サム・スミス『In The Lonely Hour』解説:驚くほど成功したデビュー・アルバム

アデルの王座を我こそが手に入れるべきだ、と主張できる男性ヴォーカリストがいるとしたら、サム・スミス(Sam Smith)はその候補者となることは間違いない。

サムのデビュー・アルバム『In The Lonely Hour』は2014年5月に発売され、優しい話し方をする英国人シンガー・ソングライターは世界的メガ・スターとなった。

そこまで売れなかったデビュー曲

サム・スミスはディスクロージャーの2012年のシングル「Latch」にゲスト参加して最初の注目を集め、同じくゲスト参加したノーティ・ボーイのシングル「La La La」は2013年5月にUKチャートのトップを飾ることになり、サム・スミスを代表する最初の曲となった。

その後に初のソロ・シングル「Lay Me Down」が発売されたが、残念ながらUKトップ40に登場することはなかった。それでもこの曲は時間と共に、10曲収録されたデビュー・アルバムのハイライト・ソングとなる。

驚異的に売れたデビューアルバム

デビュー・アルバム『In The Lonely Hour』は、2014年のUKで最も売り上げが多かった2番目のアルバムとなり、アメリカでは3番目の売り上げ数を記録。3枚目のシングル「Stay With Me」はUKチャートのトップを飾り、アメリカでは2位にランクインされた。

サム・スミスの成功の秘密は、アデルと似ているといえる。パフォーマーの人格が溢れ出てくる素晴らしいヴォーカル、そしてその声で歌われるインパクトのある曲がそれだ。セカンド・シングル「Money On My Mind」は特徴のあるダンス調のサビを中心とし、アルバムの真のブレイクスルーとなったヒット曲で、サム・スミスの繊細さが活かされている。

リスナーの共感と批評家からの絶賛

優しいバラード「Stay With Me」はサム・スミスにとっての最高のパフォーマンスを披露した世界的ヒットとなり、アメリカの影響力のあるアダルト・コンテンポラリー・ラジオ局でもオンエアされるようになった。

サム・スミスが見せた無防備な脆さにリスナーたちは共感し、アルバムの一部がサム・スミス自身の傷付いた心から作られたことがわかると更に心をグッとつかんだ。2010年代は自由な時代ということもあり、サム・スミスのセクシャリティが作品に対して悪い評判を呼ぶことはなく、愛することや失うことをテーマにしたアルバムはジャンルや世代を超えて受け入れられた。

2014年のMOBOアワードでは最優秀アルバムを受賞。その他にも「Stay With Me」で最優秀男性ヴォーカリスト、最優秀R&B・ソウル・アクト、最優秀曲を受賞した。続くグラミー賞では6部門にノミネートされ、4部門を受賞した。そのひとつは「Stay With Me」で獲得した主要部門である年間最優秀楽曲だ。更には、UKではアルバムが100万枚の売り上げを突破し、数週間後の2015年2月に開催されたブリット・アワードでもその栄光は続いた。

デラックス盤と007主題歌

後に発売された『In The Lonely Hour』のリイシュー盤(タイトルは『Drowning Shadows Edition』)には13曲が収録され、その中にはジョン・レジェンド、エイサップ・ロッキー、そしてサム・スミスのヒーローであるメアリー・J.ブライジとのデュエットが含まれている。

R&Bディーヴァたちは確実にサム・スミスの音楽的方向性を定め、女性ヴォーカリストの力強いパフォーマンスで知られる楽曲をまったく躊躇うことなく歌った。エイミー・ワインハウスの傑作「Love Is A Losing Game」のカヴァー、そしてホイットニー・ヒューストンの「How Will I Know」のテンポを下げたカヴァーもまたリイシュー盤の際立つトラックとなっている。

驚くほど成功したデビュー作品から今日までにサム・スミスはもう1曲ディスクロージャーとのデュエットをリリースし、ジェームズ・ボンドのテーマ・ソングを手掛けた。その楽曲「Writing’s On The Wall」は2015年9月にUKのシングル・チャートのトップを飾った初の007ソングとなった。

優れたエンターテイナーがすべてそうであるように、サム・スミスもタイミングの影響力を理解している。過度な露出を避けてきたが、それでもサム・スミスは不思議と何処にでも存在し続けている。サムの曲は今でもラジオで良く流れるが、市場に作品を出し過ぎないように気を配っている。特別な作品となった前作では心を開いたが、次作に関してはきっと我々は推測をし続けることになるだろう。

Written By Mark Elliott

© ユニバーサル ミュージック合同会社