トム・クルーズが長く続くコロナ禍の鬱憤を晴らす!アン・ハサウェイ、アンソニー・ホプキンス共演の話題作にも注目!【カンヌ映画祭レポート】

『トップガン マーヴェリック』上映後の花火大会(撮影:筆者)

カンヌは“戦争の影響を受けやすい”映画祭

75回の記念の年を迎えたカンヌ国際映画祭。正式な第1回は1946年だが、実は1939年から開催される予定だった。が、オープニングの日にドイツ軍のポーランド侵攻が始まり、映画祭どころではないと中止に。戦後46年になって改めて第1回を開催したという経緯がある。歴史的にカンヌは“戦争の影響を受けやすい”映画祭と言える。

カンヌ映画祭に集まった観衆(撮影:筆者)

2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻するとすぐ、カンヌはロシア代表団の参加を拒否、その後、ロシア人ジャーナリストの参加も拒否する措置をとった。一方で、ロシア人監督キリル・セレブレニコフがロシア人俳優を使ってモスフィルム撮影所で撮った『チャイコフスキーの妻(仮)』(2022年)はコンペティションに残っていた。このことに矛盾はないのか。オープニングの前日に開かれたティエリー・フレモー代表の記者会見でも同様の質問が出たが、“侵攻前に決まっていたことなので”というだけで、明快な答えは得られなかった。

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スターの力は偉大!トム・クルーズがカンヌ映画祭をド派手に盛り上げる!

こうして戦争と政治のダブルスタンダードの憂鬱の中で始まった今年の映画祭だが、そのモヤモヤを吹き飛ばしてくれたのがトム・クルーズの登場だった。『トップガン マーヴェリック』(2022年)がコンペ外特別上映された18日夜、レッドカーペットを歩くトム・クルーズの頭上でフランス空軍アクロバット飛行隊が3色の飛行機雲を描き、映画が終わってトム・クルーズがレッドカーペットに再登場すると同時に夜空に花火が上がるという大歓迎。ひと目トムを見ようと会場前に詰めかけた人々も大喜びで、長く続くコロナ禍の鬱憤を晴らすような、爽快な夜だった。スターの力は偉大である。

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『アルマゲドン・タイム(原題)』少年の友情と、周囲の差別

さて、これまでに上映されたコンペティション部門の作品で、私の心に最も残ったのは、ジェームズ・グレイ監督の『アルマゲドン・タイム』(2022年)だった。80年代のニューヨーク、クイーンズを舞台に、ユダヤ人家族の10歳の少年ポールとクラスメートの黒人少年との友情が、周囲の無理解と差別によって取り返しのつかないところにまで追い詰められていくさまを描く。母(アン・ハサウェイ)、父(ジェレミー・ストロング)、祖父(アンソニー・ホプキンス)とキャスティングが豪華(ジェシカ・チャステインのカメオ出演も)。特にポールを暖かく見守り、自分のルーツを忘れるなと教えるおじいさん役のアンソニー・ホプキンスが素晴らしかった。

『チャイコフスキーの妻(仮)』狂気の愛

現在『インフル病みのペトロフ家』(2021年)が日本で公開中のキリル・セレブレニコフの新作『チャイコフスキーの妻(仮)』は、ゲイの噂を打ち消すために、アントニーナ(アレーナ・ミハイロヴァ)の熱烈な求婚を受けて、うっかり結婚してしまったチャイコフスキー(オディン・バイロン)が、アントニーナの狂気の愛に苦労する話。二人の嵐のような関係を幾つかの時代に分け、舞台劇風な演出で見せる。

『EO(英題)』ロバの視線

イエジー・スコリモフスキ『EO(※イーオ、ロバの鳴き声)(2022年)は、サーカスから逃げ出したロバが、世の中の様々な出来事に立ち会い、牛の群れに紛れて畜殺場に消えていくまでを描くスコリモフスキ版『バルタザールどこへ行く?』。一貫したストーリーはないが、ロバの視線だけでエモーションを生み出す手法が鮮やかだった。

是枝監督作、パク・チャヌク監督作などが後半の話題作

期待の是枝裕和監督『ベイビー・ブローカー』(2022年)、パク・チャヌク監督『別れる決心(仮)(2022年)、『ボーダー 二つの世界』(2018年)のアリ・アッバシ監督がイランに戻って撮った『ホーリー・スパイダー(原題)』(2022年)など、話題作の上映はこれから。

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