好きな麺料理は?と聞かれてなにを思い浮かべますか?
ラーメン、そば、うどん、そうめん、パスタ…実に多くの麺がありますよね。
どの麺が一番好きか悩ましいところだと思いますが、そばとうどんだと どちらが好みかはハッキリしているのではないでしょうか。
そば派かうどん派かは、居住地の食文化が大きく作用しているかと思います。
「東のそば、西のうどん」と称されるように、西日本に属する倉敷にはそば屋よりうどん屋が圧倒的に多いです。
うどん圏の倉敷では希少なそば屋が、観光地の倉敷美観地区にあるのを知っていますか。
倉敷美観地区の中心、倉敷川沿いにある「備中そば やぶ」を訪ねました。
隣の店と一部が一体になっている、縦長構造の建物
大原美術館より南で、倉敷川沿いに店を構える「備中そば やぶ(以下、やぶ)」。
やぶがあるエリアは飲食店が多く、両隣はうどん屋「手打ちうどん おおにし」と喫茶店「茶房みなとや」です。
古民家を改装しており、非常におもしろいのが建物の一部が隣の店と一体になっていること。
道に面している棟が長屋になっており、一続きに。
手打ちうどん おおにし、茶房みなとや、そしてやぶの3店舗が同じ建物に入店しています。
筆者は過去にこの3店舗に出入りをしていますが、店との境目は壁があるので同じ棟とはまったく気づきませんでした。
3店舗に共通しているのは、奥へ細長いうなぎの寝床の構造になっていることです。
建物内部からはわかりませんが、奥へ続く部分は隣の店と別棟になっています。
ちなみに厨房から奥の空間は、かつて住居だったそうです。
やぶは創業時から家族経営で、昔は住居部分に住んでいたとか。
現在は住居部分を改装し、席が増えました。
麺メニュー
興味深い構造のそば屋は、メニューも気になりますよね。
メニュー表をパラパラめくると…あれ、うどんメニューもたくさんある?
これならグループで来ても、そば派もうどん派も妥協せず好きな麺を食べられますね!
うどんも気になるところですが、そば屋なのでそばをメインに紹介します。
どのそばにするか迷っているところ、店のかたに「田舎そば」を勧めていただいたので注文することに。
田舎そば
田舎そばは、冷たいそばです。そばの上に大根おろし、かつお節、ネギ、のり、生卵がのっています。
店のかたのおすすめはタレにつけて食べるとのこと。
やぶの田舎そばはさっぱりで、香りがする薬味がたっぷり。味の変化を楽しみながらいただきましょう。
暑い季節につるつるっと食べたいメニューです。
しのだ巻きそば
少し変わっているからと、他に勧められたのが「しのだ巻きそば」。
しのだ巻きって聞いたことがありますか?
調べると、「油揚げに肉を挟んだもの」や「野菜だけのもの」とさまざまあるようです。
やぶの「しのだ巻き」は、しっかりと甘く味つけされた油揚げに餅が入っています。
初めてしのだ巻きそばを食べながら「きつねそばのように油揚げのみ、力そばのように餅だけより、しのだ巻きがいい!」と思いました。
油揚げと餅を一度に食べられるなら、しのだ巻きがお得ではありませんか?
しのだ巻きそばは温かいそばで、しのだ巻きが2つ入っています。
1つだけでもしのだ巻きはボリュームあるので、お腹がすいているかたにもぴったりのメニューです。
サイドメニュー「やぶめし」がおすすめ
麺以外にサイドメニューの「やぶめし」もおすすめ。
そばに使う出汁で炊いた炊き込みごはんです。
本物の竹の皮に包まれて提供されます。最近、竹の皮はあまり見かけなくなりましたよね。
プラスチック製の竹の皮は見ますが、本物は珍しい!
客のなかには、珍しいからと持ち帰るかたもいるとか。
米には岡山県産阿新地区(新見市)のもち米ヒメノモチと、倉敷市真備町産の白米にこまるを使用しています。
もち米が入っているので食感はモチモチ。出汁のいい香りがします。
具がないシンプルな炊き込みごはんで、出汁のうまみを存分に味わえるひと品です。
トッピングも豊富
そば、うどんのメニューが豊富ですが、トッピングが9種あります。
アレンジすることで、さらに自分好みの麺メニューにできますね。
天ぷら
トッピングには天ぷらもあります。
そばやうどんには天ぷらがほしくなりませんか?
