中小企業庁に聞く!「価格転嫁」の現状と取り組み(後編) ~ 手形廃止に向けたロードマップ策定が急務 ~

―下請Gメンを増やした

 例年、全国120名体制の下請Gメンで年間4,000件程度の調査を行ってきた。今年度(2022年度)は、年間1万社の調査を行う計画で、248名体制に倍増させた。

―下請Gメンの調査をどのように活かすのか

 政策的な出口は、3つあると考えている。
 1つ目は、業種別ガイドラインや自主行動計画の改善。下請Gメンが集めてきた中小企業の声から、業界ごとの構造的・慣行的な問題を抽出し、各省庁の業所管課や業界団体にフィードバックし、取り組みを促す。
 2つ目は、下請振興法の指導助言への利用。
 そのために、手法も改良した。今までは業界ごとに無作為的に中小企業の声を聞いていたが、それに加えて、体制強化した下請Gメンから数人の「特別調査班」を編成し、問題の疑われる親企業の複数の取引先中小企業に対する水平展開調査に専従してもらっている。これが、個社に対する指導助言に生かされる。
 3つ目は、規制法執行に繋がる情報の取得だ。下請Gメンの役割は業界の状況を良い声も悪い声も客観的に把握することで、違法行為の摘発ではない。ただ、調査に入ったときに、たまたま下請代金法上の明確な違法行為が疑われる声を聞くこともある。その場合は、法執行を担当するチームに情報を共有し、親事業者に対する本格的な裏取をする。そこで裏付けが取れれば、下請代金法に基づく改善指導が入ることになる。

―約束手形廃止については

 2021年初頭に「中小企業等の活力向上に関するワーキンググループ」で全ての事業所管省庁の担当者に対し、所管業界の自主行動計画に約束手形の廃止を入れ込むことを要請した。現段階では全業種で2026年の利用廃止という目標が立っている。
 課題は、廃止目標に向けた具体的なロードマップが各業界でまだ立っていないことだ。このまま途中段階の段取りを決めないでいると、目標がなし崩しになると危惧している。

中小企業庁

‌取材に応じる中企庁取引課・遠藤課長(撮影時のみマスクを外しました)

 対応するための取り組み強化が2つある。
 1つは、産業界に対して2026年の廃止に向けた段取りを自主行動計画に加えて欲しいということ。ただ、各業界からは、自分の業界だけで取り組むには限界があるとの意見も多いので、まずは各業界で他の業界に要請したいことを中企庁宛てに寄せてもらい、整理したものをフィードバックすることで、自主行動計画に反映してもらう予定だ。
 もう1つは、いつまでも約束手形が使える状態では、自主的に利用廃止を検討するモチベーションも出てきにくいので、金融業界に2026年の手形交換所での約束手形の取り扱い廃止を検討してもらう。手形交換所の運営主体は銀行なので、政府が強制力をもって口出しする立場にはないが、少なくとも政府からの要請を受け、銀行業界が検討に入ったというのは、産業界に対するメッセージになると思っている。
 これは車の両輪でもあり、手形の流通量が実際に少なくなっていけば銀行も最終的に廃止の決断をすることになるだろうし、産業界も銀行が手形取り扱い廃止の方向に進むのを見て、使用をやめることになるだろう。

―でんさいの扱いは

 我々の立場としては、紙の約束手形をやめる際、現金払いにするというのが大前提だ。手形の廃止を掲げているのは、サイトの長い支払い手段が中小企業の資金繰り圧迫の要因になっているからだ。それを単純にでんさいに切り替えます、では根本が解決しない。
 ただ、直ちにすべてを現金払いに切り替えられない事情のある業界や会社もあるので、緊急避難的措置としてでんさいというオプションも用意しているという位置づけだ。

―2024年には手形サイトが短縮される

 手形廃止の前段として、下請代金法の運用基準を改正し、2024年以降は60日を超えるサイトの手形は、割引困難な手形として取り締まりの対象にするという方針を決定している。今は90日や120日の手形を使っているところも多いので、まずはどの企業も、2024年までにはすべての手形のサイトを60日以内にしてもらいたい。
 注意したいのが、サイトのある支払い手段すべてにおいて60日を超えるものは違法になるということだ。でんさいやファクタリングなら90日や120日にできると思ってもらっては困る。その際、中途半端なサイトの手形を使い続けるくらいなら、いっそのこと現金払いにしようという方向に進むのを、我々としては強く期待している。

―パッケージは政府横断的な取り組みだ

 中企庁としては2016年に「未来志向型の取引慣行に向けて」を公表した時から他省庁と連携してきていたので、パッケージによって仕事のスタンスや各省庁との関係が変わったといったようなことは特にはない。ただ、官邸主導のパッケージがあると、各省庁との話がよりスムーズになっているのは確かだ。
 また、いままで個社ベースで違法行為を摘発してきた公正取引委員会が、我々と一緒に業界単位の調査等を行うことで、法律に基づく取り締まりの執行に活かされるようになった。これは政策として、ものすごく進展したと思っている。

―中企庁ならではの強みは

 中企庁では、違法行為の取り締まりだけでなく、ここで紹介した業種別の自主行動計画、パートナーシップ構築宣言、下請Gメンのヒアリングや下請振興法に基づく指導助言などによって、「明確な違法行為ではないが業界の慣習としてよくない」ものを改善・改革していくことができる。そういう働きかけをできるのが一番大きな強みだと思っている。

 収束見通しの立たないコロナ禍やウクライナ情勢などで、円安、資源・原材料高の先行きは不透明な状況が続く。それだけに中小企業にとって、「価格転嫁」は重要かつ緊急の課題でもある。一方、発注側の企業にとってもサプライチェーン維持には、下請など取引先との共存共栄が重要度を増している。
 産業界の健全な発展と取引のさらなる適正化に向け、産業界、政府機関による一層の連携への期待が高まっている。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2022年5月20日号掲載予定「WeeklyTopics」を再編集)

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