岸田政権の〝増税〟に反対!|和田政宗 時事通信は5月19日、『法人税率、引き上げ案が浮上』との見出しで、与党の税制調査会で法人税の実効税率を引き上げる案が浮上していると伝えた――。日本経済の閉塞感が強まっているなか、積極的な財政出動を行わなければ経済は支えられないのに、増税という論が出てくること自体が滅茶苦茶であり、私は明確に反対である。

法人税の実効税率を引き上げる…?

岸田政権における増税懸念がこれまでも指摘されてきたが、時事通信は5月19日、『法人税率、引き上げ案が浮上 積極投資は減税拡充―経済構造転換狙う・与党税調』との見出しで、与党の税制調査会で法人税の実効税率を引き上げる案が浮上していると伝えた。実効税率の引き上げが行われれば昭和59(1984)年以来、約40年ぶりとなる。

岸田政権の経済政策がアベノミクスから転換され、日本経済をまたデフレに戻してしまうのではないかという懸念は根強い。株価は、菅政権下の昨年9月14日に、平成2年8月以来31年ぶりの高値となる3万0670円10銭をピークに下落傾向が続き、直近の終値(5月20日)は、2万6739円03銭と、約4000円の下落となっている。

その要因は、総裁選での金融所得課税など増税への言及や、就任後の国会における所信表明演説や施政方針演説から「改革」や「岩盤規制の打破」などの文言が消えたことにより、成長への期待感が失われたことなどによる。新型コロナ禍やロシアによるウクライナ侵略の影響もあり、日本経済の閉塞感は強まっている。

こうした時には積極的な財政出動を行わなければ経済は支えられないのに、増税という論が出てくること自体が滅茶苦茶であり、私は明確に反対である。過去に日本が行った財政政策の失敗を直視していない。

日本では、サラリーマンの平均給与は平成9年の467万円をピークに下落が続き、リーマンショックなどを経て、民主党政権下の平成21年には406万円となった。民主党政権下では底這いの低水準が続いたが、アベノミクスが転換点となり、第2次安倍政権が始まってからは上昇傾向し、令和2年は433万円となったが、平成9年の給与水準には戻っていない。

いまの経済状況で増税などありえない!

一方、世界各国はどうであるか。

アメリカやイギリスは、20年前の水準に比べ給与は約1.5倍となっている。なぜ世界経済の荒波があったなかで、給与が伸びているのか。それは、積極的な財政出動を行って経済を下支えしたからである。

アメリカの国家予算は平成9年に比べ、約2.7倍、イギリスは約3.2倍となっている。一方日本は、世界経済が危機に瀕するなかでも緊縮財政を行い、平成9年に比べ国家予算は1.5倍にしかなっていない。すなわち日本は、必要な時に必要な財政政策を打たずに、デフレをもたらし国民を苦境に立たせたのである。

現在の経済状況は、GDPギャップを見ても、さらなる財政出動をすべき状況であり、増税などは有り得ない。また、円安のなかでいかに日本が稼いでいくかという視点も薄い。世界的なワクチン接種により、世界各国では新型コロナによる海外旅行は解禁されてきており、円安で日本への旅行を割安と感じる外国人観光客を日本に引き込み、消費をしてもらうことが重要である。

日本最大の輸出産業は自動車関連産業で、輸出額は年間約15兆円であるが、外国人観光客による日本での消費は外貨を引き込むため輸出をしていることと同じであり、日本政府は2030年には消費額が15兆円を超えることを目指している。

もう一つの「産業の柱」「輸出の柱」を観光で築こうというものである。しかしながら、岸田政権は国内のGoToトラベルの再開のみならず、外国人観光客の引き入れも極めて慎重である。当然、感染防止対策はしなくてはならないが、新型コロナ治療の飲み薬の承認も近いとされ、今こそ経済を動かしていく時期である。

岸田政権は財政出動を決断できるか

岸田総理は今月イギリスで行った講演で、NISA(少額投資非課税制度)の拡充や、預貯金を資産運用に誘導する仕組みを創設したいと述べた。これは、個人の金融資産を株式や債券投資などで運用するアメリカでは家計金融資産が10年で3倍、イギリスは2.3倍になっているのに、日本は1.4倍にしかなっていないからである。

日本では2000兆円に達する個人金融資産の半分以上が現預金で保有されており、岸田総理が提案した政策は有効であるのだが、株価が低迷していたら、投資意欲が減退し運用もしにくくなり意味がなくなる。

さらに、注意しなくてはならないのが、物価上昇についてのメディアのミスリードである。先般、4月の消費者物価指数が2.1%上昇(変動が大きい生鮮食品を除く)と発表され、各メディアは物価上昇の危機を煽り立てた。

だが前月3月までのこの1年間の消費者物価指数は、菅政権下での携帯電話料金値下げにより物価が押し下げられた数字と、携帯電話料金がまだ高かった前年度の数字とを比較していた。それが、1年たって一巡し、4月の消費者物価指数は、携帯電話料金値下げ後の数字との比較となった。

これにより、消費者物価指数は大幅上昇となったわけだが、前月3月の消費者物価指数は、携帯電話料金値下げ分を補正すると1.8%の上昇となり、4月の2.1%は急激な上昇というわけではないのである。

なぜこのことを記したかというと、こうした数字を利用して、金融引き締めのため増税が必要だと主張する人たちが出てきかねないからである。

増税への不安感が生じれば、自民党の強い支持世代である現役勤労世代の支持を失い、参議院選挙に大きな影響が出ると考える。すでに安倍政権を支えてきた岩盤保守層20%のうち数%は、岸田政権の外交政策などから自民党支持を停止しているとみられる。

こうした方たちが投票に行かなければ、60%という内閣支持率も、自民党への高い政党支持率も、大きく削られた数字で考えなくてはならなくなる。私は、参議院選挙は極めて厳しい戦いを想定しなくてはならないと考える。

今こそ財政出動で景気を下支えし、反転攻勢に打って出なくてはならない。しっかりと党内で提起していくが、岸田政権は決断ができるだろうか。

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和田政宗

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