アヴちゃん&森山未來が主演アニメ『犬王』を語る!「丁寧かつ獰猛に」「無自覚のエネルギー変換」【湯浅政明監督最新作】

森山未來 アヴちゃん

『MIND GAME マインド・ゲーム』(2004年)、『四畳半神話大系』(2010年)、『ピンポン THE ANIMATION』(2014年)、『映像研には手を出すな!』(2020年)といった数々の傑作アニメーションを生み出した湯浅政明監督の最新作『犬王』(2022年5月28日公開)。室町時代を舞台に、能楽師・犬王と琵琶法師・友魚が出会い、新たなるカルチャーを生み出していくミュージカル・エンターテインメントだ。

『犬王』©2021 “INU-OH” Film Partners

犬王役に抜擢されたのは、『DEVILMAN crybaby』(2018年)でも湯浅監督と組んだ「女王蜂」のアヴちゃん。友魚役には、近年ますます活動の幅を広げる森山未來を起用。『モテキ』(2011年)で邂逅した表現者ふたりの再タッグ作となる。

アーティストと俳優、というカテゴリに留まることなく、表現の神髄に突き進んでいくアヴちゃんと森山。ふたりの対談は、濃密な表現論へともつれ込んでいった。

森山未來 アヴちゃん

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『モテキ』から約10年ぶりの再共闘

―おふたりのコラボは映画『モテキ』からかと思いますが、お互いの第一印象や、それぞれの歩みをどうご覧になっていますか?

森山:僕は『モテキ』の後に舞台「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」(2012年版)に出演したのですが、その構想を『モテキ』以前からプロデューサーと始めていました。その後、演出をやっていただくことになった大根仁さんと、ドラマ『モテキ』の撮影現場で「ヘドウィグ~」の話をしていた時に、「スゴい奴がいる」とケータイで見せられたのがその頃の女王蜂でした。

それまで「ヘドウィグ~」の登場人物のキャラクターやシチュエーションなど構想をいろいろ練っていたのですが、女王蜂を観たときにもう全部崩れてしまったような気持ちになって。「ここに本物がいるから太刀打ちできない!」と感じて、建て付けから考え直すことになりました。だから、映画『モテキ』で確かにご一緒はしているんですが、僕にとって最初の出会いというか、衝撃はそこだったんです。

アヴちゃん:嬉しい。

森山:その後の女王蜂の活躍もそうですし、アヴちゃんが舞台「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」(2019年版)に出ているのを見ながら、またいつか一緒に出来たらいいなと思っていて。今回のお話をいただいたときは即決しました。

森山未來

アヴちゃん:私はメジャーデビューまでがあっという間で。あれよあれよという感じでしたが、「それほど長くは生きてないけど負の貯金だったらたくさんあるから全員ぶっ潰す」と思っていたんです(笑)。デビューって何? 映画って何? みたいな(※2011年のメジャーデビュー直後に『モテキ』主題歌&出演が発表された)。でもいざ始まったら、みんなすごく面白いし、優しかった。

ただ、だからこそ上京して最初にびっくりしたのが、同じ目線で戦ってくれる人の少なさ。共闘はしてくれるんだけど、立場がそれぞれ違っていて。しかも戦う相手が当時のブームや“ええじゃないか精神”だったから、私たちも壁にぶち当たった感覚になりました。でも下手だし球数も少ないから、やるしかない。ある種、命を投げうつようなライブをやればいいよねと思っていたときに、初めてしっかりおしゃべりした俳優が未來氏でした。すごくボーカルっぽいタイプの俳優さんというか、共感する部分が多くて。

お家に遊びに行かせていただいたこともありました。「私も『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』やりたい」って言ったら、「やらんでいいやろ」って。

アヴちゃん

森山:「もう“女王蜂”を生きているから、物語なんていらんやろ?」という話をしましたね。

アヴちゃん:そうそう。それに私は「でもやりたい。音楽がカッコいいもん」って答えて。

森山:(笑)。

アヴちゃん:今回、「やっぱり10年前と今はお互い違う」と思ったけど、でもスゴいなと感じたのは、お互いに熱情というかマグマというか“渇き”をどう潤してきたかに、どこか通じるところがある。普通の潤し方だときっと足りなかったし、ただ褒めてくれるところに行くのも違う。モテればいいわけじゃないし、どういう作品に出るか選ぶことだけでもない。超至近距離ではないですが、こうやって話せる距離でその歩みを見られたのは、私にとって素敵な体験でした。

森山未來 アヴちゃん

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お互いの演技を受けて、引き出されたアフレコ

―『犬王』を拝見して、おふたりの演技に“肉体性”を感じました。声から身体が立ち上がってくるというか、新鮮な体験でした。

森山:僕は歌のレコーディングの際にも、アヴちゃんにものすごく引っ張ってもらったんです。隣のブースにアヴちゃんがいて、直にやり取りできました。フィジカルが生まれているんだとしたら、そこが大きいと思います。

