小さなけなし

 辞書の域を超えた味わいが、新明解国語辞典(三省堂)にはある。旧版で「恋愛」を引いてみる。〈特定の異性に対して他の全てを犠牲にしても悔い無いと思い込むような愛情をいだき…〉▲感極まるような、情熱的な説明が続く。〈常に相手のことを思っては、二人だけでいたい、二人だけの世界を分かち合いたいと願い…〉。さらに続くが、引用しきれない▲この味わいを保ちつつ、辞書は社会の変化も映し出す。「恋愛」の説明で〈特定の異性に対して〉とあるが、おととし改訂された最新版では〈特定の相手に対して〉に変わり、男女の枠が消えた▲「男がすたる」といった慣用句を最新版で削った辞書もある。では「女性なのにすごい」はどうか。辞書に用例はないが、こうした言い回しは「小さなけなし」、横文字では「マイクロアグレッション」と呼ばれ、もっと意識されるべきだと指摘される▲女性はこうで男性はこう…という思い込みがあり、それを外れると「女性なのに」などと口走る。悪気はなくても、言われた人の心には傷が残り続けるのだと、おとといの記事にある▲「女性なのに」「男のくせに」。言葉一つ一つの“偏り”を一人一人がわきまえるしかないのだろう。日頃の言い回しは辞書のようにある日、ごっそりと更新することはできない。(徹)

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