被爆者ら「司法の役割」訴え 安保法制違憲訴訟 控訴審弁論 福岡高裁

横断幕を広げ法廷に向かう原告団=福岡高裁前

 集団的自衛権の行使を認めた安全保障法制は違憲で、平和に暮らす権利が侵害されたなどとして長崎県内の被爆者らが国に損害賠償を求めた訴訟の控訴審第1回口頭弁論が26日、福岡高裁(森冨義明裁判長)であった。戦争の危険性について「予測の域を出ない」として訴えを退けた一審判決を踏まえ、原告側はロシアのウクライナ侵攻を引き合いに「戦争が発生する前に歯止めをかけることが司法の役割だ」などと陳述した。国側は控訴棄却を求めた。
 全国22の裁判所に起こした集団訴訟の一つで、本県の原告(控訴人)は被爆者や戦争体験者ら113人。2016年、国に1人当たり10万円の賠償を求め提訴した。長崎地裁は21年7月、「武力攻撃の蓋然(がいぜん)性が高いとは認められない」などとして請求を棄却。憲法判断は示さなかった。
 弁論で原告側の4人が意見陳述した。川野浩一原告団長(82)は一審判決について「実際に戦争が発生し、国民が死傷しなければ裁判所は審理しないのか」と批判。ウクライナ侵攻に触れ「戦争が予測困難であること、いったん始まると何の罪もない多くの市民が犠牲になることが示された。戦争が始まってからでは手遅れだ」と訴えた。
 代理人の山本真邦弁護士は「政府の恣意(しい)的な判断により武力行使が可能となり得る」と指摘。例えば、集団的自衛権の行使要件の一つに「他に適当な手段がないこと」があるが、ウクライナ侵攻を巡っては世界各国が経済制裁を対抗手段としており「他に手段があるかないかは相当困難な判断となる」と述べた。
 有馬理弁護士は台湾有事などを念頭に「戦争が起きれば国民に甚大な被害が生じることは明らか。危険性を増大させる原因となっている安保法制の違憲性を審理してほしい」、森永正之弁護士は憲法判断の回避が「人権保障という司法の果たすべき役割の放棄になりかねない」と陳述した。
 次回期日は7月14日。


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