倉敷八十八ヵ所霊場巡り ~ 霊場を守り継承する人と歩いて気づく、普段は見ない倉敷の風景(Vol.1)

倉敷八十八ヵ所霊場」は江戸時代中頃に整備されたといわれ、美観地区・鶴形山・向山周辺の倉敷中心部に位置。

倉敷駅前や美観地区を歩いたことがあるかたなら、一度は目にしたことがあると思います。

普段、何気なく目にしている風景の一部なのです。

その意味や歴史、次世代に残したいと願うかたがたの想いに触れることから、守り継承されてきた倉敷の風景を再発見してみませんか?

次回の倉敷八十八ヵ所霊場巡りは、以下の日程で開催されます

【日時】
2023年11月7日
8時30分から開始

【集合場所】
観龍寺駐車場

【注意事項】
・雨天時は中止です
・軽食、飲み物はご持参ください

倉敷八十八ヵ所霊場とは?

「倉敷八十八ヵ所霊場」と聞いても、すぐにはわからないかと思います。

では、視点を変えて「四国八十八ヵ所霊場巡り」や「四国遍路」ではどうでしょう?

四国遍路などの巡礼が広まるなか、それぞれの霊場を訪れるには距離や金銭的な理由などから困難です。

そのため各地に模した小規模な「移し巡礼」がつくられるようになりました。

「倉敷八十八ヵ所霊場」はその移し巡礼の一つです。

四国霊場で巡る寺を模した札所(祠・ほこら)がつくられ、「美観地区」や「あちてらす倉敷」などにもあります。

一番古い石堂と思われる札所が3番札所です。

石柱に「寛政十一年未年三月 建立 東町」と彫られているため、霊場が開かれたのは、18世紀末(寛政年間)ではないかと考えられています。

霊場の札所も、町の開発や整備等のため移転や消滅したのも多数。

しかし、地域や霊場を守るかたがたなどの努力により、近年復旧や復元も進んでいます。

コロナ禍以前には、年に春秋2回の巡礼なども開催されていました。

▼15年ほど前(2000年代)、筆者が倉敷八十八ヵ所霊場について初めて知った場所。

美観地区にある「如竹堂」の近くにあります。

「いつか気軽に巡ってみよう」と思っていましたが、15年経っても巡ることができていませんでした。

しかし、無理をしなかったことで実現する願いもあります。

観龍寺の村田隆禅住職が「倉敷八十八ヵ所霊場」の顧問をされており、その縁から、霊場を守る世話役のかたがたと一緒に巡るという、幸運に恵まれることになりました。

▼鶴形山に鎮座する観龍寺。霊場巡りのスタートとゴールのお寺です。

▼2021年10月10日にグラウンドオープンした「あちてらす倉敷」の敷地内にある札所です。

復元された札所のなかで、もっともお洒落な札所です。目にしたことがあるかたも多いのでは?洗練されていますね!

▼以前に入手していた、「倉敷中央ロータリークラブ」で作成されたパンフレットの表紙です。

地図と札所の写真を主としたわかりやすい資料。

全体図とA~E地区に分けた詳細な地図で構成されています。

パンフレットは「備前焼ながやま」内の、千田さんより入手可能です

霊場を守り継承したい

観龍寺の村田住職を通じて紹介していただいた、5名のかたがたと倉敷八十八ヵ所霊場を一緒に巡ります。

まさかすべてを完歩するとは思ってもいませんでした。

すべての札所を一緒に歩き案内してもらい、結果として約6時間で約18,000歩。

完歩後にはお大師様(弘法大師)のおかげや達成感以上に、霊場を守りたい皆さんの想いを感じ、充実した一日を過ごせました。

▼倉敷八十八ヵ所先達である加藤さんから聞いた数多くのお話のなかで、もっとも印象深かったお話から紹介します。

加藤さんは80歳(2022年現在)。

会社を定年退職したあと、倉敷八十八ヵ所霊場や地域の活動・歴史に興味を持ちます。

一度聴いたことを人に伝えれば、覚えられるとのこと。

筆者も幅広いたくさんの知識を教えてもらいましたが、すべて紹介しきれないのが残念です。

▼霊場巡りを終えたあとに、観龍寺副住職から倉敷八十八ヵ所霊場についてお話を聞きました。

まずは札所を探します

しおりなどの地図を参考に札所を探してみましょう!

