41歳独身会社員「58歳で4000万円貯めてサイドFIREが目標」試算は意外な結果に

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、41歳独身、会社員の女性。老後のために4,000万円を貯めて、サイドFIREを目指す相談者。このままの貯蓄ペースで達成可能でしょうか? また投資資産と現金の比率についても気になっているようです。FPの秋山芳生氏がお答えします。


老後のために、現金と投資を含めて4,000万円貯めたいのですが、どのように運営していけばよいでしょうか。また、色々なサイトで資産運用シミュレーションをしてみると、58歳くらいでサイドFIRE(※)が可能ではと考えていますが、現実的に可能でしょうか。

現在、毎月、iDeCoとつみたてNISAを満額、特定口座に5万円入金しています。銘柄は全世界株式と米国株式です。あと20年、月10万円程投資に回していくつもりです。ただ、そうなると現金があまり増えていかないので、これでいいのかという不安もあります。複利効果を効果的に得るために、預金からもっと投資に資金を回すべきでしょうか。それともこのままのペースでよいのでしょうか。どうかアドバイスをお願いします。

(※)運用による収入と労働収入を組み合わせたFIREのスタイルのひとつ

【相談者プロフィール】

・女性、41歳、会社員、独身

・住居の形態: 賃貸(一人暮らし、北海道)

・毎月の世帯の手取り金額: 24万円

・年間の世帯の手取りボーナス額: 50万円

・毎月の世帯の支出の目安:12万円

・住居費:3万2,000円

・食費:1万5,000円

・水道光熱費:1万円

・通信費:0円(1年間のみ、その後4,180円)

・車両費:2万円

・お小遣い:1万円

・その他:1万円

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:3万円

・ボーナスからの年間貯蓄額: 30万円

・現在の貯金総額(投資分は含まない):970万円

・現在の投資総額: 180万円

秋山:ご相談いただきありがとうございます。ファイナンシャルプランナー兼FPYouTuberの秋山芳生です。今回のご相談は、40代の独身女性からです。58歳を目処に「サイドFIRE」を目指して、現金と投資を合わせて4,000万円の資産を貯めることを目標にしています。今後20年は月10万円の投資も継続していく予定ですが、投資と現金のバランスが気になるとのこと。現金はどれくらいあると安心なのか、また、サイドFIREは実現可能なのかを家計と投資の状況を見ながら一緒に考えていきたいと思います。

食費を削り過ぎないように。特別費も忘れずに

家計の状況ですが、手取り収入は24万円/月とボーナスの50万円/年があり、年収は338万円となります。一人暮らしをするには十分な収入です。一方で、支出は非常に少なく、かなり倹約されています。食費は1万5,000円ですが、節制し自炊しながらコントロールすれば無理な金額ではありません。ただし、健康が何より大切です。体に無理がない範囲で節約しないと、栄養価が偏った結果、医療費が高くついてしまっては元も子もありませんので注意してください。使い古された言葉ですが、体が一番の資本ですね。

その他の支出も抑えられており、特に改善するポイントは見当たりません。一つ気になるのは、車両費の2万円の中に、特別費としてかかる車検代や自動車関連の税金や保険がちゃんと計算されているかどうかです。特別費が見込めていないと、キャッシュフローが崩れてライフプランを見直ししなければならないので注意が必要ですね。

58歳でサイドFIREする場合をシミュレーション

それでは、いただいている情報を元に、ライフプランを立てて100歳までのキャッシュフロー表を作成していきます。独身のまま生活し、出産や相続など大きなライフイベントを想定しないプランになります。

【ライフプランニングの設定条件】
・毎月、つみたてNISA3万3,000円、iDeCo2万3,000円、特定口座積立5万円を、20年後の61歳まで継続。
・58歳でサイドFIREし、月に5万円の手取り収入に切り替える(手取り収入は税金と社会保険料を支払ったあとの金額)。65歳まで働く。
・収入は58歳まで変化しない。
・運用は株式中心のインデックス運用を行い、平均リターンは5%とする。58歳を超えてからはリスクを抑えて1.5%の複利運用とする。
・家賃は2年ごとに6万円の更新料が発生する。火災保険料は8,000円/年とする。
・住宅は10年ごとに引越し家賃5カ月分の引越し費用が発生する。
・58歳以降も今の生活費を維持する。
・介護費用は500万円とし、80歳から100歳の間で消化する。
・自動車は10年ごとに150万円の更新。75歳以降は自動車に乗らない。
・インフレ率は0.8%平均とする。
・不確定な支出が年間10万円発生する。
・年金は現在の水準の7.5掛けで計算。
・確定拠出年金は60歳で一括受け取り。

