新時代の管理運営を探る57 50年を迎えたコーポラティブ方式 これからの可能性を考える(下)飯田太郎(マンション管理士/TALO都市企画代表

住まい手が組合を作り土地の手当から建物の設計、建設、管理方式までを自分たちの手で行うコーポラティブ方式の共同住宅が誕生してから約50年。コーポラティブハウス全国推進協議会は、50周年記念イベントとして連続座談会「コーポラティブのこれまでとこれから」を2月から7月まで毎月1回開催している*。コーポラティブハウスのストック数は、やや古いデータだが千葉大学大学院の丁志映氏によると2015年4月現在、730 プロジェクト、1万3126 戸である**。同時期のマンションストック総数が約613万戸だから、ストック全体に占める割合は小さい。それでもコーポラティブハウスが存在感をもち、設計関係者や研究者等、高品質なマンションの実現を希求する人たちを惹きつけるのは、共同住宅の原点ともいえる協同の精神があるからだろう。

50年を迎えたコーポラティブ方式 これからの可能性を考える(上)より続く

高経年マンションの再生にも通ずる

コーディネート力

コーポラティブ方式による事業は持家だけでなく、賃貸も含め様々なタイプがあるが、多くはマンションの取得を目的としている。事業の進め方は大別して、土地の選択・取得から建物の設計を含む事業の全過程を購入希望者による建設組合が主導する「居住者主導型」と、企画者が土地の手当てと建物の基本設計を行い、それを基に建設組合が事業を進める「企画者主導型」がある。全体的には事業参加者の負担が少ない後者が多い。
それでもデベロッパーによる一般の分譲マンションとは違い、設計・建設段階から購入者が建設組合員として参加し、お互いに理解を深め、共用部分の使い方を決め、管理規約等の居住のルールを協議して作ることになる。竣工・入居時には区分所有者の連携を基礎とする高度なコミュニティが形成されることになる。
また、事業が地域コミュニティの維持・再生等のまちづくりとして取り組まれることも多い。コープ協の事務局を引き受け、自らも18棟のコープ住宅の企画・建設を主導してきたNPO都市住宅とまちづくり研究会(都市まち研)の場合、千代田区神田等を中心に複数の土地所有者と協力して創出した敷地に建物を作ることで、地域の空洞化を防ぎ災害に強いまちの形成にも寄与している。
コーポラティブ方式による住まいづくりは、新築マンションづくりだけでなく、既存マンションの再生にも活かすことができる。マンションの建替えは、建替えを議決した区分所有者が建替組合を設立して行う事業であり、コーポラティブ方式によるマンションづくりと共通するところが多い。建替えではなく改修による長寿命化で再生を行うマンションも、今後は多いと考えられるが、築後50年程度までに数回行う大規模修繕工事とは質点に違う。既存建物の躯体の多くを活用するリファイニング型工事となることも多いはずである。いわばマンションを作り替えることになるから、世帯人員と住戸の広さが合わなくなっている区分所有者間等で、住戸の交換も行われるようになるはずである。税法等も含めて法令の整備も必要になるが、既存ストックを活かして質の高いマンションを、低廉なコストで供給する有力な手法なると思う。
こうしたマンション再生事業は、デベロッパーによる新築マンションの供給や管理会社による管理実務とは違う、新しいビジネスモデルを創出することになる。区分所有者を調整し、高経年マンションを新たなマンションに作り替える事業で、コーポラティブハウスを企画、コーディネートする能力が必要である。50年にわたり脈々と受け継がれてきた、コーポラティブハウスを創出するノウハウが大きな役割を果たす日が近いかもしれない。

*問い合わせ先:NPOコーポラティブハウス全国推進協議会事務局
http://www.coopkyo.gr.jp/ Tel:03-6206-4558
**建築士CPD講座 「世界の助け合い」から学ぶ—第3回 居住者参加型すまいづくり

2022/5/5 月刊マンションタイムズ

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