今、最もストライカーらしいストライカー 上田綺世のプレーに2人の世界的名手を見た

J1 浦和―鹿島 後半、ゴールを狙う鹿島・上田=埼玉スタジアム

 ゴールを奪えるか、そうでないかは時の運があるだろう。ただ、シュートに対する意識の薄い選手は「ストライカー」の名を冠するべきではない。

 日本では近年、小難しい戦術ばかりを語る人が多くなった。ピッチに立つ11人の選手に平等に組織内のタスクを課す。このような考え方が流行する中で、攻撃陣にも過剰な守備の役割を求めている。結果、相手ゴールに一番近い位置にいるにもかかわらず、得点の期待感が薄い。前線の選手たちはチャンスをものにする前に、最後のひと踏ん張りのエネルギーを失っている。点を取れない最前線の選手に、新たな価値を見いだすために、このような言葉が生み出される。「ポストプレーがうまい」「前線でタメをつくることができる」「プレスで攻撃の方向を限定してくれる」。しかし、それは個人的にストライカーとは呼ばないと思う。

 日本ではこの3種類をひとまとめにしてストライカーと呼んでいる。チャンスにもシュートを打たない選手。チャンスにしかシュートを打たない選手。そして、シュートチャンスを自らつくり出す選手。おそらく欧州のトップシーンでは3番目の選手しかストライカーと呼ばない。

 5月21日のJ1第14節。浦和レッズ対鹿島アントラーズの試合で、この3番目のタイプの選手が絡んでゴールが生まれた。6月の強化試合シリーズの日本代表に選出されて、期待の大きい鹿島の上田綺世だ。

 前半6分のことだった。左サイドでボールを持った鈴木優磨が、正確なキックで右に展開する。それを和泉竜司が胸トラップからワンタッチでペナルティーアーク左にいた上田にラストパスを送る。浦和のDF岩波拓也、アレクサンダー・ショルツの前でボールを受けた上田には、二つの選択肢があった。DF2人のつくった門の間をゴール方向に割って入りシュートを打つ方法。そして、中央にいた岩波が寄せてきた逆を取って右側にボールを動かし、右足でシュートを打つ方法だ。次の瞬間、状況が変わった。シュートコースに対しスライディングしてきた岩波を外したことで、さらに選択肢が増えた。右のスペースをパス・アンド・ゴーでフォローした和泉が完全にフリーになったのだ。

 しかし、ストライカーとしての自負だろう。上田は和泉を使わず、自らシュートを放った。右膝下のコンパクトな振りで強烈なシュートを。これに反応した浦和のGK西川周作はさすがだった。それでも完全にはじき出すことはできなかった。こぼれ球にいち早く反応したのはアルトゥールカイキ。J1リーグで、ここ4試合に3ゴールを挙げるなど好調を維持している。決して簡単なボールではなかったが、右足でダイレクトにゴールへと送り込んだ。

 この試合まで8得点で、京都サンガのピーター・ウタカと得点王争いの首位を競っている。それを考えれば自らのゴールの積み上げにならなかったのは残念だ。ただ、得点場面でシュートに持ち込む上田のプレーのなかに、2人の歴史的なストライカーに通じるものを見たような気がした。一人は3度のバロンドールに輝いたオランダのマルコ・ファンバステン。もう一人は1966年W杯得点王に輝いたポルトガルのエウゼビオだ。

 クラブワールドカップ(W杯)の前身であるトヨタカップ。旧国立競技場で行われていた欧州と南米のクラブ世界一決定戦に、ACミランが来日したときのことだ。知り合いのカメラマンが教えてくれた。「ファンバステンがドリブルでボールを切り返すとき、必ず自分の体方向にボールを引っ張るんだよね」。ボールを横方向に動かすとき、前方向でも真横でもない。DFから遠ざかるように、自分の体方向に動かすから相手は飛び込めない。

 上田がDFの岩波を前にして、2タッチ右にボールを動かしたのもこれだった。このボールの動かし方をして、次のタイミングでシュートを放つにはかなり強い筋力が必要だ。腰を中心に体を急激にねじらなければいけないからだ。上田はシュートの瞬間、ボールを軸足の後方に置いている。このシュートをできる日本選手は、ほとんど見たことがない。これを得意としていたのがエウゼビオだ。釜本邦茂氏もエウゼビオの影響を受けたという。なぜなら軸足の後方にボールを隠すとDFに触られる心配がないからだ。

 上田のシュートを放つこと対する意識は高い。後半の序盤、ペナルティーエリア外から狙ったシュートからは、常に狙っているという姿勢が伝わってきた。後半23分、ショルツに競り勝って放ったヘディングシュートは決定的だったが、惜しくもGK西川の正面を突いた。結局、試合は1―1の引き分け。上田は無得点に終わった。それでも、両チーム最多の5本のシュートを放っている。

 W杯を見据えた今、上田は日本選手として最もストライカーらしいストライカーなのではないか。確かに、古橋亨梧はいる。ただ古橋はパスを出してくれる相棒を必要とするストライカーだ。残念ながら現在の日本代表には、かつてはあまるほどいた一発のキラーパスの名手がいない。それを考えれば、誰にでも合わせられるオーソドックスな上田は使い勝手の良い選手だろう。本大会に向け、日本代表でのコンピネーションを高めてほしい。

 もちろん、森保一監督には、大迫勇也という選択肢がある。ただ、大迫はドイツのブンデスリーガで日本に戻る前のシーズンは低調だった。W杯では初戦でドイツと当たる。それを考えれば、脅威に思われていない選手よりも、情報を与えていない選手を起用するのも一考だろう。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材は2018年ロシア大会で7大会目。

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