<大阪カジノ>是非問う住民投票署名 期限まであと2日 カジノ反対「市民力」示せるか

堺市の南海堺駅前で署名を呼び掛ける野村さん。5月8日に撮影矢野宏

大阪府・市が誘致を目指すカジノを含む統合型リゾート(IR)の是非を問う住民投票を実施するよう求める署名活動の収集期間(5月25日まで)が迫ってきた。活動主体の市民団体「カジノの是非は府民が決める 住民投票をもとめる会」や協力する市民らは目標の15万筆分の署名を達成するためにラストスパート。「もとめる会」事務局の中には「二度の『大阪都構想』を退けた時のような勢いが出てきた」と手応えを感じる人もいる。
新聞うずみ火 矢野宏

◆あと2日のラストスパート

大阪市中央区谷町のターネンビル2階に市民団体「もとめる会」事務局がある。フロアの壁には「止めようカジノ 住民投票の実現を」と書かれたのぼりが立てかけられ、署名を呼びかける何種類ものチラシが貼ってある。

ラストスパートに入った5月19日。署名に来る人はもちろん、チラシや署名簿を取りに来る人、集めた署名簿を届けに来る人など、ひっきりなしに市民が出入りしていた。

対応にあたる石田冨美枝さん(70)=大阪市阿倍野区=は、「残り10日を切ったあたりから勢いが出てきた」と振り返る。「先日も『メディアが住民投票を報道しないから新聞の折り込みに入れてもらう』と、40代の女性がチラシを4000枚受け取りに来ました」

数日前には、大阪市内の女性が「ただひたすら(住民投票の)成功を祈っています」と言って現金100万円を持参した。事務局では、署名があまり集まっていない大阪市平野区と大正区、堺市中区と西区で、全国紙の朝刊5紙に折り込みチラシを入れることにした。

石田さんは2020年11月に2回目の「大阪都構想」の住民投票が行われた時、「都構想にNO!」のワンイシューで市民が集まった「市民交流会」の事務局にも詰めていた。

「いま、ここに来る市民の皆さんは、動員された人たちではありません。自分で考え、決心し、行動している。だから行動が早いのです。二度目の『都構想』の時と同じような『市民力』の勢いを感じています」

◆準備1カ月で開始

署名活動がスタートしたのは3月25日。「もとめる会」が発足して1カ月後のこと。

カジノ誘致を問う横浜市の住民投票などと比べて十分な準備期間を持てなかったのは、大阪維新の会が多数を占める府・市議会でIRの区域整備計画案が承認されるのを見越してのこと。提出期限の4月28日までに申請、国に認定されれば、カジノ事業舎と実施協定が結ばれるのも早いかもしれない。その前に世論を動かさなければ手遅れになるとの危機感からだ。

案の定、区域整備計画は3月下旬の府・市議会で維新と公明などの賛成多数で可決、国に受理された。今後、国の審査を経て、認定されれば日本初となるカジノが大阪に設置されることになる。認可の判断は今秋以降と見込まれている。

署名活動の収集は5月25日までの62日間で、府内有権者の50分の1(約15万人)の署名(法定数)を集めなければならない。法定数が集まれば、住民投票実施の条例案を吉村洋文知事に直接請求できる。

署名集めができるのは、知事から証明書を交付された「請求代表者」と、請求代表者から署名収集を委任された「受任者」に限られる。署名活動がスタートすると請求代表者(50人)は増やせないが、受任者はいくらでも増やすことができる。受任者をいかに増やすかが成否のカギを握ると言われている。ただ、請求代表者は72地域のすべての有権者から署名を集めることができるが、受任者は自身が居住する市町村と行政区の有権者からしか集められないなどの制約がある。

「もとめる会」事務局によると、5月22日時点の署名総数は11万2076筆で法定数の76・4%にとどまるが、22日集約の2日間で1万55645筆と署名数が急増している。受任者数も目標の1万人に迫る7407人と、2日間で278人増えた。署名集めに苦戦しているというより、事務局ですべての署名が集約できていないのだ。

というのも、この署名は各選挙管理委員会単位で集めることになっている。府内43市町村のうち、政令指定都市の大阪市と堺市はそれぞれ24区と7区に分かれているので、選管は計72ある。

◆地域で活動に差も

活動期間も残り少なくなり、地域間で開きが出てきた。22日の時点で、法定数を突破したのは、大阪市内では西淀川区や東成区、城東区、住吉区など9区をはじめ、寝屋川市、富田林市、高槻市、大東市、四条畷市、大阪狭山市、能勢町、河南町、千早赤阪村などあわせて27地域。

一方で、大阪市大正区は18日夜、ようやく「受任者交流会」を開催できた。17日時点で世話人の菊井順一さん(73)に手元に届いた署名数は120筆で、大正区の法定数(1078人)の1割ほどだった。

菊井さんは「それぞれの受任者が集めた署名を事務局に送ればいいのだと思っていたが、大正区選管に提出しなければいけないと知り、あわてて他の受任者に連絡を入れたのです」と話す。

菊井さんは元兵庫県職員。維新政治の「公務員たたき」に反発を感じ、「都構想」にも反対票を入れたという。

地域代表となった中村吉政さん(74)は、夢洲をよく知る「港合同」の組合員。「夢洲は構造物が建てられる地盤ではないし、危険物質も混じっている。土壌汚染対策費も790億円ですむはずがない。維新が過半数を占める府議会で住民投票条例案の可決は難しいが、闘わず負けるのは悔しい。力を合わせて頑張りましょう」とあいさつした。

この日、「もとめる会」共同代表で作家の大垣さなえさんも参加し、「戸別訪問では、住んでいるところと名前を明確に言うと警戒心を解いてくれる」などとアドバイス。「扉の向こうには署名を待っている人がいるから勇気を出して」とエールを送った。

◆「いらん」数で示せ

5月8日、南海堺東駅前。前堺市議の野村友昭さんが住民投票を呼びかけた。

「なぜ、治安を悪化させ、ギャンブル依存症の人を出すようなカジノをやらないといけないのか。そんなお金があれば教育や福祉や街づくりに使えばいい。人の不幸の上に成り立つギャンブルを自治体が税金を使って整備することを許してはいけない」と語りかけた野村さん。住民投票の意義についてこう訴えた。

「府民の巨額の税金がカジノに使われることを私たちは止めなければならない。ポイントは国の審査過程における『住民合意』です。住民合意がなければカジノを設置してはいけないと、国は定めています。私たちにできることは一人でも多くの署名を集めること。これだけの人たちが反対していることを国に示すことです」

集まった署名は5月25日から10日以内(6月6日まで)に各地域の選管へ提出することになっている。選管が署名の有効・無効を判断し、20日間の縦覧期間を設けて異議申し立てを受け付ける。

ちなみに、横浜市の住民投票では法定数を超える約22万筆の署名が集まったが、うち3万筆が無効とされた。そのため、「もとめる会」も20万筆を集めることを目標としている。証明された有効数を「もとめる会」事務局に報告し、総計が15万筆を超えれば議会に住民投票条例案が提出される。法定数が確定するのは7月初旬だという。

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