長崎IRの行方 「資金調達 厳正審査を」渡邉雅之氏 区域整備計画審査へ 識者インタビュー<上>

渡邉雅之氏

 長崎県が佐世保市のハウステンボスへの誘致を目指すカジノを含む統合型リゾート施設(IR)で、県は国にIR区域整備計画の認定を申請した。全国では長崎県と大阪府・市の2地域のみ。今後の審査のポイントや計画の妥当性などを識者3人に聞いた。

 -IR区域整備計画はどのように審査されるのか。
 まず、基本的な要件となる「要求基準」に適合しているかが確認される。適合する場合は、優れた計画を認定するための「評価基準」に従い、外部有識者の審査委員会が採点する。
 IRの基本方針において、要求基準は国が先に確認し、審査委を経ないようにも読める。ただ、長崎県と大阪府・市の申請を受けて国が公表した文書を読むと、審査委が要求基準と評価基準を同時に審査する可能性もありそうだ。

 -要求基準と評価基準のどちらが認定の鍵を握っているか。
 国は「3を超えない範囲内で優れた計画を認定する」としている。当初は多くの地域が申請すると予想し、評価基準で相対的に数を絞るつもりだったのだろう。
 だが、今回の申請は、認定数の上限に届かない2地域のみだった。二つの計画を比べ、評価基準の点数に大きな差があったとしても、要求基準を全て満たしているのであれば、「優れた計画ではない」という理由で認定しないのは困難ではないか。要求基準に適合しているか否かが重要になるだろう。

 -長崎県は出資や融資をする企業を公表せず、資金調達の蓋然(がいぜん)性(確かさ)に疑問の声が出ている。
 資金調達は要求基準に含まれ、収支計画の前提となる。資金調達ができなければ、施設の建設などができないので、しっかりとした審査が必要となる。
 長崎IRは借入金などを約2630億円と想定しており、金利が1%変動するだけで、費用負担が年間20億~30億円増減する。予定より高い金利で借り入れることとなれば、運営時の収支計画を大きく見直す必要が出てくる。資金調達の蓋然性を欠く収支計画は、実現可能性のない「絵」を描いているとも言える。

IR認定審査の基準

 -県は、出資や融資の意向を記したコミットメントレターなどを企業から取得しており、資金調達はできるとする。
 「コミットメントレター」という名をつけただけの単なる「意向表明書」だと意味がない。レターの記載内容が法的拘束力を有するのかどうか、出資や融資をする者(会社)がどのレベルで機関決定しているかが重要となる。

 -国に求めることは。
 2地域のみの申請となったが、基本方針にのっとった厳正な審査を望む。特に資金調達の蓋然性が示されていなければ、IRが建設途上で頓挫する可能性もあり、計画の変更や議会での再議決、国の再認定が必要となる事態にもなりかねず、ひいてはIRの制度全体に対する国民の信用性も失われかねない。

 【略歴】特定複合観光施設区域整備推進会議委員 渡邉雅之(わたなべ・まさゆき) 1970年生まれ。茨城県出身。東京大法学部卒。三宅法律事務所(東京)所属弁護士。2017年に有識者でつくる特定複合観光施設区域整備推進会議の委員となり、政府に「日本型IR」の在り方を提言した。


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