そもそも「メタバース」とは?一般に使われるようになるのはいつになるのか?

ゲームチェンジ(従来のルールや価値観が崩壊し、新たな枠組みに切り替わること)が起きていると言われるほど、次世代インターネットへの注目が高まっています。インターネットが向かう次のステップは、どういった世界なのでしょうか?

gumi創業者の國光 宏尚( @hkunimitsu )氏の著書『メタバースとWeb3』(エムディエヌコーポレーション)より、一部を抜粋・編集して「メタバース」について解説します。


メタバースとは何なのか

いま、みなさんが目にするメタバースですが、これはVR、AR、MR、XR、ミラー・ワールドのリブランディングと言い切っていいでしょう。

メタバースとWeb3はコインの表裏の関係であり、まだ概念的な話も多いため理解しにくい部分もあるのは事実です。

とくにメタバースとWeb3をうまくつなげる定義がなかったこともあり「よくわからない」という印象を与えているのだと思います。

メタバースはそれを単独で理解するというよりも、Web3関連の事象とともに捉えることが大切です。その点を踏まえて、メタバースの概要とそれがもたらす未来を俯瞰していきましょう。

そもそもメタバースという用語は、「超越した」という意味を持つ「メタ(Meta)」と、「世界」という意味を持つ「ユニバース(universe)」を組み合わせた造語(Metaverse)です。

この言葉が最初に使われたのは、米国のSF作家ニール・スティーヴンスンが1992年に発表した作品、『スノウ・クラッシュ』であるとされています。この作品内において、メタバースは「インターネット上の仮想空間(情報によって構築されたサイバー空間)」として扱われています。その中でユーザーたちは、アバターと呼ばれる自らの分身を操作し、自由に空間を移動したり、行動したり、あるいは他の参加者とコミュニケーションを取ったりしています。

実際のキャラクターたちは、VRヘッドセットをかぶってサイバー空間に接続し、各々が別の場所にいながら交流しています。そのように、現実世界とは異なる空間を共有し、あたかも別世界で生活するような姿は、私たちの想像力を掻き立てます。それが意味するところは、現実の超越であり、時間と空間を含む多種多様な可能性です。

類似の世界観を共有する作品としては、漫画『攻殻機動隊』も世界的な人気を博しています。このような、かつてはSFの世界でしか語られてこなかった世界が、テクノロジーの進化・発展によって現実味を帯びてきています。旧フェイスブック社がメタに社名変更したことは、その動きを加速させているのです。

メタバース界隈の人たちが最終的に作りたい世界は映画の『レディ・プレイヤー1』です。スティーブン・スピルバーグ監督によって映画化された作品で、SF小説の『ゲームウォーズ』(SB文庫)というSF小説が原作です。日本では『ソードアート・オンライン』や映画『サマーウォーズ』もメタバースの世界観といえるでしょう。

メタバースを支えるテクノロジー

メタバースが、バーチャル空間におけるコミュニケーションの場である以上、そこにVR・AR・MRの技術が関係していることは想像に難くないと思います。むしろ、それらの技術が発展してきたからこそ、メタバースを取り巻く未来が加速しているのです。ここで改めて、それぞれの言葉の意味と違いを確認しておきましょう。

・VR(Virtual Reality):仮想現実

日本語で「仮想現実」と翻訳されているように、コンピューターグラフィックスなどのテクノロジーによってメタバースを作り出せるのが特徴です。VRの世界に入るには、Oculusをはじめとするヘッドマウントディスプレイや専用ゴーグルを装着する必要があります。装着後、目の前に映像が映し出されることに加え、その中でユーザーは自由に動き回り、没入感を体験しながら別世界で活動することができます。

・AR(Augmented Reality):拡張現実

VRがメタバースを作り出すのに対し、ARは現実を拡張させる(拡張現実)のが特徴です。具体的には、現実世界のさまざまな情報に対し、コンピューターで作り上げた画像や情報を重ねるようにして、目の前の世界を拡張させていきます。わかりやすい例でいえば、特定の紙や画像にスマートフォンをかざすと、追加の情報(キャラクターやテキストなど)が浮き上がって見えるような技術が挙げられます。

・MR(Mixed Reality):複合現実

ARの技術をさらに発展させたのがMR(複合現実)です。ARが現実世界を拡張しているのに対し、MRでは、あたかも現実世界にデジタル映像が存在するかのように投影することができます。代表的な事例としては、マイクロソフト社の「Microsoft HoloLens」が挙げられます。これは、現実空間に現れたホログラムの3D映像を見ることができるのに加えて、手や体の動きを通じて実際に操作できるのが特徴となります。

これらを総称するXRのうち、とくにメタバースと関連が深いのはVRです。

VRについて理解することは、よりメタバースの世界観を具体的にイメージするのに役立ちます。VRがどのようなものであり、ARやMRとともにどう社会を変えていくのかを、もう少しだけ掘り下げてみましょう。その先に、メタバースが実現する未来があります。

最初にVRが登場したのは、1930年代頃とされています。当時は飛行機の運転をシミュレーションするために開発されており、VRならではである「容易に体験できないことを仮想空間で行える」という意義がうかがえます。

その後、90年代に入りゲーム機にも応用され、2016年頃からはVR専用端末が次々に発表。市場が盛り上がります。

近年では、コロナ後に広まったテレワークやリモートワークでも、VRオフィスやVR会議などVRを活用する動きが見られます。さらには学校教育のシーンでも活用が模索されており、メタバースの市場は、エンターテインメント、オフィス、学校・教育への派生といった活用が期待されています。

だからこそ、可能性が大きいのです。

メタバースの発展にある3ステップ

どうやってメタバースが私たちの生活に浸透していくのか。そのロードマップには、次の三つがあります。

(1)世界中のゲーマーを取り込めるか
(2)タブレットやPC市場(職場や学校)を取り込めるか
(3)ポストスマホ(ARグラス分野)

