賃上げの後押しになるか?「悪いインフレ」脱却する変化の兆しとは

4月の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数)は、前年同月比2.1%の上昇となりました。2%を超えたのは消費増税の影響があった15年3月以来、およそ7年ぶりのことです。


物価上昇でも日銀だけが金融緩和を継続する理由

2%の物価目標を掲げて行ってきた日銀の異次元緩和によって、ついに日本もデフレを完全脱却した…というわけではありません。足元の物価上昇の主因は、ガソリンや電気代・ガス代などのエネルギー価格の上昇によるものです。金融緩和によって経済の良い循環が起きて、賃金上昇も伴うような「良いインフレ」とはほど遠い状況です。むしろ、エネルギー等のコモディティ価格上昇による「コストプッシュ」型のインフレは「悪いインフレ」です。

物価上昇に賃金上昇が追い付かなければ国民の生活は苦しくなり、消費が落ち込んで景気が悪化する––これが、日銀が金融緩和政策の修正は時期尚早とのスタンスを堅持する理由です。海外の中央銀行が金融引き締めに動く中、日銀だけが金融緩和をやめられないという構図には、日本がいまだにデフレから完全には抜け出せていないという事実が反映されているように思えます。

そんな日本では、コスト増によるインフレは一時的で物価上昇は続かないという見通しが支配的です。日本は構造的に物価が上がりにくい国なのです。要因はいくつかありますが、「人々の気持ち」の部分がかなりのウエイトをしめています。「景気は気から」といいますが物価もまた同じで、人々が「将来、物価が上がる」と思わなければ物価は上がらないのです。

ところが、ようやく人々の気持ちに変化の兆しが現れました。

「悪いインフレ」脱却する2つの変化の兆し

先日、テレビ東京の「Newsモーニングサテライト」を見ていたら、東大の渡辺努先生が興味深い家計調査の結果をご披露されていました。21年8月の調査で「よく行く店でいつも買う商品の価格が10%上がったときにどうするか」と質問したところ、日本は「いつもの店で同じ商品を買い続ける」との回答が約4割と、約6割の米英に比べて低い率でした。しかし、今年4月の調査では同じ回答が約6割に上昇、米英に並んだのです。日本の家計に値上げを受け入れる土壌が出てきたということです。こうなると企業の態度も変わります。これまで値上げによる客離れを恐れて値上げに慎重だった企業も、価格戦略を見直すでしょう。

実際に食料品、日用品は値上げラッシュの様相です。象徴的なことは「安売り」が消えつつあることです。楽天モバイルは「0円」プランを廃止すると発表しました。回転ずし大手のスシローは創業から40年近くを経て、1皿100円から値上げします。100円ショップのダイソーは、国内出店の約4割を「スリーピー」のような300円ショップにします。アパレルでは値引き販売をやめるところが目立ちます。

コストが増えた分を販売価格に転嫁できれば、企業は利幅を保てます。企業が利益を確保できれば、賃上げの余地が生まれます。前述した通り、「良いインフレ」か「悪いインフレ」かを決める鍵は賃上げを伴うかにかかっている、と言っても過言ではありませんが、その賃上げについても明るい兆しが出てきました。

日本経済新聞社がまとめた2022年の賃金動向調査で、定期昇給とベースアップ(ベア)と合わせた平均賃上げ率は4年ぶりに前年を超え、前年比0.48ポイント増の2.28%となったのです。上場企業の業績が好調で最高益が相次いだことが、賃上げが広がった背景にあります。


人々のデフレマインドが緩やかですが氷解に向かい、企業が値上げによって利益を獲得できるようになり、その稼いだ利益が従業員への分配に回われば給料も上がります。いい循環が始まるかもしれません。そうなれば我が国の株価も上がると思われますが、果たしてどうでしょうか。

ここで問題は、インフレでも株価は上がるのか?という点です。株はインフレヘッジになる、という意見もあれば、そうならない、という意見もあります。本当のところはどうなのでしょう。次回はこの問題を取り上げます。

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