第4回未来まちづくりフォーラム② 大変革期に、日本の未来のまちづくりをどう進めるか

ポストコロナを契機に社会のグレートリセット(大変革)が進んでいる。カーボンニュートラル時代を迎え、企業はSDGsやDXを推進し、自治体と連携して未来まちづくりをしようとしている。「心ゆたかな暮らし(ウェルビーイング)」と「持続可能な環境・社会・経済(サステナビリティ)」の実現を目指すSDGsをもって、未来まちづくりを推進していくには協創力が重要だ。パネルディスカッション「カーボンニュートラル×ライフスタイル変革とウェルビーイング ―主流化するSDGsの最前線―」には、ファシリテーターとして経済キャスターの小谷真生子氏、パネリストとしてSDGs未来都市・岡山県真庭市の太田昇市長、NECネッツエスアイの牛島佑之社長、日立製作所の増田典生氏、笹谷秀光・未来まちづくりフォーラム実行委員長が登壇した。(岩﨑唱)

DXによって地域に好循環が生まれるまちづくりを:NECネッツエスアイ

企業のイノベーションにより、未来のまちづくりのためのDXをどう推進していけばいいかーー。NECネッツエスアイは創業以来、通信技術をもとに海底から宇宙まで、オフィスから街までのさまざまなインフラ構築事業を展開してきた。牛島社長は「15年前にIT技術をつかって自社の働き方改革を進め、これがDXへの取り組みのきっかけになった。現在は、まちづくりにDXをどう生かし、働き方改革から生き方改革へどうDXを進めていくかに取り組んでいる」と説明。具体的には、5GやA Iなどの最先端技術をまちづくりに生かし、「まちの中にいるだけで健康で長生きができ、健康状態がモニタリングでき、さまざまなデータにいつでもどこでもアクセスできるようなまちづくり」を行うことで、「環境配慮」「健康・長寿」「快適な生活」「安全・安心」のあるまちづくりを目指しているという。

環境配慮については、「環境問題は今、非常に重要な経営課題であり大きな接点でもある」とし、「環境配慮されたまちには、企業が来るし、投資をしたいという意向が出てくる。そのような動きを大きな循環に変えることが重要なポイントではないか」と述べた。同社は、カーボンニュートラルを目指すまちづくりが、行政課題の解決につながり、地域産業に還元され、新たなビジネスや雇用が生まれ、活気あふれる地域が創出されるというサイクルがまわっていく「循環型まちづくりモデル」を共創することをDXによって実現したい考えだ。DXについては「さまざまな技術が世の中にあるが、結論としては技術をどう使いこなしていくか、プロセスがいちばん重要。使いこなし方がDXの大きなポイントになる」と語った。

真庭市の太田市長は「非常に緊張感を持った。これを使いこなせるかどうかで自治体の10年後が変わってくる。一方で、市民がある程度理解しなければ自治体としては取り組めないという現状がある。真庭市では現在、スマート農業や自動草刈り機の導入、市役所に来なくても手続きができる仕組み、公金の取り引きをするときも手数料がほとんどかからないようにする、地域だけで利用できるポイント制の導入などに着手している」と説明した。

政策提言AIやカーボンニュートラル分野のDXでまちづくりに取り組む:日立製作所

SDGsをウィズコロナ、脱炭素の羅針盤としてどう活用すればいいのかーー。日立製作所の増田氏が事例を紹介した。同社ではSDGsの17の目標を、企業活動全体で貢献する目標と事業戦略で貢献する目標とに整理し、活用している。冒頭で増田氏は同社ならではのまちづくりのソリューションとして、京都大学と協働で開発した「政策提言AI」について紹介した。「エネルギー、環境、経済、財政、幸福、人口、医療、福祉など300ほどのイシューを取り込み、これをAIで分析し2万通り以上のシミュレーションを行い、最終アウトプットとして6〜7つほどの政策シナリオが出る。これを行政の首長に提言する」。2019年には真庭市も活用したという。

次にカーボンニュートラルに関して日立製作所は、2030年までに自社の工場、事務所でカーボンニュートラル、2050年までにバリューチェーン全体でのカーボンニュートラルを宣言し、2021年のCOP26では国内企業で唯一のプリンシパルパートナーとなった。カーボンニュートラルに関するDXの取り組みとして、増田氏は「再生可能電力は電圧が安定しないという課題がある。これを直流高圧伝送の技術を使って遠くへ安定的に送ることや、送電配電網をスマートグリッドに変えることで再生可能電力の安定的な供給に取り組んでいる。また、鉄道やEVへの電装品の部品供給によりクリーンなモビリティの実現を通してまちづくりに貢献していきたい」と語った。

日立製作所が主導し、増田氏が共同代表理事を務める一般社団法人ESG情報開示研究会は、グローバル動向を睨みながらESG経営やESG情報開示の在り方を考える民間コミュニティで、100以上の事業会社や機関投資家、監査法人、官公庁などが参画する。研究会は2022年7月、2年間の活動をまとめたホワイトペーパーを発表しようとしている。増田氏は「ESGは投資家サイドから上がってきたキーワードだが、SDGsの中に包含されるものと理解している。研究会では、事業体や機関投資家がSDGsの発展にどう貢献できるか議論を進めている」と述べた。

地方自治体は、SDGsを土台に市民の幸せづくりを応援する条件整備会社:真庭市

同社の政策提言AIを活用した太田市長は「この10年、今この時に過疎・過密問題に取り組まないと農山村がへたってしまってダメになる。過疎・過密問題にきちんと取り組まなければ、災害や日本経済、日本の将来も大変なマイナスになるという分析が出ている。しかし、こうした分析を自治体の長が方針としてどう出していくかが難しい。自治体の長は市民がベースにあっての長であり、未来のことばかりやっていると落選してしまう。そうしたことや厳しい現状の課題のなかで、首長は非常に現実的で近視眼的になっている。現実の解決に対応しながらも、やはり20年、30年、50年、100年先をどう見るか。その問題意識を持って、また市民と国民と問題意識を共有しなければ本当にダメになる。真庭市は小さな自治体だが、そういう問題意識を持ってやっているつもりだが、なかなか難しい問題もある」と明かした。

さらに、市長は「地方自治体は市民の幸せづくりの条件整備会社だと思っている。皆さまのお話をお聞きしていて、自治体は地域を経営するコングロマリット企業と考えてもいいのではないかと思った。自治体も地域にさまざまな投資をしている。政策にSDGsを取り入れながら、SDGsの視点から投資をすることで地域が豊かになる。SDGsを土台に置きながら政策を考えると、その先に市民の幸せがあると思う」と話し、その後も活発な議論が繰り広げられた。

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