コロナ禍の巣ごもり効果もあり、昨今VRヘッドセットは本当によく売れています。2020年はOculusQuest2だけでも約1,000万台くらい販売され、2022年は倍以上の2,000〜3,000万台(累計)という数字が見えています。

さらにソニーが「PlayStation VR2」を2022年にリリースすると発表。

アップル社もVRもARも対応したヘッドセットの発売を予定していますし、中国ではTikTokの親会社バイトダンスが、Pico(ピコ)というVRヘッドセットメーカーを800億円で買収したり、中国の映像配信企業アイチーイーが、4K解像度の新型一体型VRヘッドセット「Qiyu 2S」をリリースするなど、これまではメタ社のOculus Questの独壇場だったところ、さまざまなハードが揃うというのが2022年から2023年です。

ゲーム市場では、ゲーマーを確実に取り込んだ人気ハード機の目安が1億台でした。

これまでいちばん売れたゲームコンソールはソニーのPlayStation2で約1.6億台、次にPlayStation4で約1.1億台、さらに任天堂のWiiで約1億台です。Nintendo Switchも2022年2月に累計出荷台数が1億台を突破したと発表しました。

全世界のエンターテインメントの中でも音楽や映画を抜いて、ゲームがダントツの規模を誇っています。ソニーやマイクロソフトの決算の中でもゲーム市場がかなりの規模を占めているほど、一大産業になっています。

私は、VR関連で1億台という規模がいよいよこの3年以内に見えてくるのではないかと思います。そこまで来るとゲーム業界としても、かなり意味のある市場になってくる、これがまずは第一フェーズで、ここはクリアしたと見ています。

2021年8月にフェイスブックのAR/VR 部門FacebookReality Labsのヴァイスプレジデント、アンドリュー・ボズワースが、「Oculusのユーザー数が、自分たちの予想よりも早く1,000万人を超えることを確信している」とコメントしています。ゲームコンソールのマジックナンバーとして、1,000万台という数字があります。これを超えてくるとミリオンヒットなどが生まれやすくなり、ゲーム会社やIPホルダーにとっても意味のある市場になってくるので、彼らも本気になって参入してくるのです。

実際、VRゲームで「バイオハザード4」がリリースされたり、PlayStation VR2 専用タイトル「Horizon Call of theMountain」が発表されたり、とゲーマーの注目の人気IPタイトルも増えてきました。

そのため、ここ3年以内にトータル1億台で世界中のゲーマーを取り込むというのは見えているのです。

1億台の先でいうと、第2ステップのタブレットやPC市場をどう取っていくかが重要で、ここでのキーが職場や教育現場で「マストハブになる」です。

メタ社がVRワークスペース「Horizon Workrooms」をリリースしたのは、Zoomのポジションを取れるか、Officeと連携できるかで職場のマストハブになることが重要課題であったことが見て取れます。

さらに大事なのが教育分野です。語学、化学、歴史、数学などすべての教科において紙で見るよりもVRのほうが圧倒的にわかりやすくなります。

教育現場でタブレットはマストハブになってきていますが、同じくVRがそうなっていけばユーザー側もVRに慣れてきますし、何よりもゲーム機だと購入を渋る親御さんも勉強に役に立つものだと買ってくれるようになるかもしれない(笑)。

そのあたりはザッカーバーグもよく理解していて、彼は100億円規模の教育系スタートアップに向けたファンドを作っています。

実はゲームにはお金を出す投資家は多いのですが、教育はあまりお金にならないイメージもあるようで、なかなか教育分野でのスタートアップが出にくいという状況はあります。そこをザッカーバーグやメタ社を中心にイニシアチブをとって推進していくというのが第2ステップです。

第3ステップのポストスマホですが、これはVRではなくARグラスの分野になります。ARグラスの現在地として、アップル社が2022年後半から23年前半に初期型のARグラスをリリースする計画があります。さらにメタ社も現在開発中で同じく2022年後半にリリースされる予定です。グーグル社も2024年にリリース予定です。これらは日常的に着用できるモデルになると予想され、通話やバーチャル会議ができたり、スマホを触らずに情報を引き出せたり、という機能が期待されています。

こうなると私たちの仕事や生活スタイルはガラッと変わるでしょう。

ただ初期プロダクトローンチから定着するのに3年ほどはかかると見ています。

もし2022年後半にリリースが相次ぐとしたら、そこから3年後あたりが、2021年のVR元年に近いものになるでしょう。

いよいよ2025〜26年がAR元年となり、アーリーアダプター層で使われるようになってくるのではないでしょうか。そして、キャズム(溝)を越え一般の人々が使うようになるのは、その2〜3年後になるのではないかと思います。

著者 國光宏尚

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世界が注目する次世代Webの基本から、押さえておきたいトピックスまで満載。

2022年のいま、世界のマーケットで既存のサービスにとってかわる「ゲームチェンジ」が起きています。このムーブメントに乗り遅れないために知っておかなければならないのが「メタバース」と「Web3」です。驚異的な勢いでビジネス化が進むメタバース、話題のNFTや今後注目されるDAOにWeb3がどう絡んでいるのか? グローバル化、デジタル化という世界の変化に乗り遅れてきた日本企業、そして一個人がチャンスを掴める時代がいよいよやってきます。今後、世界で起きる大きな変化である「バーチャルファースト」への移行。本書ではいま知るべきことは何か、これから世界はどこに向かっていくのか、そして時代の波に乗るためのビジネスチャンスのヒントを、長年VRとブロックチェーンの領域でビジネスを手がけてきた著者が解説する、メタバースとWeb3の決定版。

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