たばこで損していませんか?~看護職は見た!喫煙者に降りかかる困難と禁煙への手がかり~

たばこ税で社会貢献している?健康面、社会面での損失は?

「たばこを吸うのは、やめるべきだ」
そんな言葉にうんざりしている方、耳が痛くなる方もいるのではないでしょうか。

また、喫煙所を発見した時には、砂漠でオアシスを見つけたような気持ちになる方もいるかもしれません。

今回は、喫煙者の皆さん、あるいは大切な人が喫煙者である方に、禁煙について少し考えてみるきっかけとなるよう、健康に関してのみではなく、社会的視点も踏まえたこともお伝えします。
さらに、企業ができることについても事例を踏まえてご紹介します。

皆さんは、たばこにかかる金額の中でも、税金が占める割合が大きいことは聞いたことがあるかもしれません。
この税金は、国たばこ税、地方たばこ税、たばこ特別税、そして消費税が含まれています。
それら税金は、一般的なたばこ購入料金の60%以上を占めています。

「こんなに税金を納めているなら、たばこを吸うことで社会貢献になっているのでは?」
いえ、そうとは言いきれません……。

東京大学大学院薬学系研究科 五十嵐中らの研究によると、2010年のデータにおいて、たばこによる経済的な損失は、火災などの環境的損失、喫煙による医療費や介護費、また、それによる生産性損失など、合計4兆3,200億円であると推計されています。
それに対し、たばこによる税収額が、2兆1,000億円でした。
つまり、2億2,200憶円もの損失過多であることを示しています。

なにより、皆さんご存知だと思いますが、健康面での損失は言うまでもありません。

たばこの煙には、およそ5,300種類もの化学物質が含まれており、発がん性のある物質だけで70種類程度あります。
たばこと関連してイメージされやすい肺がん、その他呼吸器疾患のみでなく、他の臓器のがん、心臓や脳の血管の病気、糖尿病、認知症、歯周病や関節リウマチまでも引き起こす可能性があります。

また、それは喫煙者本人だけでなく、周囲の人へも大いに影響します。
つまり、親や子など大切な人に、健康に係わるリスクを負わせているのです。

看護職の実体験より:たばこに依存する患者Aさんの困難

筆者が看護師として病院に勤務していた中で出会った、たばこの依存性を目の当たりにした例をお話します。

入院中の患者さん、とくに手術を受ける場合や、心臓・呼吸器系の病気で治療を受ける場合は必ず禁煙してもらいます。
会社員である患者Aさんは糖尿病を悪化させ、足を切断する手術を受けた方で、手術後は車いすに板を取り付け、そこに手術側の足を乗せて負担をかけないよう努めなければならない状態でした。

病院の敷地内は禁煙です。
しかし、病室を訪問すると、Aさんからはたばこの臭いがしていました。
本人に喫煙していないかと聞くと、「たばこを吸う友達が見舞いに来ていた」と答えていました。
私は疑問に思いつつも、その言葉を信じるしかありません。

しかし、筆者が仕事終わりに同僚と病院の近くを歩いていると、脇道で車いすもなく、壁にもたれて喫煙するAさんを偶然発見しました。
まだ松葉杖を使用する時期ではないので、片足のみで移動したのです。
きつい移動と喫煙の影響で、息を吐く時に、ヒューヒューと音を出しながらも急いで喫煙するその様子に、少し怖さも感じました。

もちろん喫煙することの手術部位への影響は医師からも看護師からも説明されています。
放っておくわけにもいかず、同僚に車いすを持ってきてもらい、Aさんを病室まで連れ帰りました。
事情を他の職員に説明し、その日からAさんは要注意患者さんとして職員間でエピソードを共有しました。

ですが、おそらくその後も病院を抜け出して喫煙してようです。
喫煙以外にも、治療に対して協力的でない部分はあり、入院期間は予定より延びていき、それにより休職期間も延長しました。

