60歳手前の専業主婦「扶養のままで国民年金を満額まで増やせますか?」年金額を増やす具体的な方法

日頃からファイナンシャル・プランナーとして活動している筆者ですが、扶養に関する相談も多くいただきます。今回は、まもなく60歳になるAさんの相談事例を基にお伝えします。


60歳以降も夫の扶養に入れば年金未納分を穴埋めできるの?

長年夫婦で共働きをしていたAさんですが、体調を崩したことから58歳で退職、現在は専業主婦をしています。「老後資金の備えに不安がある」ということでお話をさせていただきました。Aさんのように老後のお金に不安を抱える人は多いと実感しています。

まずはじめに筆者が確認するのが公的年金の受給見込額です。多くの場合、老後の収入の柱は公的年金であり、年金額は人によって大きく異なるからです。年金額が充分なら老後資金の不足にそれほど頭を悩ませる必要がありませんし、逆の場合は早急に対策を講じたほうがよいです。

Aさんのねんきん定期便を拝見すると、老齢基礎年金が68万円ほどと満額より10万円程度少ないことがわかりました。国民年金は20歳から60歳までの40年間加入すると満額(約78万円)を受け取ることができます。つまり、年金保険料を1年納めると、受け取る老齢基礎年金額が2万円ほど(78万円÷40年)増えていくと計算できます。

年金額が10万円少ないということは、保険料が未納、あるいは免除を受けていた期間があったことになります。確認したところ5年ほどの未納期間がありました。

話は戻りますが、現在のAさんは、夫の扶養に入り国民年金保険料を自分で納める必要がない、いわゆる「国民年金第3号被保険者」です。Aさんの夫は、この先5年間は会社員で厚生年金に加入予定です。

「このまま夫の扶養内でいれば国民年金の未納分を穴埋めして受給額を満額にすることができる?」とAさんは思っていたのですが、前述の通り、国民年金の加入義務は20歳から60歳までです。言い換えると60歳以降の加入義務はありませんから、残念ながら年金制度上の扶養に入ることはできません。

任意で加入すれば国民年金(老齢基礎年金)を増やせる

扶養には入れませんが、60歳以降に国民年金に加入して年金額を増やすことは可能です。
「任意加入制度」という、言葉の通り条件を満たす事で国民年金に任意加入できる制度です。

加入には、以下の条件を全て満たす必要があります。

・日本国内に住所を有する60歳以上65歳未満の方
・老齢基礎年金の繰上げ支給を受けていない方
・20歳以上60歳未満までの保険料の納付月数が480月(40年)未満の方
・厚生年金保険、共済組合等に加入していない方
・日本国籍を有しない方で、在留資格が「特定活動(医療滞在または医療滞在者の付添人)」や「特定活動(観光・保養等を目的とする長期滞在または長期滞在者の同行配偶者)」で滞在する方ではない方

日本年金機構「任意加入制度」より引用

Aさんは今後働くかもしれないものの、厚生年金には加入せずに個人事業主として体調を見ながら自分のペースで仕事をしたい、との思いがあることから、任意加入制度への加入を検討することにしました。

任意加入で増やせる年金額はどのくらい?

具体的にAさんが5年間任意加入した場合、保険料納付額と年金増加額はどの程度か見てみましょう。

・5年間の保険料納付額(総額):99万5,400 円
・65歳から受け取る老齢基礎年金増加額(年額):約9万7,200円
※2022年度の保険料額、年金額で算出

10年間で約97万円となるので、概ね75歳より長生きすれば納付した保険料の元がとれることになります。寿命次第ではありますが、女性の平均寿命87歳まで生きれば22年間の増加額は約214万ほどになります。

付加保険料の納付でさらに年金額が増やせる

上記の任意加入制度とあわせて、筆者からアドバイスさせていただいたのが以下の2点です。

1.「付加保険料」を合わせて納付すると、さらに受け取る年金額を増やせる

任意加入被保険者(65歳以上の方を除く)の場合、月額400円の付加保険料を納めると、老齢基礎年金と合わせて付加年金を受け取れます。受け取れる具体的な付加年金額は「付加保険料納付月数×200円=付加年金額(年間)」で計算できます。

例えば、5年間(60月)で総額24,000円の付加保険料を納めると、付加年金額は年額12,000円になります。2年間受け取れば、納めた保険料の元が取れるのでオススメです。先ほど計算した任意加入の年金額に加えて、平均寿命の87歳まで生きれば、付加年金により22年間で26万4,000円のプラスとなります

2.夫が保険料を納めることで税金が軽減できる

納めた保険料は全額が社会保険料控除の対象となります。夫の年収の方が高ければ、夫の所得税や住民税を減らせますから節税効果が高くなり、実質の保険料負担も減らせるわけです。ただし、任意加入の保険料納付は原則口座振替のため、口座名義を夫にしておく必要があります。

老齢基礎年金を増やすと、将来のおひとりさま対策に効果あり

最後にAさんにお伝えしたのが、老齢基礎年金の受給額を増やすメリットです。夫婦の場合、最終的には単身(おひとりさま)になるケースが多く、男女の寿命を考えれば女性の方が長生きする可能性は高いでしょう。

厚生労働省の調査によると、男女60歳時の平均余命の差は約5年です。年金暮らしの夫婦の夫が亡くなったとき、残された妻は自身の老齢基礎年金と条件を満たせば遺族厚生年金を受け取れます。ただし、遺族厚生年金は妻自身の老齢厚生年金との調整が入るため思ったより少ない金額になることもあるのです。

また、妻の老齢基礎年金受給を66 歳以降に繰り下げて年金額を増額することを計画していても、遺族年金を受け取る権利が発生すると繰り下げができなくなってしまいます。このようなケースでは、任意加入して妻自身の老齢基礎年金を満額に近づけておければ安心と言えます。

なお、任意加入や付加保険については過去に遡って保険料を納めることはできません。まもなく60歳になるAさんは、早速、年金事務所に行き、まずは年金受給額を増やす対策を行うことになりました。

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