あとは単純に思うこととして、歌舞伎などもそうですが、実際に何をしゃべっているかは話が分かっていないとなかなか理解が難しい――つまり“初見殺し”じゃないですか。じゃあ物語ではないところで何が立ち上がってくるかというと、アヴちゃんの音楽性や、湯浅政明監督の立体をさらに超えちゃうような描写力によって、言語野でただ理解するのではなく、身体や、人間の動物的・直感的な部分に刺さるような構造になっている気がします。

『犬王』©2021 “INU-OH” Film Partners

アヴちゃん:私たちの場合、セリフを一緒に合わせられたのは最初の1回だけだったんですよ。

―そうだったのですね!

アヴちゃん:それでお互いのトーンを見てからは、「ここは未來氏が入れておいてくれたから、これを受けてやろう」「ここは私がやろう」みたいな、短冊の流し合い状態でした。かつ、声を入れる段階ではアニメの画も棒人間のような段階だったので、その状態で声を当ててもクオリティが声だけで担保できる声優さんたちは、ものすごく訓練されているんだなと感じました。ただ、そういった状態でもお互いビビらずにやれたのは良かったと思っています。

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物語を紡ぐこと/摩擦をどう受け止めるか

―本作で描かれる「亡くなった者の魂を物語にして語り継いでいく」要素は、芸術表現の意義の一つにも感じます。おふたりのお考えを教えて下さい。

森山:物語を紡いでいくことは、お互い想像しているものを言葉だけでシェアすることでもありますよね。物理的に肉体がある/ない=生きている/死んでいると定義づけるのではなく、仮に肉体がなかったとしても、物語によって生き延びていくというか。

身体的に触れ合う以外の方法で人間同士が関わり、社会を形成することにもつながる。「物語を紡ぐ」は、人類が肉体を超えてサバイブするための能力でもあったと感じます。

森山未來

アヴちゃん:私は本がすごく好きで、その理由は「更新されないから」なんです。これからは刷れるものと刷れないものがより分かれてくるだろうからこそ、紙で読む楽しさをすごく味わえている世代だと思うのですが、ピリオドが打たれているものに美を感じます。

たとえば美術館に行っても、展示されているものが遺品にしか見えなくて。数年前にルーヴル美術館に行った際に宗教画や彫刻を見て泣いてしまったのですが、神様を信じていないと生み出せないような作品の作り手たちは、もうこの世にいない人たち。でも、だからこそ言い切れるというか、ピリオドを打てる。展示品を触ってしまう観光客もいるカオスな環境下で、作品だけが燦然と輝いている状況は、それが“遺品”だからこそ成立しているんだなって。生きている人間に対して言い切ると、どうしても摩擦が生まれちゃうから。

摩擦にド敏感な時代は素晴らしいし、そうであって然るべきだと思いますが、いい摩擦と悪い摩擦の差をみんなが揃えていくのには、気持ち悪さも感じます。同時多発的に熱源を持っていくことが素晴らしいとされる世の中はもう少しで来ると思いますが、そうなったときに、これは残すべきものか、残さないでおくべきか、その過程まで残しておくべきか、問われていくのかなと思います。

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―『犬王』では、「摩擦」が発生した結果、芸術の弾圧が発生する様子も描かれます。こちらのテーマについては、いかがでしょう。

アヴちゃん:私たち(女王蜂)自身も、デビュー前にひと通り弾圧を経験してきました。私の見た目で笑いを取ろうとしてきたバンドマンがいて、すっごい傷ついたり。でも、その人が私たちのライブを観た後に「さっきはごめん、俺たちの企画に出てくれ」って手のひらを返してきて。業界の人からもそういう扱いをされたことがあります。

『犬王』©2021 “INU-OH” Film Partners

でも、デビューしてからはないですね。お皿の上に乗った瞬間に、みんなの受け取り方が変わったというか、「どこで咲くか」が大事だなとわかった出来事でした。繊細に出すと舐められたり雑に扱われちゃうから、出す以上は丁寧に、かつ獰猛にやるというのは心がけています。

森山:個人単位で何を美しいと思い、何に対して違和感を持っているか、そしてそれをどういう形でパフォーマンスとして打ち出していくか、エネルギーの変換については常に考えます。ただ、そこに「コンプライアンス的にどうか」みたいな考えは入らないですね。それは今までもこれからも、変わらないことだと思います。

森山未來 アヴちゃん

取材・文:SYO
撮影:川野結李歌

『犬王』は2022年5月28日(土)より全国公開

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