長崎IRの行方 収支計画「背伸び」鳥畑与一氏 区域整備計画審査へ 識者インタビュー<中>

鳥畑与一氏

 -カジノを含む統合型リゾート施設(IR)を佐世保市のハウステンボス(HTB)へ誘致する長崎県のIR区域整備計画をどう評価しているか。
 出資企業や金融機関の名前が公表されず、資金調達が不透明だ。和歌山県の計画は資金調達先が明記されたが、確実性を疑う県議会に否決された。長崎県は承認されたが、和歌山県と比べて見劣りする。
 長崎IRは、欧州を中心にカジノを展開する「カジノオーストリアインターナショナル」(CAI)の日本法人が中核の事業者。ただ、CAIは世界的には実績が乏しく、企業としての規模は小さい。運営能力にも疑問を感じる。

 -長崎IRは年間売り上げを約2716億円と見積もっている。
 米国の大手カジノの業績と比較しても、収支計画はかなり背伸びした過剰な数字だ。
 日本のIRは、巨大な施設を運営するマカオやシンガポール並みの収益を前提としている。だが、海外でIRのビジネスモデルは崩壊している。
 新型コロナウイルス禍によるダメージもあるが、中国政府による規制強化の影響が大きい。アジアのIRは、中国人富裕層をカジノへ誘導するビジネス「ジャンケット」が利益を押し上げていた。中国政府はジャンケットやマネーロンダリング(資金洗浄)の対策を厳格化し、国外への資金流出を警戒しており、日本で中国人富裕層の利用は期待できない。オンラインカジノも急速に広がっている。

 -年間来訪者数は約673万人と想定している。
 日本政府は訪日外国人旅行者数の目標を2030年に6千万人と掲げており、IR誘致を目指す地域は「目標達成に貢献できる」と主張するしかない。長崎の場合は交通アクセスも厳しい。

 -ギャンブル依存症などの対策はどうか。
 CAIが拠点とする欧州は厳しい対策で知られるが、そのまま日本で適用すれば、今度は利益の確保が難しくなる。いずれ経営の問題とぶつかる。

 -長崎県はIRが地方創生につながるとする。
 IRには、カジノ利用者の宿泊費を無料化するなどして敷地へ誘客をする「コンプ」というサービスがある。一方、周辺の商業に恩恵はなく、地域の消費力が奪われるカニバリゼーション(共食い)が生じる。自然が豊かで、魅力的なHTBという「宝物」をつぶす結果にならないか。

 -国に求めることは。
 観光の国際競争力を高めるという政策目的に合致するのか厳格に審査するべきだ。きちんと検証ができるように透明性の確保も不可欠。地域の未来をIR、カジノに委ねてよいのか慎重に判断してほしい。

 【略歴】静岡大教授 鳥畑与一(とりはた・よいち) 1958年生まれ。石川県出身。大阪市立大経営学修士。専門は国際金融論。IR整備法案を審議した2018年の衆参両院の内閣委員会で参考人として意見陳述した。著書に「カジノ幻想」など。


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