禁煙すると何がいいの?禁煙の3つのメリット

禁煙することのメリットを3つ挙げます。

① お金が浮く
② 仕事の生産性が上がる
③ 周囲からの評価が良くなる

上記について詳しく説明をします。

① お金が浮く

禁煙をすると、喫煙に伴う出費が減らせます。
単純にたばこの購入代だけではなく、たばこが要因となりうる病気にかかる医療費、タバコの煙で汚れた部屋の清掃費用が削減できます。
さらに、喫煙スペース目当てに入った店での飲食代も削れるかもしれません。
これらの費用が削減できるのは、大きなメリットでしょう。

② 仕事の生産性が上がる

これは、喫煙による生産性の低下を避けることが出来るということです。

たばこに含まれる “ニコチン” の依存性は有名です。
ニコチンは、煙を吸って数秒以内に脳へと到達し、快楽を感じさせるドパミンやセロトニンなどの物質の分泌を促進します。
ただ、ニコチンは体から消えるのも早く、喫煙後30分程度でおよそ半分は消えていきます。
そうすると、ニコチンにより安定していた気持ちがザワザワしたり、イライラしたりするのです。

本来は、ニコチンがなくても自力で快楽を感じさせる物質は分泌されます。
しかし、たばこを吸い続けることで、徐々にニコチンに対する体の取り込みと、快楽への反応がスムーズかつ強力になり、ニコチンに依存してしまうのです。
そのため、ニコチンが体から消えていくと、仕事への集中力が落ちたり、喫煙するために仕事を中断したりし、結果的に仕事の生産性が下がってしまいます。
禁煙することではじめは生産性が落ちることもあるかもしれませんが、ゆくゆくは、集中力の維持やたばこ休憩がないことによる労働時間の増加により、生産性の向上が見込めるでしょう。

③ 周囲からの評価が良くなる

禁煙をすると、家族、友人、さらには職場の上司や同僚などからの評価がアップします。
「禁煙は辛いものだ」という認識は、多くの人が持っているかと思います。そして、そう思っているのは喫煙者だけではないはずです。
喫煙者であることが周りに知られている方が、禁煙にチャレンジするだけでも周りからの目は少なからず変わるはずです。

また、喫煙者は採用しない企業もありますし、婚活パーティでは喫煙者は参加できないものもあります。
それらを踏まえると、禁煙することで、周囲の評価は上がることはあっても、下がることはないでしょう。

企業ができる喫煙対策

健康増進法が改正され、2020年4月1日より施行され、すでに2年が経過しました。
企業としても事業場内での対策として、喫煙室の整備や、従業員への周知などに苦労されたと思います。

しかし、事業場外ではいかがでしょうか?
もし従業員が、外出先や通勤途中に喫煙禁止区域で喫煙をしてしまった場合は、監督が難しいですね。
事業場外、ましてや就業時間外での喫煙は、企業側は無視して良いものなのでしょうか。

事業場外での行動についても、いつ、どこで、誰が見ているか分かりません。
従業員に対する悪いイメージは、企業に対するイメージにつながります。
四六時中、従業員の行動をチェックすることは出来ませんし、たばこの依存性の強さを考えると、「だめなものは、だめ」と伝えるだけでは足りません。

そこで、企業としては、従業員が喫煙をしなくても済むように、「禁煙できるように支援」することも重要です。
一例として、大鵬薬品株式会社での取り組みをご紹介します。

喫煙している社員に対する支援
・ 希望者全員に対する禁煙外来費用補助(オンライン外来含む)
・ 禁煙外来(保険診療):成功時、自己負担分全額会社補助
・ 会社が指定したオンライン禁煙外来(自由診療):自己負担額1万円で受診可能
・ 卒煙に成功した社員から学ぶ卒煙のコツの共有

その他にも、喫煙者は新規採用しないことや、役職任命時の考慮要素とすることなどを示しています。
喫煙者の禁煙支援に、費用や時間がかかるので、それぞれの企業の強みを探しながら、できることから着実に取り組んでいくことが重要です。

今回は、喫煙や禁煙について、喫煙者本人、周囲の人、社会、企業などの視点でお伝えしました。
喫煙者の皆さんは、禁煙について少し考え、そして大切な人が喫煙者の皆さんは、喫煙をやめてもらおうと思うきっかけになれば幸いです。
さらに、企業での喫煙対策が進み、より良い企業が増えていくことを願っています。

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