「障害者が生きやすい社会を」 鎮西学院大で学び直す 草原比呂志さん(54)

「学び直して障害者が生きやすい社会づくりを目指したい」と語る草原さん=諫早市、鎮西学院大

 社会人になってからの学び直し「リカレント教育」が今、注目を集めている。学び直しの理由は「資格取得のため」「専門性を高めたい」などさまざま。諫早市西栄田町の鎮西学院大にも今春、障害福祉分野の第一線で活躍してきた草原比呂志さん(54)=熊本県八代市出身=が3年生として入学した。「しっかり学び直し、障害者一人一人が何を必要としているかを見詰め、彼らが生きやすい社会づくりを目指したい」と意気込んでいる。
 母子家庭で育ったことにコンプレックスがあり、中高時代は周囲とケンカが絶えなかった。中学の時、担任が「親がいない子どもの気持ちは誰よりも理解できるはず。同じような境遇の子に優しくできる大人になれ」と声をかけてくれた。
 その恩師の勧めで35年前、同大の前身である長崎ウエスレヤン短大の教養科社会福祉コースに進学。「勉強より遊ぶことが好きな不真面目な学生」だったが、恩師の言葉に導かれるように福祉への道を歩き始めた。
 1989年に同短大を卒業後、現副学長である中野伸彦教授の勧めで約1年間タイに留学。そこで自分の言葉をそっくり返してくる女の子と出会った。日本語が話せると思ったが違っていた。自閉症の特徴である聞こえてきた音声をまねする「即時性エコラリア」と帰国後に知った。
 留学から戻ると、妻の出身地である香川県へ。知的障害児入所施設の児童指導員として働き始めたが、何年も担当している児童より年下の自分の子どもが、発達面で追い抜いてしまった。「専門職としての役割を果たせていないのでは」と力不足を痛感。「もっと早い段階での療育や将来を見据えたトータルマネージメントが必要では」と医療・福祉・教育の連携にも課題を感じた。障害者が高齢になり、介護保険適用になると病院や施設をたらい回しにされたり、不必要に拘束されたりするなど本人の意志とは別の「支援」になっている現実もとげのように心に刺さった。
 東日本大震災では現地ボランティアとして子どもたちの心のケアを担当。現在でも心の傷が癒えない子どもは多く、3カ月に一度福島県を訪れるほか、オンラインで相談に応じる日々。臨床を続けるほど、自分の言葉が相手の人生を左右し、まだまだ知識不足と思うようになった。
 「今こそ大学へ戻り、勉強したい」。今年3月、高松市内の障害児者福祉施設を退職。原点となった“母校”の社会人入試を受けた。夜は自ら立ち上げたNPO法人の相談業務を続けながら、研究テーマであるフラッシュバックやトラウマ(心的外傷)の臨床、トレーニング方法、知的障害を伴う自閉症患者の終末期医療の在り方などを研究する。
 「行政や地域と一緒に、これまでにないサービスは新たに作りながら、持続する支援の在り方を考えていければ」と抱負を語る。
 中野教授は「学問はテーマを見つけた時がスタートの時期。学びたい人に開かれた場所でありたいと考える本学にとって草原さんはその良き例。歓迎したい」と話した。


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