参院選全国区の候補者が1つの市に集結?!半世紀以上前の参院選で起こった珍事件

今年は7月に参議院議員選挙の投票が行われることが予定されていますが、参院選は1947年の第1回から今まで25回行われています(今年の選挙は26回目)。この中には大きな事件もありました。今回は1953年の第3回参院選において、選挙から約1年半後に、とある自治体で参院選のやり直しをしないといけなくなったという事件を紹介します。

ミスや不正行為で選挙が無効になることも

選挙は常に公正かつ正確に行われるわけではありません。これは意図的な妨害もありますが、悪意のない単なるミスで起こることもあります。しかし、単なるミスであっても、極めて重大な影響を及ぼすことがあります。
「市長選挙を実施したのに当選者ゼロ!誰が市長になった?本当にあった不思議な選挙シリーズ」で紹介したように、選挙が公正に行われなかったと候補者や有権者などが考えた場合、選挙管理委員会に選挙の無効を訴えることができます。そして、選挙管理委員会や裁判所が選挙が公正に行われず、結果に影響を及ぼすと判断した場合は、選挙を無効にすることができることが公職選挙法で規定されています。

前述した記事で述べたように無効になった事例としては、有権者に渡す投票用紙を間違えてしまい多数の無効票が出たというような事務的なミスから現職が職権を利用して他者の立候補を妨害したというような悪質な不正行為まで様々なものがあります。
選挙が無効になった場合、原則として国政選挙の場合は40日以内、地方選挙の場合は50日に再選挙を行う必要があります。

党名の記載ミスで選挙無効(1953年参院選 佐野市の事例)

1953年の参院選でミスが発生しました。それは栃木県佐野市の選挙管理委員会が社会党(左派社会党)公認で全国区から立候補していた平林剛という候補者の所属党名を「日本共産党」と間違えて記載してしまったのです。もし、平林候補が圧倒的当選あるいはその逆の圧倒的落選であれば、その後のトラブルは生じなかった可能性はありますが、何と平林候補は最下位当選者と381票しか差がない次点という極めて惜しい結果で落選していたのです。

さらに、この平林候補は専売品関係の労働組合出身の候補でした。専売品であるたばこ産地である栃木県全体で6,502票取れたにもかかわらず、佐野市では65票しか取れなかったということから、正しい党名が書かれていれば、佐野市ではもっと票を取ることができて当選していたとして、選挙の無効を訴えたのです。

選挙管理委員会はこの無効の訴えを却下したものの、裁判となり、最高裁までもつれました。そして、最終的に選挙から約1年半後の1954年9月に有権者にとって候補者の所属している党は投票先を判断する大きな要素になっており、党名の誤記は選挙結果に影響を及ぼした可能性が高いと判断され、佐野市における参院選の全国区の選挙は無効との判決が下りました。その結果、佐野市の再選挙の結果によっては選挙結果に影響が出ると判断された全国区の6人の当選が無効になるという事態になったのです。

1つの市に集結する候補者と逆転劇

この第3回参院選の全国区は通常とは少し異なり、上位53人が当選できたものの、51-53位は補欠当選であり、任期は通常の6年ではなく、3年となっていました。

このため、53位以内に入れるかということ以外にも、50位以内に入れるかというのも極めて重要な点になっていました。また、この再選挙ではこの時に立候補資格のある全ての落選候補者も候補者になっていたため、知名度を上げる目的で当選する見込みがないのに選挙運動をした候補もいて、全国区の候補者が規模が巨大ではない佐野市に何人も来て激しい選挙戦を展開しました(このような全国区の複数の候補者が決して大きくない一自治体に来た事例としては「台風直撃で投票時間・投票日が変わる? 「早まる」「延期」などにご注意を!【沖縄県知事選】」で紹介した災害により特定の自治体で投票日が延期された繰延投票の事例があります)。

なお、全国区の候補者であり、佐野の地理に明るくなかったことから、ある候補者は駅前で演説をして聴衆を集めたものの、そこは佐野市外であったというハプニングが起きたことも記録されています。

この再選挙では、緑風会という団体には再選挙前は52位と53位で当選したものの、今回の再選挙で当選無効になった当落線上の2名がいました。また、様々な事情も絡み、緑風会は再選挙前52位の1名に選挙運動を集中させようという方針になっていました(しかし、もう1名が選挙期間中に突如、選挙運動を始めるという事態になっています)。このような事情もあり、党名を誤記されて選挙無効を訴えていた平林候補は再選挙の結果、53位となって当選し、見事に逆転を果たしたのです(6年任期と3年任期での逆転はありませんでした)。

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