第4回未来まちづくりフォーラム① 日本SDGsモデルの最前線 ――より良き回復(Build Back Better)に向けて

内閣府が選定する「SDGs未来都市」は全国124自治体に広がり、カーボンニュートラルやDXといった大きな変革が求められる今、まさに日本でもSDGsの時代が訪れているといえる。そんな中、自治体や企業・団体による「まちづくり」を目指す、第4回「未来まちづくりフォーラム」が2月25日にパシフィコ横浜(SB 2022 Yokohama会場内)とオンライン配信で開催された。テーマは、「日本SDGsモデルの最前線―より良き回復(Build Back Better)に向けてー」。産官学のさまざまな分野のアクターの連携によって日々進化するSDGsの目標達成に向けた取り組みが講演やパネルディスカッションを通して多角的に語られた。(岩﨑唱)

オープニング

フォーラムは、内閣府特命担当大臣の野田聖子氏によるビデオメッセージで開幕。2030年のSDGs達成に向けて全省庁が一丸となり、ジェンダー平等や子どもの貧困対策にも積極的に取り組んでいることが報告された。

2018年度に始まった「SDGs未来都市」は2021年度までに124にのぼり、政府は複数の自治体が広域で連携する脱炭素化やデジタル化などのプロジェクトに対しても支援を拡充している。野田氏は地域におけるSDGsの達成には「官と民の連携が重要」と強調し、「多くのステークホルダーが議論し交流することで持続可能なまちづくりが広がっていくことを期待する」とした。

続いて熊本県知事の蒲島郁夫氏がビデオ登壇し、2019年12月に国に先駆けて2050年CO2排出実質ゼロを宣言した同県のSDGs達成に向けた取り組みを紹介。昨年3月にはSDGsを指針に新しい熊本創造を目指す基本方針を策定し、SDGsの取り組みを見える化する「熊本県SDGs登録制度」を創設、登録事業者は1年で1000件を超え、大きな反響を呼んでいるという。

地震や豪雨災害にコロナ禍が加わり、大きな困難に見舞われている同県だが、蒲島知事は「逆境の中にこそ夢があるという信念の下、誰一人取り残さない持続可能な熊本づくりを実現し、さらなる発展につなげる」と決意を語った。

SDGsはグレート・リセット時代の羅針盤

「カーボンニュートラル時代のSDGs経営と関係者連携。変化の中でのサバイバルを探る」ーー 笹谷秀光・未来まちづくりフォーラム実行委員長

産官学の経験を生かし、CSR /SDGsコンサルタントとして活動する笹谷氏は、「SDGsが主流化し、お題目ではなく政策や事業に生かす時代になっている」と指摘。さらにSDGsが世界共通言語と言われる理由は、「国連の加盟193カ国の合意による『2030アジェンダ』にヒントがあり、17の目標、169のターゲットまで読み解く必要がある」とした上で、グレート・リセット(大変革)の時代に通用する羅針盤がSDGsと位置づけた。

「まち」は経済、環境、社会などあらゆるシステムの集合体であることからSDGsの目標11番の「住み続けられるまちづくりを」を中心に置いて「未来まちづくり」をすることで、すべての目標に貢献することができる。また各目標をターゲットレベルに落とし込み、相互の関係性を理解した上で、「今はこの段階にあるんだ」というポイントを確認しながら動くことも肝心だ。仲間づくりや産官学金労言の連携、協働のプラットフォームづくり、そして情報をしっかり発信(開示)し、自分・相手・世間の『三方良し』にすることで協創力を高める重要性を、笹谷氏は訴えた。

小さな山村から世界へ、地球へ

「SDGs未来都市『真庭』の挑戦」ーー太田昇・真庭市市長

続いて、2019年にSDGs未来都市に選出された岡山県真庭市の太田昇市長が登壇し、木材産業が盛んな人口4万人の同市の戦略を紹介した。地域から出る木材を余すことなく使い切る循環経済圏の構築を目指す挑戦の出発点には、エネルギー自給率が11.8%、食料自給率も38%と低い日本の現状を変えるために、「真庭市が先頭に立つという決意があった」という。

そこから「木を使い切る真庭」を掲げ、それまで産業廃棄物となっていた製材過程などで出る端材等を燃料として木質バイオマス発電所で使用し、太陽光、水力なども合わせ真庭市全体でエネルギー自給率62%を実現した。将来的には電力需要のすべてを地産の自然エネルギーで賄うことを目指している。

さらに、生ごみ・し尿などをバイオ液肥に変換し農業で活用し、その副産物のバイオガスを発電に利用する取り組みも。すでに試験プラントでの実証を終え、2024年には本格プラントの稼働を予定している。また「真庭SDGs円卓会議」を設置するなど、SDGsを市民運動として推進しているのも特徴だ。

