【おんなの目】 物事は一回で

 座ったまま二メートル離れた屑籠に、丸めた紙屑を放ったら・・・入らない。立ち上がって拾って屑籠に入れる。二度手間。机の上に、お茶の入ったコップを置いたら、こぼれた。乱暴に置いたつもりはないけれど、手を放すのが早すぎたのだ。周囲の本や鉛筆はびしょびしょ。タオル、タオル! 急いで拭く。二度手間。丸薬を飲もうとして掴んだら床に落ちた。床を這う。見つからない。這う。埃のついた丸薬をやっと見つける。拭いて飲む。

 近頃、一日が過ぎるのが早い。十年前にも感じたが、一段とそのスピードが上がった。同年配(七十五歳)の住田さんが青い空を見上げてこう言った。「朝起きて、トイレに行って新聞読んだら、すぐに夕方になる」。わかる、わかる、と初夏の空を見ながら相槌をうつ。「そうよ、すぐに暑い夏が来て、暑いね、とぶつぶつ言ってるうちに秋が来て、冬が来て雪が降る」。

 だから、物事は一回ですませないと時間は倍速で過ぎて行く。

 あら、袖口から糸が出ている。引っ張る、どんどん出て来る。あらら、袖口の美しいレースが取れてしまった・・・。バスに乗った。いつもと違う見慣れない風景にかわっていく。あっ、反対回りに乗っちゃった・・・。

 今日も凄いスピードで暮れる。

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