NASAの火星探査機「インサイト」が最後のセルフィーを撮影

【▲ NASAの火星探査機「インサイト」が撮影した“最後のセルフィー”。2022年4月24日撮影(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

こちらはアメリカ航空宇宙局(NASA)の火星探査機「InSight(インサイト)」が撮影したセルフィー(自撮り)です。インサイトのロボットアームに取り付けられているカメラを使って2022年4月24日(ミッション1211ソル目※)に撮影された複数の画像を組み合わせて作られたもので、NASAのジェット推進研究所(JPL)から2022年5月23日付で公開されています。

左右に展開された2枚の太陽電池アレイをはじめ、表面を塵に覆われてしまったインサイトの様子が一目瞭然です。JPLによれば、この画像はインサイトが撮影した最後のセルフィーとなりました。

※…1ソル=火星での1太陽日、約24時間40分

2018年11月27日にエリシウム平原へ着陸したインサイトは、火星の内部構造解明を目的に開発された探査機です。着陸翌月の2018年12月に設置された火星地震計「SEIS(Seismic Experiment for Interior Structure)」は、これまでに1300件以上の「火震」(火星の地震)を検出。SEISが検出した地震波の解析によって、火星のコア(核)が液体であることをはじめ、コアのサイズ地殻の厚さなどが判明しています。

【▲ 火星のエリシウム平原に設置されている火星地震計「SEIS」(中央のドーム状の装置)(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

インサイトのミッションは着陸から2年間(火星での約1年間)の予定でしたが、2022年12月まで2年間延長されていて、2022年5月4日には火星での観測史上最大の規模となるマグニチュード5の地震を検出することに成功しました。

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しかし、インサイトは太陽電池に積もった塵による発電能力の低下に悩まされています。JPLによると、着陸当初の電力量は1ソルあたり約5000ワットアワーだったものの、2022年5月現在はその10分の1となる約500ワットアワーしか得られていません。

次に掲載する画像はインサイトが撮影した最初のセルフィーです(2018年12月6日、ミッション10ソル目に撮影)。冒頭のセルフィーと見比べると、着陸から3年半ほどの間に積もった塵の深刻さがうかがえます。

【▲ NASAの火星探査機「インサイト」が撮影した“最初のセルフィー”。2018年12月6日撮影(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

発電能力が低下しているため、インサイトのロボットアームは2022年5月に静止位置に固定されました。JPLではretirement pose(引退姿勢)と呼ばれています。機体の全体が写ったセルフィーを作成するにはロボットアームを動かして複数の画像を取得しなければなりませんが、インサイトのロボットアームが動くことはもうありません。冒頭でも触れたように、今回公開された画像はインサイトにとって最後のセルフィーとなりました。

JPLによると、火星では今後数か月に渡り季節変化にともなって大気中の塵が増加し、日差しが弱まるために、利用可能な電力がさらに減っていくことになるといいます。2022年5月末以降はSEIS以外の科学装置を作動させる機会はほぼなくなり、夏の終わり頃にはSEISも停止される見込みです。その後もインサイトは地球との通信を継続したり、時折撮影した画像を送信したりするための電力は確保できるものの、2022年12月頃には得られる電力量がかなり低くなり、通信が途絶すると予想されているとのことです。

関連:NASA火星探査機「インサイト」2022年12月頃にミッション終了の見込み

Source

  • Image Credit: NASA/JPL-Caltech
  • NASA/JPL \- InSight's Final Selfie

文/松村武宏

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