MaaSは「移動の困りごと」を解決するために【デンソーテン トップインタビュー】

日本版MaaSの実装に向けた動きが各地で進む一方で、あらためて地域が抱える課題の多様さが浮き彫りになっている。人手不足や公共交通の採算悪化など、現場の数だけ課題が存在する。

株式会社デンソーテン(以下、デンソーテン)では、あらゆる「移動」を提供する現場が抱える困りごとに注目し、解決に貢献するサービスを開発している。代表取締役社長を務める加藤之啓氏に話を伺い、同社が推進するMaaS事業の実像に迫る。

▼目次▼

1. ■ 課題解決型のMaaSを目指して
■ 待つことを価値に変える「困ってMaaS」

■ 「地域活性化MaaS」で地域移動の確保に貢献

■ 旅をより安全で快適にする「ツーリズムMaaS」

■ 2030年に向けた構想

■課題解決型のMaaSを目指して

――ここ数年、デンソーテンはコネクテッドサービスの開発に注力しているように見受けられます。どんな事業を進めているのか、全体像を教えていただけますか?

加藤氏:

デンソーテンは、移動における安心安全、さらに快適や感動を提供するコネクテッドサービスの開発を推進しています。既存のフリート事業をベースに据えつつ、MaaS基盤の拡張やAI技術の発展にも力を入れています。

(資料提供:デンソーテン)

――フリート事業ではどのような取り組みをしているのでしょうか?

加藤氏:

フリート事業は、大きく分けて3つの領域でサービスを展開しています。まず、全国で約3割のシェアを持つタクシー向けの配車管理サービス。次に、通信型ドライブレコーダーを活用したリース・社有車向けの安全管理サービス。そして、同じく通信型ドライブレコーダーを活用した保険分野での事故サポートサービスです。

――全ての領域でデンソーテンが開発したデバイスを活用しているんですね。

加藤氏:

はい、車載タブレットや通信型ドライブレコーダーなど、ニーズに応じたデバイスの開発能力を持っていることが、私たちのフリート事業における特徴の一つです。また、近年力を入れているクラウドサービスとの組み合わせで、ハードとソフトのトータルソリューションを提供できることも大きな強みだと考えています。

――続いてMaaS事業について伺います。現在さまざまな企業がMaaS事業に参入していますが、御社はどのような取り組みを行っているのか教えてください。

加藤氏:

MaaSと言われると、みなさんどのようなサービスを想像するでしょうか?多くの人は、複数の移動手段を検索・予約・決済し、出発地から目的地まで効率的に移動するマルチモーダルアプリを思い浮かべると思います。

一方で、実際に移動サービスの現場に目を向けてみると、事業者も利用者も多くの困りごとを抱えています。例えば、人手不足や赤字路線の問題、免許返納やオーバーツーリズム、挙げると切りがありません。デンソーテンは現場が抱える困りごとに着目し、「課題解決型MaaS」の提供を目指しています。

(資料提供:デンソーテン)

――導入ありきではなく、課題解決の手段としてMaaSを活用するということですね。具体的にどのようなサービスを開発しているのでしょうか?

加藤氏:

現場の困りごとは多種多様です。そこで私たちは、「困ってMaaS」、「地域活性化MaaS」、「ツーリズムMaaS」の3つのMaaSを開発しています。

■待つことを価値に変える「困ってMaaS」

――まず「困ってMaaS」から伺います。ユニークなネーミングですが、これはどんなシーンでの利用を想定しているのでしょうか?

加藤氏:

「困ってMaaS」は、大規模イベントなどで移動需要が集中した際に、混雑の分散と平準化を行うサービスとして開発しました。何万もの人が集まるイベント会場は移動に関する不便を抱えた状態だと言えます。特に帰りの混雑は、まともに歩くのさえ大変です。

――その不便をどうやって解消するのでしょうか?

加藤氏:

センサーや位置情報によって人流を把握する技術を活用します。その技術を用いれば、人流のシミュレーションを行い、混雑予測や待ち時間を推定することが可能です。イベント参加者向けのスマートフォンアプリを通じて、そうした混雑情報を配信して、利用者の行動変容を促す仕組みとなっています。

――待ち時間を可視化できれば、すぐ帰るか、その場に留まるか、利用者は判断しやすいですね。

加藤氏:

加えて、その場に留まれば待ち時間に応じたポイントを付与したり、周辺の飲食店のクーポンを配信したりすれば、「すぐに帰らない方がむしろ得する」状態を作り出すことが可能です。つまり、「待つことを価値に変える」ことができるんです。

そうしたソリューションを提供すれば、利用者は混雑を回避した移動ができますし、周辺の飲食店もせっかく人が集まるチャンスを生かすことができます。併せて、効率的にタクシーの利用をレコメンドすれば、タクシー事業者にとってもメリットが生まれるでしょう。

利用者だけでなく、イベント主催者や交通事業者、周辺の飲食店それぞれにとっての「うれしさ」を提供するのが、「困ってMaaS」の目指す姿です。

「困ってMaaS」
(資料提供:デンソーテン)

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