▼巡礼当日にもらった「倉敷八十八カ所霊場巡り」です。コロナ禍前には年に2回、毎年3月と11月に集まり巡っていました。

しおりもパンフレット同様、「備前焼ながやま」内の、千田さんより入手可能です

▼しおりには、札所もわかりやすく紹介され、札所番号・寺名・ご本尊・ご真言や簡単な経路などが整理されています。

しおりがあれば、位置も分かり簡単に歩けそうですよね。

ただし、注意が必要です。歩いてみて気づきましたが、この地図だけではすべての札所を見つけることはまず困難です。

とくに山道などは一人で行かないように気を付けてください。

▼札所では、まず目につくのが「倉敷八十八ヵ所霊場」と書かれた赤いのぼりです。

観龍寺東にある第71番札所

むかって右の石柱には札所の番号(第71番)。左の石柱には札所のお寺の名前(弥谷寺)と記されていますね。

左の石壁に記された名前が、札所を新しくした時の寄進者のかたがたの名前です。

札所の中は?

巡礼する際には、札所の中ものぞいてみませんか。

各札所が統一されていないため、必ずしも一緒ではないですが、新しい札所の中を紹介します。

▼さきほどの第71番札所。札所の中には、むかって左手に弘法大師、右手に御本尊(第71番札所では千手観音)の2体が並んで祀られています。

参考までに御本尊とは、四国八十八ヵ所の各札所のご本尊さまのことです。「倉敷八十八ヵ所霊場」でも四国霊場に合わせて祀られているのです。

第71番札所

霊場巡拝の作法とは

霊場巡拝の作法として、札所ごとでのお参りの順番を紹介しましょう。巡礼する札所ごとに手順1~手順6のお祈りを繰り返します。

手順1.合掌・礼拝(がっしょう・らいはい)

手順2.開経偈(かいきょうげ):1回唱えます。

開 経 偈

無上甚深微妙法
(むじょうじんじんみみょうほう)
百千万劫難遭遇
(ひゃくせんまんごうなんそうぐう)
我今見聞得受持
(がこんけんもんとくじゅじ)
願解如来真実義
(がんげにょらいしんじつぎ)

手順3.般若心経(はんにゃしんぎょう):時間の都合などで省略することもあります。(少人数や時間的余裕がある場合はなるべくお唱えします)

▼しおりには、きちんと般若心経も掲載されているので、覚えていなくても大丈夫です。

手順4.ご真言:各札所で祀られているご本尊にあわせ3回唱えます。

タップで表示されます

手順5.南無大師遍照金剛(なむだいしへんじょうこんごう):3回唱えます。こちらは、弘法大師に帰依するという意味。

手順6.回向文(えこうもん):1回唱えます。

回 向 文

願以此功徳(がんにしくどく)
普及於一切(ふぎゅうおいっさい)
我等与衆生(がとうよしゅじょう)
皆共成仏道(かいぐじょうぶつどう)

なかなか慣れるまでが大変ですね。

甲山寺~八嶋寺(鶴形山周辺)を巡りましょう

▼観龍寺を出発。1つ目の札所(74番)です。

鶴形山トンネルの東南に位置します。このときは、すべての札所を回ると思っていなかったため、「どれくらい歩き、いつ頃に終わるのだろう?」と思いながら歩き始めました。

▼観龍寺副住職から、実際の札所(74番)について説明をしてもらいます。

第74番札所

▼倉敷八十八ヵ所霊場巡りの途中で、祇園宮を見せてもらいました。こちらの西側に71番札所があります。

祇園宮

祇園宮は霊場とは別で、町内(旧町名は弓場:ユバ)の守り神として文政4年(1800年代)に建造、平成4年に建替えられたお宮とのこと。特別に内部の拝観もさせていただきます。

▼71番札所から観龍寺に一度戻るのですが、このような狭い路地を巡るのも魅力のひとつ。

筆者は、狭い路地裏をうろうろと歩くのが好きなため、冒険心をくすぐります。もちろん初めて歩く道です。

▼観龍寺の敷地内にある木造の第75番の札所。観龍寺の敷地内には他にも17番の札所があります。

第75番札所

▼観龍寺の北側に位置する78番札所、郷照寺。整理・整頓されており、普段から地域のかたがたに大事にされ、守られていることを感じます。

第78番札所

▼77番札所道隆寺です。鶴形山トンネル北側のすぐ東にあります。失われていた札所として、最近復活しているため非常にきれいです。

第77番札所

札所の復元には、土地を確保した上で、石造の建屋・お大師様・ご本尊などをととのえるため、多くの方のご協力があったとのこと。

▼79番札所、高照院です。

第79番札所

こちらでは、御年90歳である千田さんが、自転車で先回りをして待ってくれていました。

「残念ながら、足が悪くなってしまったため一緒に歩けないけれど」と言っていましたが、合流しお参りしている姿に感動。筆者は千田さんがお参りされている姿に美しさを感じました。