昨年12月のCOP26では、日本を代表するSDGs未来都市として、その取り組みを世界へと発信した太田市長。「小さな山村から世界へ、地球へと視点を向けている。まだまだ不十分ではあるものの、未来都市に選定されてからの4年間でSDGsの実践が質量ともに広がりを見せているのが嬉しい。生ごみとし尿から液体堆肥をつくる取り組みなどは特に、農山村であれば実現できるので、全国に広めていきたい」。未来への思いを熱く語った。

リアルな場所の価値をどう引き出し、発展させるか

「コロナ時代のスマートで持続可能なまちづくり」――小泉秀樹・東京大学 先端科学技術研究センター教授

「SDGsの目標11番の『住み続けられるまちづくりを』は、社会、経済、環境が関係する目標を統合的に良くする重要なもの。よりよい『まち』ができれば、社会の持続可能性は格段に変わる」。小泉秀樹氏は冒頭、そのように述べ、まちづくりの手段ともなる「場所や移動の在り方」について提言した。

街づくりや都市計画は、都市と郊外を分離して住みやすい環境をつくり、それらを鉄道や道路でつなぐところから始まった。それが1960〜70年代以降、都心回帰や都市を再生する動きが世界各地で活発化する。2000年代には「政府が都市再生を後押しし、そこに企業や市民が参加するまちづくり」が行われてきたが、「今、その都市回帰と都市再生の後に何が来るのかが問われている」という。

その際、重要なのは、少子・高齢化と気候変動という大きな社会的状況を踏まえて新しい時代のまちづくりを考えていくこと。その方法について、小泉氏は「個人的な考えだが」と前置きした上で「場所の持つ価値を大切にし、それを市民や企業、行政など多様な主体が連携し、共有しながら実現していくことではないか」と述べ、人口1万人の長野県小布施町が各地にオープンガーデンをつくって場所の魅力を高めている事例などを紹介した。

with/afterコロナ時代のまちづくりにおいては「オープンな空間が見直され、公園、道路、農地などが新しい価値を持ってくる」。また最近ではメタバースと呼ばれるバーチャル空間での社会的、経済的な活動も広がる中で、バーチャルには代替できないリアルな場所の価値をどう引き出し、発展させていくかといったことも論点になっている。

小泉氏は、「ITシステムの発展でリモートワークやワーケーションも進んでいる。都市と地方の関係をデザインしなおすことで、より持続可能なまちづくりや国土形成を実現できる可能性がある」と強調し、講演を締めくくった。

2025大阪万博は「SDGs万博」すべての人が生き生きと過ごせる世界をつくる

「次世代の観光と街づくりへの挑戦。SDGs達成に向けた2025万博を起爆剤に」――田中嘉一・大阪観光局MICE政策統括官

コロナ前の2019年に来阪外国人旅行者数が1231万人と過去最高を記録した大阪の観光産業は、コロナ禍で大打撃を受けた。田中嘉一氏は道頓堀や心斎橋から人影がなくなった写真を見せながら、「伝統的な商店街がいつのまにか外国人目当ての商店街になっていた。我々は目先の利益だけに目を奪われていたのではないかとそこで初めてオーバーツーリズムの問題に気づいた」と振り返った。

その反省から、「コロナ後は元に戻すだけではなく新しい価値をつくらなければならない。街の魅力を向上させ、住む人がハッピーにならなければいけない」という決意を抱き、「観光とは街づくり」という発想にたどり着いたという。

その発想に基づき、大阪観光局では、2030年に目指すべき都市のイメージを、世界が憧れる「住んで良し」「働いて良し」「学んで良し」「訪れて良し」の「世界最高水準、アジアNo.1の国際観光文化都市」と定め、2025年に開催される大阪万博を起爆剤として位置付けている。その理由は、「SDGsの目標達成年の5年前に開かれる『SDGs万博』であり、すべての人が生き生きと過ごせる世界をつくることを目指しているから」(田中氏)だ。

万博への機運や社会、経済へのインパクトを最大限に活用してSDGs達成を加速させるため、さまざまなアクションも起こしている。カーボンゼロ社会や地球温暖化抑制、生物多様性保全を目指した「日本みどりのプロジェクト」という官民連携の全国組織もその一つだ。

さらには行政や学校、経済団体と連携した「留学生支援コンソーシアム大阪」やLGBTQツーリズムにも注力し、2024年にはLGBTQツーリズムの世界最大の国際会議である『IGLTA』を大阪に誘致している。見据えているのは「性の多様性を理解し認め合う都市・大阪」の実現だ。

田中氏は「コロナ禍で価値観が進化し、さまざまな改革を行う千載一遇のチャンスが訪れている。未来を創るのは今であり、何ができるかを考えて行動することが重要。他とつながり共創をすれば、掛け算が生まれて大きな力となる」と連携を呼びかけて講演を終えた。

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