シミュレーションの結果から、このままの生活を維持し、58歳から年間60万円のアルバイトを65歳まで続けていけば、資産がショートする可能性は少ないでしょう。目標としていた4,000万円の資産は、順調にいけば51歳の時点で達成できる見込みです。

53歳でサイドFIREした場合は?

また、58歳ではなく、53歳から月5万円の手取り収入に切り替えた場合は、【シミュレーション2】のようになります。ちょうど60歳のときに確定拠出年金の受け取りがあります。そのタイミングで資産が4,000万円を少し超え、その後資産を少しずつ減らしていくことになります。

この場合も、年金収入と支出が拮抗するためそれほど資産を減らさずに済みます。

何歳まで現在の収入をキープすればいい?

それでは逆に、100歳まで資産を保つために何歳まで現在の収入をキープして働かねばならないかを考えてみたいと思います。ちょうど45歳まで現職で働いて、それ以降は年60万円の手取り収入に切り替えた場合は、100歳時にちょうど資産がなくなるシミュレーションになりました。

この場合、4,000万円の資産は達成していませんが、資産は十分と言えるでしょう。

さらに年金受給開始を繰り下げた場合は?

さらに、仮に年金受給開始を5年繰り下げた場合は、【シミュレーション4】のような資産推移になります。65歳から70歳までは年金が受け取れない分、70歳以降で年金の受取額が42%増えるので、その後の資産の減少は少なくなっていきます。

もちろん、物価が上昇したり、家賃が上昇したりすればシミュレーションは異なってきます。その場合は、働く時間を増やしたりして収入を増やして調整が必要になることは念頭においてください。

投資比率を高めすぎると心理的負荷が強くなる

現在の現金資産の970万円を投資に回せば、シミュレーション上はより有利な状況にできます。しかし、自分の資産の多くがリスク資産に回ると、心理的な負荷が高まりストレスになる可能性があります。とくに2022年現在の株式市場はボラティリティ(価格変動の度合い)が高く、大きなお金を投資に回すと、かなりの心理的負荷がかかり、慣れないと暴落時にパニックで損切りをしてしまうリスクもあります。投資に慣れて、もう少し投資額を増やしてもよいと思ったら、毎月の投資額を増やして、徐々に現金比率を減らしていけばよいでしょう。

無理なく収入を得られる副業やバイトを探そう

また、サイドFIREの「サイド」は本来「副業」などを表すside hustle(サイドハッスル)から来ています。サイドFIREを目指すのであれば、自分が好きな副業を育てて、無理なくやりたいことで収入を得られるようにすることが大事です。

サイドFIREのほかにも「バリスタFIRE」と呼ばれるFIREの種類があります。諸説がありますが、米国の著名コーヒーショップで働いている人は好きな時間だけシフトに入り、あとは自由な暮らしをしている人が多いことに由来しているようです。また、公的医療制度などが日本に比べて保障が少ないアメリカでは、会社勤めをすることで会社が福利厚生として医療費を負担してくれるケースがあります。

相談者様は副業を現在しているわけではないので、自分の好きな時だけ勤めで働くというバリスタFIREのスタイルの方がイメージに近いかもしれません。

自分のスキルを保ち続けることが鍵

生活支出が非常に抑えられているので、このペースが続けられるのであればサイドFIREやバリスタFIREを成功させることはそれほど難しくないでしょう。ただし、健康を損なったり、過度なインフレが起こると前提条件が崩れてしまうこともあります。FIREし、働く量を減らすことがあっても、「その気になればフルで働けば問題ない」という心持ちでいられるかで、安心感も変わってくるでしょう。

その時には、元気な体と仕事が出来る気力やスキルがモノを言うので、体調管理と自己投資をして常に自分のできることをキープし続けることが大切ですね。どこか、参考になれば幸いです。

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