デフ・レパード『X』解説:“デフ・レパードらしいもの”をやっていない“ポップ”となった作品

デフ・レパードは『Slang』でオルタナティブ・ロックから冒険心のある領域に旅立ち、1999年の『Euphoria』では彼らを代表するサウンドに再び戻りゴールドディスクを獲得した。

しかしメンバーたちは再び勝利の方程式を捨て、チェレンジを求め、2002年に新しいアルバム『X』に取り掛かった。

“ポップ”な作品

『X』はローマ数字で“10”を意味するが、アルバム自体は実際には8作目となる。このアルバム『X』は、英ヨークシャー出身の彼らがその長く優れたキャリアの中で臆することなく作りあげた、最も“ポップな”アルバムだと言える。

ヴォーカリストのジョー・エリオットは、それまでハード・ロックやメタルのバンドが言われることを嫌がっていた“ポップ”という言葉の受け止め方について、アルバム発売時の2002年7月30日にこう話している。

「今回はただ単純にすごく良い曲を作って、もしそれが“ポップ”な曲に仕上がったとしても、ギターを基調としたポップ・ソングになればそれで良いだろう、って話し合ったんだ。“ポップ”っていうのは変わった言葉で、ポピュラー(*人気がある、一般向け)を省略したものなんだけど、それはブラック・サバスからシャーロット・チャーチまで幅広く含んでいるんだよ」

それに応じてメンバーたちは『X』の楽曲を、ジョー・エリオットのダブリンにある自宅で行った準備セッションにて形作っていった。そしてその頃にタイミング良く、彼らが好きなバンドの曲がインスピレーションを与えてくれた、とギタリストのフィル・コリンは2002年にVH1に話している。

「僕たちはエアロスミスがマーティ・フレデリクセンと書いた“Jaded”を聴いたんだ。みんなでサウンドがコンテンポラリーでエネルギッシュでカッコイイね、でも明らかにエアロスミスだよね、って話してたんだ。だから同じようにデフ・レパードのそんな曲があったら良くない?って思ったんだよ」

外部ライターとの共作

エアロスミスの「Jaded」を手掛けたマーティ・フレデリクセンは、他にもキャリー・アンダーソンのBMIカントリー・アワードを受賞した「Undo It」やギャヴィン・ロスデイルの「Love Remains The Same」を作曲しており、デフ・レパードとタッグを組むことにした。

フレデリクセンは『X』では、魅力的でラジオ・フレンドリー、UKトップ30入りを果たしたファースト・シングル「Now」、そしてその他にもアルバムの際立つトラック「You’re So Beautiful」と壮大なポップ・ソング「Everyday」を制作した。

彼らの外部とのコラボレーションはそこでは終わらなかった。ニッキー・ミナージュやワン・ダイレクションに曲を提供していたウェイン・ヘクターは、洗練されたストリングスを使用したバラード「Long, Long Way To Go」をデフ・レパードに提供。

同じ頃デフ・レパードはABBAのポーラー・スタジオへ行きそこでスウェーデン人作曲家のPer Aldeheimとアンドレアス・カールソン(バックストリート・ボーイズ、ブリトニー・スピアーズ)、そしてそれ以降にヒットメーカーとなるマックス・マーティンらとともにポップ曲「Unbelievable」を書きあげた。この曲にはビート、ループ、そしてアコースティックギターがデフ・レパードの特徴であるハードロック・サウンドに巧みに取り込まれている。

しかしファンの中には、『X』でのコラボレーターたちの存在を聴いて、少しだけ困惑した者もいたが、アルバムの内容に対して過剰に心配したことは杞憂だと後に知ることになる。確かに「Four Letter Word」や鋭い「Cry」のどちらもアンプのヴォリュームを容赦なく11まで上げているし、エッジの効いたエレクトロ・ポップ「Gravity」ではバンドにとって革新することが最重要であることが示されている。

アルバムの売り上げと評判

デフ・レパードが最初のシングル「Wasted」をプロデューサーのニック・タウバーと1979年に完成させた場所、ロンドンのオリンピック・スタジオにてミキシングを手掛けた後に『X』は2002年5月に完成し、その2ヶ月後にリリースされた。

当時、ジョー・エリオットは、「俺たちのファンは、俺たちが自由にやることを受け入れる心の準備ができていた」と話している。彼は正しかった。バンドの忠実なファンたちのお蔭で『X』はUKで14位に、そして全米アルバムチャートで11位にランクインされ、前作『Euphoria』と同等の成績を残した。

この後、デフ・レパードはその伝説的なハードロック・サウンドへと再び戻り、2006年にはバンドを形作り影響を与えたミュージシャンたちへの敬意を表すカバー・アルバム『Yeah!』を発売し、そして2008年には熱烈な『Songs From The Sparkle Lounge』を発売した。けれども優れた作品である『X』は、彼らの作品コレクションの中で決して小さな存在ではなく、メンバーたちが愛情を込めて懐かしく思い出す作品でもある。フィル・コリンは2006年にYahooにこう話している。

「『Slang』を作っていなければ、ここまで来ることはできなかったと思う、。それに『X』にはすごい良い曲がいくつも収録されている。それらは真剣で偽りのないもので、僕たちは勇敢な曲作りをした。なぜ勇敢かと言うと、僕たちを代表する“デフ・レパードらしいもの”をやっていないからだ」

Written By Tim Peacock

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