この札所の壁にも注目してください。ブロック塀で復元されています。なかなか気づかないと思いますが、時代や修復する人により札所ごとに修復方法も異なるとのこと。

「統一されてなくてもいい」「ばらばらでいいじゃないか」という精神が受け継がれていることが、加藤さんが言う特徴である「個性」ですね。

▼79番札所の西側に隣接して立っている、北向きのお地蔵様です。

全国的にも北向きのお地蔵様は珍しいといわれているそうです。

北向きのお地蔵様

▼72番札所、曼荼羅寺です。

新しい札所にも目がいきますが、特に注目してほしいのは右手にある真新しい生け垣。

加藤さんが、普段からも手入れをしています。

第72番札所

▼73番札所から13番札所に向かっていきましょう。

鶴形山の北向き斜面の山道を登っていきます。鶴形山の中にもこのような山道があり、巡礼の道とは驚きです。

巡礼する前には、鶴形山周辺の町中を歩くだけだと甘く考えていました。あまり高低差はないのですが、少し息があがります。

階段にも注目してください。地域のかたがたにより、木板や鉄筋を使って整備されていますので、普通の山道よりは歩きやすいです。

▼山中にひっそりとたたずむ13番札所、一之宮です。

倉敷の中心市街地で、このような景色があるとは思ってもいませんでした。とても一人では怖くて行けません。

第13番札所

▼13番札所から51番札所へ向かいます。

「倉敷88ヶ所霊場へんろ道」との案内も整備。比較的緩傾斜で、広めの山道をゆっくりとくだっていきます。

鶴形山の中に、このようなしっかりとした竹林があることさえ、初めて知りました。

▼51番札所、奥の院石射寺です。

ぜひ、お大師様と御本尊にも注目してください。一枚岩に刻まれていることも個性ですね。

第51番札所

▼76番札所、金倉寺は新しく復元された札所です。

第76番札所

▼81番札所、白峰寺。比較的少ない木造の札所の中に2体の石像が並んでいます。

第81番札所

▼83番札所、一宮寺です。

こちらでは、79番札所で一緒であった千田さんが先回り。お接待を提供してくれました。

90歳の千田さんによる手縫いの布袋に、さまざまなお菓子が詰められています。このような心遣いが本当にうれしいですね。

毎年春秋の巡礼の際にも、お接待が提供されるとのこと。

第83番札所にて

▼82番札所、根香寺です。

マスキングテープを販売している如竹堂の近くにあります。もしかすると「知ってる!」「なるほど見たことある!」と思うかもしれません。

この札所は、写真にある周りの岩肌も見てほしいです。江戸時代での干拓の前、鶴形山が島であったときに波があたっていた名残といわれています。

第82番札所

▼32番札所、峰寺です。

82番札所脇の階段の途中にあります。少し上には84番札所も見えていますね。

第32番札所

▼84番札所、八嶋寺です。

少し奥まった民家の真横に位置します。

第84番札所

▼鶴形山周辺では、こちらの84番札所で終わり。ここから向山へ向かいます。

タイミングが合えば、アイビースクエア東の桜なども眺めながら歩いてみてはどうでしょう?

おわりに

倉敷市の中心市街地において「倉敷八十八ヵ所霊場巡り」があることや、観龍寺を中心に守るかたがたがいて継承されていることなど、霊場巡りに関する雑学などを紹介してみました。

この記事をきっかけに、江戸時代の中頃から続く「霊場巡り」という風習があることを、少しでも知り興味をもってもらえればうれしいです。

ただし、筆者は気楽に参加してしまいましたが、途中険しく整備されていない山道などもあり、迷子になる可能性も十分にあります。

そのため興味をもったかたでも、地図をもって気軽に行くことはせず、まずは年に2回(3月・11月)の巡礼から参加してみてください。筆者も参加する予定です。

次回は、向山から倉敷市役所付近まで南下した後に北上。倉敷駅前を経由し、ゴールの観龍寺までのコースを紹介します。

筆者が感じた素敵な景色、想像以上に急な坂道。

一緒に歩いた皆さんのお話等を中心に、普段みない倉敷の魅力を伝えます!

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