短いリードに酷い臭い…あるゴールデンレトリバーの外飼いに感じた疑問 暑さに弱く夏は熱中症リスクも【杉本彩のEva通信】

ゴールデンレトリバー

最近たまたまつけたある人気テレビ番組で、こんなシーンを目にしました。番組は、芸人さんが地方の町を散策し、その町のお店を訪ねたり、出会った住民と会話を交わすというもの。

町を歩いていると、あるお宅の敷地内に繋がれたゴールデンレトリバー犬がいました。家の前の駐車場のようなスペースに、大型犬のサイズには合わないかなり傷んだ木製の犬小屋があり、門もフェンスもないので、誰でも犬に触れることが可能です。家から出てきた飼い主と、自然に犬の話しになり、芸人さんに撫でられた犬はお腹を見せて喜んでいたので、とても人懐っこいことが窺えました。

一見微笑ましい光景に見えますが、短めのリードに繋がれている外飼いのゴールデンレトリバーに違和感を覚えるのは、私が散歩や動物病院で見かけるゴールデンレトリバーとはずいぶん様子が違うからです。私が知るゴールデンレトリバーは、手入れが行き届いていて、ウェーブのある少し長めの黄金色の毛がとても美しく、外飼いの安全とは言えない環境で飼育されていることはないでしょう。しかし、その犬は、劣悪な繁殖場で飼育されている犬のように、見るからに汚れているわけではありませんが、外飼いのせいか、明らかに大切にされているゴールデンレトリバーとは毛並みが違います。そして、芸人さんがそのお宅を離れた直後、「犬の臭いが酷っかったなぁ、犬のあんなくさい臭いは初めてだなぁ」と、少し離れたところからもすでに臭っていたようで、驚きを隠せないコメントが、やさしい口調ではありますが連発されていました。おそらく、その芸人さんは犬との触れ合いも多く、犬好きだったのかもしれません。そのためか、これは何かおかしいと、とても違和感を覚えたのでしょう。しかし、それを動物愛護や福祉の観点から、テレビが疑問視せず放送したと推察します。

要するに、この放送から私が感じたのは、飼い主は犬を可愛がっていないわけではないが、犬を飼育する環境や世話はそれで充分だ、という悪気の無さでした。そして、放送する側のテレビも、それが飼い主にとって不名誉なことだという認識を持っていないのだと感じます。そもそも犬が快適に安心して過ごせるか、という犬の気持ちを考える視点が飼い主に足りないのは明らかです。動物が快適に暮らせる環境を与えるのは飼い主の義務ですが、それがどういう環境なのかという認識はまちまちです。しかし、注意してほしいのは、その動物にとって必要で快適な環境を理解していないと、虐待やネグレクトに繋がってしまうおそれがあるということ。知識がないがゆえに招いた悪気のないことであっても、動物が苦しむことに変わりありません。

たとえば、動物愛護管理法の改正を受けて具体化された犬猫の飼養管理基準について、環境省が事業者向けに作成した「動物取扱業における犬猫の飼養管理基準の解釈と運用指針~守るべき基準のポイント~」というものがありますが、これは一般飼い主にも当てまることです。

このガイドラインには、以下のように記されています。

飼養施設に温度計及び湿度計を備え付け、低温・高温により動物の健康に支障が生じるおそれがないように飼養環境を管理すること。臭気により飼養環境又はその周辺の生活環境を損なわないよう清潔を保つこと。

しかし外飼いの場合、地域や環境によっては上記の基準を充たすのはとても難しいことです。ゴールデンレトリバーの飼育環境の温度は25度前後が適正とされています。ダブルコートなので寒さには強いようですが、暑さにはとても弱い犬種です。また、湿気も苦手なので湿度50%以上にならないよう注意が必要です。

これらの知識を得た上で番組を見れば、適正飼養とは言えない環境であることは、誰の目にも明らかだと思います。動物を飼うなら、その種の生理生態と習性を理解していなければ、動物に苦痛を強いることになります。けれど飼い主は、自分が動物に苦痛を与えているという自覚がないのです。なぜなら、動物たちは与えられた環境に文句を言うこともなく、ひたすら耐えるから。短いリードに繋がれて極端に行動を制限されている不快な状況であるにも関わらず、やさしい顔で尻尾を振って、お腹まで見せて甘えてくれるからです。そんな健気な動物たちが気の毒でなりません。

特に、これから暑くなる季節は、犬も猫も充分に、温度と湿度には気をつけてほしいと思います。暑さにより健康に支障が生じるおそれがありますから、開口呼吸などがないか注意する必要があります。犬の場合、運動をしていないのにパンティング(ハアハアと口を開けて呼吸して熱を蒸散させる行為)をしていたり、呼吸が浅く早くなったりしたら危険です。

犬は暑い時、熱を蒸散させるパンティング、体を冷たいものに直接触れさせて熱を逃がす、水をたくさん飲むなどの行動をとって体温調節を行います。熱中症の初期症状として、パンティング、よだれ、 歯肉や舌、結膜などの充血やうっ血、頻脈などがあります。重篤化すると、ぐったりとして意識がなくなり、嘔吐、下痢、ふるえ、意識消失、けいれん発作、呼吸不全などを生じる場合もあるようです。

そして、当然ですが猫にも温度と湿度の管理が必要です。猫は通常、開口呼吸をしないため、パンティング状態が見られたら危険です。犬と同じく、熱中症になると、呼吸が浅く早くなる、パンティング、よだれ、けいれんという症状があらわれます。

猫は暑い時、日陰や涼しい場所に移動したり、体を冷たいものに直接触れさせて熱を逃がしたり、地肌をなめて体の表面を濡らして体温を蒸散させます。暑い部屋や車内に閉じ込められるなど、自由に涼しい場所に移動できない状況では、熱中症のリスクがあります。

このような不適切な状況下に犬猫が置かれる問題が毎年のように起こり、当協会にも通報がきます。熱中症が重症化する前に初期段階で気づいてあげることはもちろん大切ですが、そもそも命を落とすこともある熱中症などならないように、徹底した温度・湿度管理を心がけてほしいと思います。(Eva代表理事 杉本彩)

⇒連載「杉本彩のEva通信」をもっと読む

※Eva公式ホームページやYoutubeのEvaチャンネルでも、さまざまな動物の話題を紹介しています。

  ×  ×  ×

 杉本彩さんと動物環境・福祉協会Evaのスタッフによるコラム。犬や猫などペットを巡る環境に加え、展示動物や産業動物などの問題に迫ります。動物福祉の視点から人と動物が幸せに共生できる社会の実現について考えます。  

© 株式会社福井新聞社