【レビュー】ひとりの在日クルド人少女が大切にする日常と想い―『マイスモールランド』

司法制度に切り裂かれる家族を描いた作品としては、今年2月に公開されたアメリカ映画『ブルー・バイユー』のエモーショナルな感動もまぶたに残るが、同じ感動作でも本作は一人の女子高生の普通の日常生活や思春期の感覚に丁寧に寄り添った映画だ。

入管での待遇問題などが大きくニュースでも報道される日本で、在日クルド人の女子高生の立場にフォーカスした映画は珍しいかもしれない。

確かにクルドは日本にはあまり馴染みのない地域、民族かもしれない。

戦争により国を失ったクルド人は現在トルコ、イラン、イラク、シリアなど中東にその多くが居住しているが、日本にも約2000人のクルド人が生活を送っている。

サーリャもそんな在日クルド人のひとりだ。

日本で育った彼女は17歳になり埼玉県の高校に通っている。

高校では他の日本人と変わらず仲の良い友達がいて、将来の夢のため大学進学を目指してバイトもしている。

そのバイト先で出会った高校生の聡太とも最近仲良くなり始めた。

そんな中、クルド人である家族の難民申請が却下されて在留資格を失ったことから、彼女の日常は一変していくことになる。

映画のテーマを見事に伝えるのは、そのしっかりとしたストーリーだけでなく、サーリャを演じる嵐莉菜の爽やかで儚い魅力だ。

実際に彼女はイラン、イラク、ドイツ、ロシア、日本の5カ国ものルーツを持つ。

オーディション時に監督からの「自分は何人だと思いますか?」との質問に対して「私は日本人って答えたいけど、まわりの人はそう思ってくれない」と自らの葛藤を打ち明けたこともキャスティングの決め手の一つになったそうだ。

彼女が演じるサーリャに十分な説得力と共感力をもたらしてるのは、その顔つきだけでなく自身のルーツを通して形作られた内面だろう。

サーリャの戸惑いに真摯に向き合う高校生の聡太を演じる奥平大兼の存在感や自然な演技も忘れがたい。

彼女の出自を何ら特別視するわけではなく、知らない知識に対して素直に心を開いて感じていく少年のごく自然な振る舞い。

映画を観ているこちらの揺れ動く心を最後まで代弁してくれる存在こそ彼だ。(ちなみに、自分が女子高生だったら、こんな男の子絶対すぐ好きになってしまう!)

監督・脚本を務めたのは本作が商業映画デビュー作になる川和田恵真

是枝裕和、西川美和監督らを中心に活動を行う映像集団「分福」の若手監督だ。

偶然かもしれないが、本作も、育児放棄をテーマにした是枝監督の『誰も知らない』のように、社会や大人たちの犠牲になる子供たちの純真さやひたむきさへに対しても温かい眼差しを向けている。

入管の司法制度に関する難しい問題にひたすらに踏み込んだややこしい映画というわけではない。

この世界で起きている出来事について考える機会を提供してくれる作品だ。

この映画に込められたたくさんの「何かを大事にしたい」という想いは、スピーディーに画一化された今の世の中で何度も反芻される価値があると感じた。

『マイスモールランド』

■出演:嵐莉菜、奥平大兼、平泉成、藤井隆、池脇千鶴、アラシ・カーフィザデー ほか
■監督・脚本:川和田恵真
■配給:バンダイナムコアーツ

©︎2022「マイスモールランド」製作委員会

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