新NISAで義務化されるものとは?制度変更まで待つべきか、FPがポイントを解説

2014年から始まった「NISA」が、10年の時を経て2024年より新たに生まれ変わります。非課税期間は5年と変更はないものの、5つの変更点がありますので、解説します。


「貯蓄から資産形成へ」を後押し

NISAは、もともとイギリス人の資産形成を支えるISA(Individual Saving Account)という個人貯蓄口座をモデルに日本に輸入してきた制度です。日本のNを頭につけてNISAという愛称がついたと言われています。

日本語での表記は「少額投資非課税制度」です。それまで投資と言えば、まとまったお金でするもの、お金持ちがすること、といったイメージがありましたが、無理のない金額からの資産形成を実現するためにつくられた制度です。

それでもNISAがスタートした当初は、口座獲得を狙う金融機関のターゲットは、資金に余裕がある高齢者層でした。しかし、近年各種メディアで取り上げられることが多くなり、全世代の資産形成の受け皿として、その存在感が増してきています。

新NISAの変更点は、以下の5つです。

(1)2階建て構造になる
(2)122万円に枠が拡大する
(3)つみたてNISAとのハイブリットになる
(4)ロールオーバーは上から使う
(5)18歳から始められる

新NISAは2階建て

NISAは毎年毎年、新しい口座を設定します。その口座の中で投資をし、得た利益がすべて非課税というのがNISAの特徴です。

現行NISAは、毎年の口座で投資できる金額が120万円までとなっています。1年間のうち、この金額を上回ることもできませんし、余ったとしても次の年に開設される口座に持ち越しもできません。またこの口座で購入できる投資商品は、上場株式、ETF、投資信託、REITといったものとなっています。

さて新NISAになると、投資枠が年間20万円と102万円の二つの枠に分割されます。合計122万円になるので、全体で投資できる金額は現行より2万円増えますが、一つの口座が二つの特徴を持つことになるので注意が必要です。

これを金融庁では、「2階建て」と表現しています。1階部分は、現行の「つみたてNISA」と同じルールを設け、これまでのNISAと同様に投資が行える部分は2階部分のみとなります。当然1階を通らなければ2階に行けませんから、「全ての人がつみたてNISAを行うこと」を義務付けたともいえるのが新NISAなのです。

つみたてNISAが必ず組み込まれる

2018年にできたつみたてNISAは、非課税期間を20年、投資商品は金融庁が選定した投資信託のみとしたところが特徴です。また投資方法も積立一択とし、NISAのように一括投資を認めません。これも、長期・積立・分散の3原則にのっとった資産形成を根付かせるためのテンプレートと言えます。

そして新NISAには、このつみたてNISAが1階部分に設置されます。つみたてNISAに選定された投資信託のみを積立で購入する設定をして、初めて2階に上がれるようになるのです。特例的に、過去NISA口座で投資経験がある方は、2階のみを使うことを認めますが、そうなると投資できる枠が102万円に限定されてしまいます。

2階部分はこれまでのNISAとほぼ仕組みは同じです。上場株式を買いたいという方はここで買い付けを行います。もちろん2階部分も利用して、つみたてNISA銘柄を購入するのも可能です。

これまでNISAを活用していた方の中には、新NISAの枠をロールオーバーに使いたいというケースもあるでしょう。ロールオーバーというのは、非課税期間終了時にそれまで運用していた金融商品を新しい年の非課税枠に移し運用を継続することです。

ロールオーバーでの活用

例えば2019年に120万円を原資として投資をし、2023年の非課税期間終了までに150万円にまで資産が増えたとしましょう。すると、売却をして非課税メリットを享受することもできますが、「もう少しこのまま投資を継続したい」と思う人も出てくるかも知れません。そんな時に利用できるのがロールオーバーです。

2024年はこの150万円の資産を丸ごと新NISAに移します。新NISAへのロールオーバーの際には、2階部分から資金を流入させます。この時、150万円の資金はNISA枠からあふれてしまうのではと思う方もいるかと思いますが、ロールオーバーでは、NISA枠で創った資産はいくら増えていても全額次の非課税期間に持ち越せるのがメリットです。

このケースでは、まず2階部分の102万円枠を消費するのですが、結果的に2024年度の1階部分も含めたNISA枠122万円全てを使いきることになります。そのため新規の投資はできません。

ロールオーバーでは、これまで投資していたものを一旦売って、すぐに買い戻します。従って、取得価格もその時の金額に変わります。例えば先ほどの例の場合、150万円で売って、150万円で買うのでロールオーバーの際は、次の5年間で150万円より増えた場合、その利益が非課税となるという意味です。これは課税口座に移しても取得価格の考え方は同様です。この場合、資産が増えていれば問題ありませんが、値段が下がっている際は注意が必要です。

120万円で買ったものが100万円になった時点でロールオーバーすると100万円が新しい取得価格となり、それ以上に価値が上がれば利益です。つまり120万円に戻ったとしても、それは利益とみなされます。もちろんNISA口座内であれば非課税ですが、課税口座に移した際は「値段がもどっただけなのに」課税されます。そして、ロールオーバーするのか、課税口座に移すのかの選択は、事前にしなければならないというのが非常に悩ましい点です。

ロールオーバーを決めると、年末の価格が売却価格となり、かつ新しいNISAでの取得価格となります。首尾よく値上がりしていればよいですが、そうではない場合もあります。「その時はその時で、余った非課税枠で投資をしよう」と前向きに考えられる人は向いていますが、5年毎に新しい非課税枠で新規の投資を行うのか、これまでの投資をロールオーバーで引き継ぐのか、はたまた課税口座に移すのかの選択は付きまといます。

また新NISAは2028年以降どうなるのかは未定です。現時点では、新NISAの1階部分のみはつみたてNISAにロールオーバーが可能という点のみ決まっています。


「新NISAが始まるまで、待った方がいいですか?」と質問されることがありますが、待つメリットは一切ないと考えます。なぜならば、資産形成で最も重要なことは「時間」だからです。投資による福利効果を高めるためにも投資をはじめるのは一日でも早い方がいいですし、経済成長の恩恵を受けるためにも、投資期間は一日でも長い方か良いからです。

なお、5つ目の変更点の通り、新NISAでは口座開設可能年齢が18歳に引き下がります。成人年齢の引き下げとともに、若年層での金融教育の広がりも顕著ですので、今後ますます資産形成のすそ野が広がるでしょう。

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