【発売20周年】エミネム『The Eminem Show』:2002年で最も売れたアルバムが残したもの

エミネム(Eminem)がその辛辣なリリックと道義に反したユーモアでアメリカ郊外に住む人々を呆れさせていた頃がついこの前のような気がする。記録破りのアルバム『The Eminem Show』が2002年5月26日にリリースされてから20年が経ち、それは今やヒップホップという大砲の一部と化した。[(https://www.udiscovermusic.jp/columns/super-bowl-half-time-2022-review-of-all-performance)

年間で最も売れたアルバム

1999年と2000年に立て続けに『The Slim Shady』と『The Marshall Mathers』と2枚のアルバムを発売し絶好調だったエミネムは、白人のラッパーという珍しさで注目されただけではなく、物語をリアルに語れるアーティストであることを証明していた。

当時の期待と興奮はかなりのもので、2002年のアルバム『The Eminem Show』の発売予定日だった6月4日の約1か月前にアルバムはリークされてしまい、発売日前に海賊版が広まる被害を最小限におさえるためインタースコープ・レコードはアルバムの発売を早めることを決めた。

そして『The Eminem Show』はリリースから24時間以内に284,000枚が売れ、瞬く間に全米アルバム・チャートで1位となり、2002年、アメリカと世界で最も売れたアルバムとなった。それからプラチナ・ディスクを12回獲得し、全世界では2,700万枚以上の売り上げを果たしている。誰もが“エミネム・ショー”に行くことを望んでいたのだ。

アルバムの内容

過去の作品を通じてエミネムはその増幅されたもう一人の自分、”スリム・シェイディ”を世界に紹介した。”スリム・シェイディ”の中にエミネム自身のディテールもこっそり忍び込ませつつ、その男っぽい虚勢でできた揺るぎない盾を掲げ続けた。

『The Eminem Show』のすべてがエミネム自身ついての歌だ。「Cleaning Out My Closet」で家族との苦しみを追い払おうとしている時も、「Without Me」で名声について語っている時も、「Hailie’s Song」で父であることについて思っている時もそうだ。

後悔、怒り、もしくは絶望でも、彼は感情を完全に伝えることのできる数少ないラッパーの一人だ。「Cleanin’ Out My Closet」はエミネムのキャリアの中で最も予期していなかったヒットのひとつとなり、同じく内省的な「The Way I Am」や「Stan」よりもチャートで高くランク・インした。

より成熟したパーソナルな作品である『The Eminem Show』では、エミネム本人が更に制作で積極的な役割を果たした。多くのファンはエミネムのサウンドはドクター・ドレーが作り出したものだと思っているが、実際にはエミネムがアルバムの90%をプロデュースしており、ドクター・ドレーはアルバムのエグゼクティブ・プロデューサーを務めながら「Business」、「Say What You Say」、「My Dad’s Gone Crazy」を含むB面トラックで協力している。

深刻に考えすぎるイメージとダークなリリックにも関わらず、エミネムは常にヒップホップの陽気ないたずら者でもあり続け、他のラッパーではできないようなことが許されてきた。「Superman」での高速フリースタイル、スーパーヒーローをテーマにした「Without Me」のミュージックビデオなど、彼はヒップホップのステレオタイプを破壊し、“白人ラッパー”としてのイメージでふざけてみせた。

そして爽快に自己を客観視できているエミネムは、白人としての特権について「White America」では次のようにラップし自分自身と白人を皮肉っている。

Look at these eyes, baby blue, baby just like yourself
If they were brown, Shady’d lose, Shady sits on the shelf
But Shady’s cute,
Shady knew Shady’s dimples would help
この淡い青色の瞳を見てよ、きみと一緒だから
もし茶色だったらシェイディは負けちゃう、シェイディは棚に置かれたまま
だけどシェイディはキュートで
シェイディはそのエクボで得してるってわかってる

アルバムでは様々な音楽スタイルがミックスされており、「Sing For The Moment」ではエアロスミスの「Dream On」を激しくサンプリングしギターをメインとしたメロディがリズムに重ねられ、「Til I Collapse」ではクイーンの「We Will Rock You」の足を踏み鳴らす音と手を叩く音をサンプリングして、クロスオーヴァーなサウンドでロック・ファンをも魅了した。アルバムはグラミー賞で2部門受賞し、ローリング・ストーン誌では史上最高のアルバム500のひとつに選ばれた。

『The Eminem Show』は時代を超えて生き残る作品で、エミネムの比類なきフローと挑発的なリリックを象徴している。今では衝撃的ではないかも知れないが、ある世代にとっては20年前と変わらずに反逆的に言葉は吐き出されていく。

Written by uDiscover Team

__

発売20周年を記念し18曲が追加されたデラックス版
エミネム『The Eminem Show (Expanded Edition)』
2022年5月26日発売

© ユニバーサル ミュージック合同会社