他のBOOK LIST

※紹介文は版元から引用(原文ママ)、刊行データは印刷版

『新しい世界の資源地図 エネルギー・気候変動・国家の衝突』

2022年1⽉28⽇

ダニエル・ヤーギン(著)、⿊輪篤嗣(訳)

東洋経済新報社 3,520円 電⼦版あり

原油価格はなぜ激しく変動するのか? 米中関係はどうなるのか? 地政学とエネルギー分野の劇的な変化によって、どのような新しい世界地図が形作られようとしているのか? 地政学リスクから第一人者が読み解く『ウォール・ストリート・ジャーナル』ベストセラー。

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

『国際労働移動ネットワークの中の日本 誰が日本を目指すのか』

2022年4⽉

⽥辺国昭・是川⼣(監)、国⽴社会保障・⼈⼝問題研究所(編)

⽇本評論社 4,290円

アジア諸国から日本へ移住する人々は、どのような目的と手段で入国したのか。その実態と構造的な要因、今後の展望を詳細に分析。

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

『上海 特派員が見た「デジタル都市」の最前線』

2022年2⽉

⼯藤哲(著)

平凡社 1,012円 電⼦版あり

距離的にも歴史的にも日本とつながりが深い上海は記者を悩ませる「魔都」。強まる監視体制、世界を揺るがせる新型コロナ、デジタル技術の最前線……。巨大都市で何が起きているか。

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

『韓国カルチャー 隣人の素顔と現在』

2022年1⽉17⽇

伊東順⼦(著)

集英社 946円 電⼦版あり

韓国カルチャーが世界で人気を得る、その理由は? 韓国人にとってのパワーワード「ヒョン(兄)」の意味は? 一般富裕層とは違う、財閥の役割とは? 挨拶がわりの「ご飯を食べましたか?」が持つ意味は?(中略)、近年話題となった小説、ドラマ、映画などのさまざまなカルチャーから見た、韓国のリアルな姿を考察する。

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

『現代イスラーム世界の食事規定とハラール産業の国際化 マレーシアの発想と牽引力』

2022年3⽉24⽇

桐原翠(著)

ナカニシヤ出版 4,620円

マレーシアはいかにして現代に「ハラール産業」を広めたのか。宗教、政治、社会変動の相互作用を経て、制度としてのハラール認証が世界に拡がるメカニズムを探究。「食」の領域からのイスラーム世界論。

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

『モルディブを知るための35章』

2021年12⽉22⽇

荒井悦代・今泉慎也(編著)

明⽯書店 2,200円 電⼦版あり

「インド洋の真珠」と呼ばれ観光地のイメージが強いモルディブだが、実は様々な側面も持っている。本書はモルディブの全体像とともに、イスラム化の歴史、独特な教育制度、インドと中国の狭間での関係模索、気候変動に起こした行動などを描き出す。まだ知られていないモルディブを覗き見ることのできる類例なき一冊。

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

『成田空港検疫で何が起きていたのか ─新型コロナ水際対策の功罪─』

2022年1⽉27⽇

⽥中⼀成(著)

扶桑社 1,760円 電⼦版あり

空港検疫は、国内へのウイルス流入を阻止する最初の関門である。新型コロナ感染症のアウトブレイクにおいて、その水際の最前線で何が起こっていたのか? 元成田空港検疫所長による記録の書。

※特集「アジア本NOW」は、アジア経済を観るNNAのフリー媒体「NNAカンパサール」2022年5月号<https://www.nna.jp/nnakanpasar/>から転載しています。