▼天ぷら3種
天ぷら3種には、えび、しそ、カボチャがありました。
どの麺を注文してもトッピングで追加できるのはうれしいですね。
しのだ巻き
しのだ巻きそばで紹介した、しのだ巻きはトッピングにもあります。
プラス330円(税込)で好きなメニューに追加可能。
しのだ巻きが気になるかたはぜひ、食べてくださいね。
グループのなかにそば派とうどん派がいても妥協せずに好きな麺が食べられる「備中そば やぶ」。
トッピングも豊富なので、自分好みの一杯が食べられるのでは。
やぶは創業当時から家族経営で、現在は二代目と三代目がともに働いています。
二代目で店長の衛藤博子(えとう ひろこ)さんに話を聞きました。
二代目の衛藤博子さんにインタビュー
観光地、倉敷美観地区の倉敷川沿いにある「備中そば やぶ」。
二代目で店長の衛藤博子さんに話を聞きました。
そば屋の前身は醤油卸
──開業の経緯を教えてください。
衛藤(敬称略)──
もともとは私の祖父母がここで醤油の卸をしていました。
商売をするにあたり、扱っている醤油を使ってお出汁を作ろうと思い、そば屋を始めることに。
開業当初からそばとうどんがメニューにありました。
この倉敷周辺は昔からうどんのほうが、そばより召し上がられますよね。
そばだけだとご家族連れが入りにくいのでうどんがあったほうがいいかと、両方を提供することにした、と初代から聞いています。
うどん圏なのであえて少ないそばをメインにしようと思ったそうです。
そばメインなので店名には「そば」が入っています。
──今は醤油卸をしていますか?
衛藤──
私の叔父が酒屋を始めて醤油の卸を引き継ぎました。
でも取り引き先の醤油屋が廃業されたため、今は卸をしていないです。
醤油卸は祖父の兄が恐らく始めているのですが、正確な創業時期はわかりません。
オート三輪トラックが走っていたり、着物を着て働いていたりする時代のずいぶん前です。
今は地元の醤油がいいので、新見市・井倉洞近くの大月醤油醸造場のものを使っています。
創業当時からのメニューについて
──創業当時から出しているメニューは?
衛藤──
ほとんどのメニューが創業当時からあります。めかぶとろろそばやとろろ山菜、おぼろ山かけが途中で増えたくらい。
もともとあったメニューをミックスしたものもあります。
──汁は創業当時から変えているのですか?
衛藤──
そば屋として私は二代目。三代目は私の長男で一緒に働いています。
初代の父の時代から作りかたの基本や使っている材料は同じです。材料の割合は変えています。
人気のメニューは気温に左右される
衛藤──
日によってよく出るメニューが変わります。
今日(取材した日は少し汗ばむ暑さでした)は、ほとんど天ざるが出ましたね。
不思議なことに同じメニューが出るんです。
真夏には天ざるではなく、シンプルにざるそばがよく出ます。大根おろしがのった田舎そばも人気ですね。
ですからまったく同じ伝票が並ぶことがあるんです。
時期によって、冷たいものと温かいものどちらが多く出るかわからないときもあります。
冷たい出汁(ざるだし)は少し寝かせたほうがおいしいので、作ってすぐお出しできません。
逆に温かい出汁(かけだし)は作りたてがおいしいんです。かつおの風味がして。
時間が経つとどんどん風味が飛んでいくんです。
そのためその日のうちに提供しているので、夕方になると温かいメニューを出せないことがあります。
外国人客にも人気
──観光地なのでコロナ禍以前は外国人客も来られていたのですか。
衛藤──
来られていました。
アジア圏のかたは、うどんになじみがあるのかよく食べられますね。
欧米のかたは天ぷらそばやうどんをよく注文されます。
なかには、めかぶに挑戦される外国のかたがいらっしゃいます。
でもめかぶってぬるぬるしているし、外国のかたにはなじみがなくて、お口に合わないかもしれないでしょう?
注文する前に、スプーン1杯のめかぶをお出しして食べていただくんです。
試食してそれでも食べたいなら、通常はめかぶを麺の上に盛って提供するところを、外国のかたには別皿に盛ってお出しします。食べたいだけ入れられるように。
今後について
──今後やってみたいことはありますか?
衛藤──
作業効率を上げるために厨房を変えたいですね。
そば屋になってから現在まで3回の改装をしました。
店内や厨房を変えたいなと思っています。だんだん使い勝手が悪くなって。
父や母が改装した厨房なのでシンクの高さが昔の規格なんです。
昔のひとより今のひとは背が高いでしょ?
だから今のシンクが低くて、洗いものを長い時間すると腰が痛くて。
作業するのに高さが欲しいです。
今は細長い構造なので、ぐるっと回って流れるような動きができるようにもなれば。
私が引退するまでには改装して、三代目に渡したいですね。
他には、いつか孫たちが手伝ってくれるのを楽しみにしています。
まずは洗いものからですね。
背が伸びてシンクに届くようになったら、洗いものができるようになるので。
私も初めは洗いものからスタートしました。三代目も同じです。
孫と一緒に働くことが夢ですね。
おわりに
うどん圏の倉敷では少数派のそば屋。
少ないからこそあえて、そば屋にした備中そば やぶは、観光地の倉敷美観地区にあります。
うどん圏外の日本全国から訪れるうえ、グループのなかにはそば派とうどん派に分かれることがあるでしょう。
好きな麺を食べたい!
そんなときには、そばもうどんも両方提供している店はありがたい存在なのでは。
とくにそば派とうどん派が食事処を探すときには、やぶを選んでみてはいかがでしょうか。