【韓国】新KTX、地方観光を活性化[運輸]

世界遺産都市「安東」・現地ルポ

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高速鉄道化された中央線で運用されている新型車両「KTX—イウム」=韓国、2022年5月17日(NNA撮影)

韓国では近年、全国的に高速鉄道網の再整備が進んでいる。その1つに、2021年1月に開通した「中央線(新線)」がある。新型車両「KTX—イウム」を採用した同路線は、ソウル市から世界遺産を有する安東市(慶尚北道)までの移動時間を1時間以上短縮し、アクセス性を大きく改善した。最終的には、多くの世界遺産を持つ慶州市を経由し、釜山市まで延長する計画だ。NNAは今回、韓国国土交通省が主催した海外メディア向けプレスツアーに参加し、より身近になる地方都市の魅力に迫った。【清水岳志】

韓国の中東部に位置する安東市。朝鮮時代から儒教的文化の中心地として栄えた都市で、日本の統治下では多くの独立運動家を排出したとされる。韓国の伝統的な生活様式が色濃く残り、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産にも登録されている集落「河回村」は、外国人観光客からも人気が高い。

■日帰り観光も容易に

観光スポットを多く抱える安東市だが、ソウル市からのアクセス性の悪さがネックとなっていた。これを改善したのが、今回のプレスツアーで乗車した「中央線(新線)」だ。

中央線は◇ソウル市—釜山市を結ぶ「京釜線」◇ソウル市—全羅南道を結ぶ「湖南線」◇ソウル市—江原道を結ぶ「江陵線」——に続く4本目の韓国高速鉄道で、21年1月に開業した。もともとは日本統治下の1942年に敷設された路線だが、山間をうねるように走る旧路線を廃し、一部を高架化して高速鉄道化した。

これにより、ソウル市東部の清涼里駅(東大門区)から安東駅までを約2時間で走破する。これまで安東市を訪れるには、旧中央線か高速バスを利用するしかなく3~4時間かかっていたが、中央線の高速鉄道化によりアクセス性が大幅に向上し、ソウルからの日帰り観光も容易になった。

権寧世(クォン・ヨンセ)安東市長は、プレスツアーに参加した記者との懇談会で「安東市には河回村だけでなく、『韓国の書院』の一部として世界遺産に登録された陶山書院と屏山書院、『世界の記憶』に登録された儒教の印刷木版など多くの文化遺産がある」と説明。さらに「河回別神グッ仮面劇の『無形文化遺産』登録も推進中だ」とし、観光地としての安東市の魅力をアピールした。

世界遺産に登録されている安東市の人気観光地「河回村」=韓国、2022年5月17日(NNA撮影)

■独立運動家の生家を復元

中央線の高速鉄道化に合わせ、安東市は新しい観光資源として独立運動家・李相竜(イ・サンニョン)の生家「安東臨清閣」の復元も進めている。

韓国の宝物にも指定されている安東臨清閣は、日本統治時代に旧中央線(当時は京慶線)の敷設によって99棟の建物のうち33棟が撤去された。韓国では「抗日運動への報復のために撤去された」という説が定説となっている。

また、目の前には韓国4大河川の1つである洛東江が流れており、美しい景観も大きな魅力となっている。

■新型KTXはエコ車両

高速鉄道化された中央線を走るのは、新型車両「KTX—イウム」。KTXとしては、フランスのTGVの韓国仕様である「KTX—I」、国産技術で開発された「KTX—山川」に続く3種目で、韓国では初の「動力分散方式」が採用された。客車の前後に動力車が配置される「動力集中方式」とは異なり、全ての車両を客車として利用できるため、KTX—山川に比べて座席数を約75%増やすことができたという。

韓国国交省は、KTX—イウムを「低炭素・エコ高速鉄道」と位置付ける。ムグンファ号など韓国の多くの広域鉄道ではこれまでディーゼル車両が使用されてきたが、電気で走るKTX—イウムの導入により、21年時点で237両だったディーゼル車両を29年までに40両まで減らす計画だ。

同省の関係者は「ディーゼル車両の削減による温暖化ガスの削減効果は年7万トンに達し、政府が目標に掲げる50年の炭素中立(カーボンニュートラル)の実現にも近づける」と説明した。

安東市がユネスコの無形文化遺産への登録を目指している「河回別神グッ仮面劇」=韓国、2022年5月17日(NNA撮影)

■慶州・釜山まで延長へ

高速鉄道化された中央線は現在、忠清北道丹陽郡の嶋潭駅—安東駅間の複線化工事が進んでおり、今年下半期には完工する予定という。複線化が完了すれば列車交換(すれ違い)の必要がなくなるため、運行効率の向上が可能だ。

中央線は今後、安東駅からさらに延長され、24年には多くの世界遺産を有する慶州市(慶尚北道)の新慶州駅につながる計画だ。さらに高速鉄道「京釜線」に乗り入れることで、最終的にはソウル・清涼里から釜山までの直通路線となる。

既存の京釜線に加えて清涼里—安東—慶州—釜山の中央線が完成すれば、観光ルートの選択肢が増えることになる。また、鉄道網が比較的少なかった忠清北道や江原道からソウル市や釜山市へのアクセス性も向上するため、国内観光産業の促進にもつながるといった期待が大きい。

24年には安東駅から新慶州駅まで延長される中央線。写真は、安東駅から新慶州方面に伸びる未開通の中央線高架橋=韓国、2022年5月17日(NNA撮影)

■拡大する高速鉄道網

中央線のほかにも、全国各地で高速鉄道の敷設計画が推進されている。

江原道では、東海岸の束草市とドラマ「冬のソナタ」の舞台で有名な春川市を結ぶ総延長93.7キロメートルの「東西高速化鉄道」を建設中だ。総事業費として約2兆4,400億ウォン(約2,500億円)が投じられ、27年の開通を予定している。

東西高速化鉄道は、ソウル・首都圏で進む首都圏広域急行鉄道「GTX(Great Train Express)」のB路線(GTX—B、23年着工予定)ともつながる見通しだ。GTX—Bは仁川市の松島からソウル市を通過し、京畿道南揚州市の磨石駅を結ぶ路線だが、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は春川市まで延長する方針を明らかにしている。実現すれば、仁川市から束草市までの直通列車が誕生する可能性がある。

GTXにはB路線のほか、A路線(GTX—A)とC路線(GTX—C)がある。A路線は19年12月に着工済みで、24年6月に開通予定。C路線は今年着工し、27年の開通を目指している。

高速鉄道網の整備が進めば、外国人観光客が地方の有力な観光地にアクセスしやすくなり、地域経済の発展にもつながる。ただそのためには、観光客誘致のためのグローバルな広報活動も欠かせない。インフラ拡充にとどまらず、沿線の地方自治体との意思疎通が重要な課題となりそうだ。