本気を問いたい

 人の役回りや所作が、ぎこちなさを感じさせない状態になることをいう「板につく」の「板」は、演劇や歌舞伎の板張りの舞台から来た言葉だ。立派なステージに違和感なくフィットして見えるためには、そこに立つ演者たちの努力の積み重ねが欠かせない▲この言葉で真っ先に思いつくのは将棋の藤井聡太五冠の和服姿だ。叡王位の防衛を決めた昨日の装いは薄茶色の長着に白の羽織。涼しげな色合いが初夏の陽気によく似合った▲ひのき舞台で結果を出し続ける19歳の姿を頼もしく眺めながらこちらはどうだろう-と考える。来年の先進7カ国首脳会議(G7サミット)の開催地が被爆地・広島に決まった▲「核兵器の脅威と軍縮・平和の重要性」を発信するのに、これ以上ふさわしい場所はあるまい。「核兵器の惨禍を二度と起こさない誓いを世界に示し、平和と世界秩序と価値観を守るための結束を確認したい」と岸田文雄首相▲首相の意気込みには何の異論もない。しかし、その政府は、例えば、核兵器禁止条約への署名や締約国会議へのオブザーバー出席を巡ってゼロ回答を繰り返し、被爆地の私たちを落胆させ続けてきた政府でもある。核を語る資格が危うい▲舞台に立つための準備を改めて積み重ねてもらわねばならない。本気度を厳しく問いたい。(智)

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