ESDの真髄は「学生が自分の力で課題を見つけ、やりきること」

渋谷教育学園渋谷中学高等学校 学びのオリンピックSOLAの隅氏、江口氏、栗原氏

ESD教育の真髄は、学生が自分の力で課題を見つけ、やりきること――。2022年4月から高等学校で実施されている新学習指導要領では「総合的な探究の時間」をはじめとする教科横断型の科目が多く取り入れられるなど、ESD(持続可能な開発のための教育)への注目が高まっている。サステナブル・ブランド国際会議2022横浜では、SDGsに先駆けて始まったESDの日本での歩みを振り返るとともに、学校現場の先端事例が紹介された。ESD教育はいま、学生たちにどのような成果をもたらしているのだろうか。(横田伸治)

日本のESDは環境教育から始まった――仙台ユネスコ協会・見上氏

「日本のESDは環境教育から始まった」。そう解説するのは、国内でのESD教育の推進に当初から携わる、仙台ユネスコ協会の見上一幸氏だ。同氏によると、高度経済成長期に自然保護や公害対策の観点から学校教育に環境問題が強く取り上げられるようになった。その後、1972年に「国連人間環境会議」(ストックホルム会議)が開かれるなど世界的な関心の高まりを受け、日本の学校現場での取り組みはさらに活発化していったという。

2000年代には「総合的な学習の時間」が教育課程に組み込まれ、近隣の川の環境保護や学校内にビオトープをつくるといった実践を伴う学習が行われる。2002年には「持続可能な開発に関する世界首脳会議」(ヨハネスブルグサミット)でESDの大切さが提唱され、「ESDの10年」とされた2005年〜2014年の間に国内でも教育振興基本計画や学習指導要領の中でESDの推進がより明確化された。

そうした流れを踏まえ、2022年度から始まった新学習指導要領について、見上氏は、前文と総則に「持続可能な社会の創り手を育てる」という言葉が盛り込まれていることを強調。学校教育と現実の社会との結びつきがより深まることで、「子どもたちが自分の力で人生を描き、未来の目標や希望を持つことができる」と、学校教育と生涯学習の接点をつくっていくことへの期待を語った。

中高生も世界を変えられる――渋谷教育学園渋谷中学高等学校の生徒ら

次にセッションは学校現場での先進事例に移り、ESDを推進するユネスコスクールに2009年から加盟している渋谷教育学園渋谷中学高等学校の北原りゅうじ氏が、昨年8月に開催された同校のオンライン国際イベント「学びのオリンピックSOLA」について発表した。

SOLAは、Shibuya Olympiad of Liberal Artsの頭文字を取ったもので、生徒たち自身がSDGsの達成に向けた課題の解決策を立案し、行動・発信するプロセスを軸に企画。この日の発表にはその実行委員長と副委員長を務めた3人の生徒がオンラインで参加し、「中高生のアイデアを政府や企業に提言しにくい」「地球環境などの問題に多角的な視点からアプローチするための学問である『リベラルアーツ』の普及が日本では不十分だ」といった課題意識が出発点にあったことを説明した。

イベント当日は17カ国の100校から中高生約900人がオンライン上に集い、「武力紛争下の子ども兵に関する問題」などについて議論した模擬国際会議や、ジェンダー平等についてアイデアを出し合ったコンペティションなど6部門で活発に意見交換したという。

参加者からは「中高生でも世界を変えられると思うようになった」「グローバルリーダーとして自信がついた」といった声が上がり、イベントは成功裏に終わった。3人は「中高生には大したことができないのでSDGsの活動も大人が決めなければならないという日本のマインドセットを変えたいという目標の達成に近づけた」と手ごたえを語り、北原氏も「中高生の社会参画が重要視される中、今後も社会変革を目指してアクションと発信を続けていく」と意気込んだ。

『非まじめ』な課題で創造性を養う――東京工科大学・上野氏

一方、ロボット開発を通した教育プログラムを紹介したのは、東京工科大学の上野祐樹氏。自身も学生時代にロボットコンテストの選手として活躍した経験があり、「あえて世の中の課題に直結しない『非まじめ』な課題に取り組むことで創造性を養う」ため、毎年、NHK学生ロボコンの本選出場を目指す教育プログラムに取り組んでいるという。

2012年度から授業として始めたものが、2017年度に大学の公式プログラムとなり、実績が評価されて2021年度から定常化された。学年や学部を問わずに参加することができ、毎年約30〜40人の学生がチームを組み、約10カ月かけてその年のテーマに沿ったロボットを製作。大学からは年間200万円の予算が与えられる。

参加した学生からは課題発見力や想像力、発信力といった、職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な「社会人基礎力」の要素となる力が身に付いたとする声が多く上がっているといい、上野氏は「技術習得と実践を繰り返しながら、チームで答えのない課題に取り組むことで結果が得られている」と成果を強調した。

2校が発表を終え、感想を聞かれた見上氏は「どちらも学生たちが自分の力で課題を見つけ、取り組んでいる。そしてやり切ったという達成感を感じているのが伝わってきた。実はそれがESDのいちばん大事なところだ」と両校の取り組みを評価。 

ファシリテーターを務めたNPO法人「日本持続発展教育(ESD)推進フォーラム」理事の岡山慶子氏は、「自分達には社会を変える力があると確信する学生たちが現れているのは、ESD教育の成果だ。教育に携わる人たちと企業が連携して社会を変えていければ」と話し、セッションを締めくくった。

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