倉敷芸科大、表装の技を後世へ 屏風制作マニュアル作り進む

表装の骨組み作りの現場を見学する森山さん(中央)と研究生、大学院生ら=真庭市月田、植田木工

 掛け軸、巻物、屏風(びょうぶ)…。表装は絵画や書を引き立て、室内空間を彩る。薄い紙や絹といった脆弱(ぜいじゃく)な素材の作品を支え、保護する役割もある。そんな表装技術が危機に直面している。生活の洋風化とともに需要が減り、後継者不足も深刻だ。さらに、新型コロナウイルス禍でこの2年、作品展示の場が激減したことも追い打ちをかけた。

 業界が痛手を受ける中、岡山県で伝統の技の保護・継承に向けた動きも出てきた。倉敷芸術科学大(倉敷市連島町西之浦)では、屏風制作のマニュアル作りが進んでいる。

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 5月21日、建具製造の植田木工(真庭市月田)を、倉敷芸術科学大教授の日本画家・森山知己さん(64)と3人の大学院生・研究生が訪れた。共に取り組む屏風制作のマニュアル作りの一環として、木製骨組みの製造を現場で学ぶのが目的だ。

 同社は国産材を使った屏風やふすまの骨組みを手掛ける全国でも数少ない業者。木の香りがする作業場に足を踏み入れた3人は、並んだ製品の繊細で精巧な出来栄えに目を見張った。「多くの人の存在や優れた技術の支えがあって自分たちは描くことができる。だからこそ、技術継承のための力になりたい」。研究生で画家の大橋裕子さん(60)はそう話す。

 表装技術は仏教の伝来に伴い、中国から伝わったとされる。床の間など日本の建築様式に合わせて発展し、書や日本画と共に暮らしを彩ってきた。

 ところが戦後、和室を備えた住宅が減り、掛け軸やふすまの需要は減る一方。表具師らでつくる全国組織「全国表具経師内装組合連合会」によると、加入業者数は約1300で、ピーク時の3分の1程度という。岡山県の業界団体・県表具内装協会も、1980年代には100を超えていた会員が、現在は11事業者にまで減った。

 加えて新型コロナウイルス禍。各地の美術展、書道展が相次ぎ中止に追い込まれ、表具師が腕を振るう場が奪われた。表装の魅力を紹介する同協会主催の「表具美術展」も、昨年はオンラインで実施したが、今年は開くめどが立っていない。

 倉敷芸術科学大では、2018年から日本画を学ぶ学生たちが屏風制作に取り組む。マニュアル作りは、学生たちの制作と、並行して進めている。

 表具師や材料業者から作業の詳細を聞き取り、時には実演を見せてもらいながら、骨組みに何枚もの和紙を重ねる工程の一つ一つを文字で残し、継承を目指す。「このままでは表装という貴重な文化が失われる。表具師さんたちの技が生きている今なら、まだ間に合う」と森山さんは意義を話す。

 表具師たちも期待する。「職人にとって技術は先輩の仕事を見て覚えるもの。だから教え方はよく分からない。マニュアルができれば関心を持つ学生も出てくるのでは」と県表具内装協会の鳥越正敏会長(73)=笠岡市。マニュアルは本年度末までに冊子にまとめる予定。塗った絵の具が厚すぎて屏風が閉じられなくなった、といった失敗からの学びも反映させ、実用的なものに仕上げるつもりだ。

 山陽新聞社は、地域の方々と連携して課題解決や魅力の創出を図る「吉備の環(わ)アクション」として、表装文化を次世代につなぐ活動や新たな提案を紙面などで報道。伝統技術継承の在り方を探っていく。

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