<熊本市>産廃施設周辺の高濃度アスベストは一体どこから? 自然由来でも危険

熊本市にある産業廃棄物処理施設の周辺で毎年のように大気中のアスベスト(石綿)濃度が高い場所があり、その原因をめぐり専門家の間で議論になっている。(井部正之)

熊本市の破砕施設におけるアスベスト飛散について「原因の特定には至らなかった」と報告する環境省検討会資料

◆破砕機近くでアスベスト高く

環境省は毎年2回、全国各地で大気中のアスベスト濃度を調査しており、現場となる同市内の産廃の破砕施設(北区植木町)では2016年4月の熊本地震後に測定を開始した。

同省の報告によれば、最初に測定した2017年度は敷地境界付近などにおいて最大で空気1リットルあたり総繊維数濃度(アスベスト以外も含む)7.6本を検出。実際にアスベストの1つ、アクチノライトが最大で同4本含まれていた。計5地点で各3回測定しており、そのうち3地点で延べ5回にわたって同省が「漏洩監視の目安」とするアスベスト繊維の濃度が同1本を超過した(いずれもアクチノライト)。

民家に近い側の測定地点でもアスベストは3回測定で毎回検出されたが、いずれも同1本未満。施設の周囲は林に囲まれ、直近の民家まで100メートルほど離れていることから同省は「影響は比較的少ない」との見解だ。

同省は市に依頼して破砕施設に対し、産廃受け入れ時にアスベストを含む廃棄物を確認することや散水による飛散防止を指導させた。

ところがその後もアスベストの検出は続いた。

翌2018年度には4月と11月に計5地点で各3回測定したところ、4地点(延べ17地点)で総繊維数濃度が同1本を超え、破砕機に近い場所で同17本に及んだ。アスベストも延べ11地点で同1本超検出され、最大で同5.3本含まれていた。特徴的なのは同1本を超えていない場合でも走査電子顕微鏡(SEM)で調べ直した延べ17地点について、いずれも微量のアスベストを検出していることだ。

3月23日に開催された同省アスベスト大気濃度調査検討会(座長:山崎淳司・早稲田大学理工学術院教授)で2021年度の測定結果が報告された際、継続調査しているこの現場が改めて議題に上った。

熊本県内にはかつて旧松橋町にアスベスト鉱山があったことから、かねて委員から「自然由来のアスベストが原因ではないか」と指摘されていた。同省も2019年度報告から「熊本県内には、トレモライトの鉱脈があったことが知られており、自然由来の可能性も考えられる」として、測定地点を増やして原因究明に努める方針を表明している。

◆自然由来のアスベストか

現場の場所や施設名などは非公表だが、市環境政策課は「詳細な場所までは答えられないが、施設の北西15キロメートル付近に角閃石石綿鉱床が存在し、南東45キロ付近に角閃石石綿鉱床および温石綿(クリソタイル)鉱床があると環境省から連絡を受けている」と明かす。それだけ自然由来のアスベストである可能性を考えざるを得ないということだろう。

2022年2月の測定では、敷地境界付近で総繊維数濃度で最大同4.8本を検出。アスベスト濃度は同1本で、角閃石系のトレモライトを検出したという。ただし委員から「九州産のトレモライトはどちらかというとアクチノライト」と指摘を受けている。

以前から破砕機近くでアスベストが高めに検出されていることから、このときの調査では、施設内に保管されていたコンクリートブロックやアスファルトがら(破片や塊)、コンクリートがら(各3種類)に加え、堆積粉じん1試料、土壌6試料(施設内4地点、施設周辺2地点)を採取して国際標準の実体顕微鏡と偏光顕微鏡を組み合わせた定性分析法「JISA1481-1」やSEMで調べた。

すると意外なことがわかった。

アスベストを含む廃棄物が破砕されているのではないかとの疑問から廃棄物を調べたが、「すべてへき開(細長い破片で繊維状でない)粒子」であり、国際的にはアスベストと判定されないものだった。土壌についても同様だったという。この間アスベストと報告されてきたものがじつは国際的にはアスベストではない可能性が出てきた。

ただし、「堆積粉じんの試料では、アスベストかへき開状粒子か判断に迷う繊維状粒子が1本のみ確認された」とも報告され、アスベスト含有の可能性は否定されていない。

検討会でも愛媛大学農学部非常勤講師の貴田晶子委員が「SEMの写真を見ますと、へき開粒子もあるけども、繊維状のもの(アスベスト)も見えている。全部が全部へき開粒子ではない」として、アスベスト含有があったことを指摘している。

この地域では、トレモライトを含む安山岩などが産出され、コンクリートブロックやアスファルトがら、コンクリートがらに安山岩が骨材として利用されている。破砕機周辺でアスベストとみられるものが高めに検出されていることからも、この地域で産出した骨材を使った建材にもともと自然由来のアスベストが含まれている可能性があるという。

一方、破砕機の周辺以外でもこの間の測定ではアスベストとみられるものが検出していることから、土壌由来の可能性も捨てきれない。

◆日本で未規制の自然由来

そのため2021年度の調査でも、「トレモライトを含む岩石が破砕される際に繊維状になる可能性は否定できないものの、今回の調査結果では、大気濃度調査において検出されたアスベストの発生原因の特定には至らなかった」と報告した。

つまり、現状では破砕する廃棄物に自然由来のアスベストが含まれているのか、あるいはもともと地域的に土壌に自然由来のアスベストを含むのか専門家の間でも結論が出ていない。同省調査ではアスベストを含む建材の混入は確認されていないが、これも完全に否定されているわけではない。

貴田委員はこうも指摘している。

「コンクリートがらの再利用はせねばならないけども、その中に石綿が入っているとなると、飛散してしまう可能性がある。へき開粒子と(アスベストである)繊維状粒子がおそらく混ざっているのではないかとSEMの画像から見えたので、今後気をつけていかねばならないのではないか」

今回の調査からはアスベストではないへき開粒子の中に微量のアスベストが含まれているとの印象を受けるが、十分な裏付けがあるとはまだいえないだろう。

検討会では土壌などを改めて調査することや飛散実験などを求める声が上がった。同省は今後の調査について「ご意見踏まえた形で」検討すると回答した。今後さらなる詳細な調査で原因究明がされることを期待したい。

日本国内にはかつて約50カ所のアスベスト鉱山があったというが、現在でもそうした地域における自然由来のアスベストに対する調査はほとんどなく、対策はなにも講じられていない。飛散が懸念される開発時の規制もない。

熊本県松橋地区においては、1994年に報告された疫学調査で住民にアスベストを吸った指標とされる、胸膜が厚くなるたこのような「胸膜プラーク」の発生が17%に上った。その原因は鉱山や関連工場からの「低濃度のアスベストの環境曝露」と考えられている。当時は健康被害はないとされたが、その後アスベストを扱う職業歴のない複数の住民に中皮腫などの発生が報告されている。

十数年前から世界的に自然由来のアスベストが大きな課題となっており、規制や対策の枠組みが徐々に作られてきた。米国や豪州だけでなく、日本よりも後に問題が顕在化した韓国でも、アスベスト安全管理法を制定して自然由来のアスベストがある地域における疫学調査や環境調査、環境修復を義務づけている。

日本では自然由来や土壌中のアスベストは規制すらされておらず、いまだ法の枠組みからも外れたままだ。世界第2位のアスベスト使用大国で、被害が急増している日本だからこそ次の世代への被害を防止するためにも適切な仕組みを設けて対策を講じていくことが必要だろう。

※山崎淳司教授の崎は「山へんに右側は立に可」が正式表記

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