第二幕 ROUND ABOUT MIDNIGHT 真夜中は別の顔 『ON THE ROCKS』

FBS「めんたいワイド」やTNC「CUBE」など、福岡ローカルでひっぱりだこのコメンテーター・林田暢明さんの新連載!テーマは「福岡のコーヒーと酒とジャズのはざま」。コロナの状況に左右されて、なかなか楽しめない喫茶ライフですが、生きる余白を求めてコーヒーにお酒にジャズにと、街へくりだしてみませんか?

「大名」という地名の由来

古来、福岡には、室町の世から日本三大港(三津)として名を馳せた博多大津があるのです。

関ヶ原の戦いの武功によって家康からこの地を与えられたのが黒田 長政であり、父親は秀吉の軍師として名を馳せた黒田 官兵衛。石高は52万3千石と堂々たる大名。長政は福岡に入ると博多大津のすぐ側を流れる那珂川のほとりに城を建て、出身地の岡山にある地名「福岡」を取って福岡城と名付けます。

ところで、黒田 長政が入る前の福岡の領主は、関ヶ原の戦いで西軍を裏切って味方の大谷 吉継の陣に突入、壊乱させて家康を勝利に導いた小早川 秀秋です。小早川 秀秋は関ヶ原後、加増されて黒田家の出身地である岡山城に入城し、その後、毎夜現れる大谷吉継の亡霊に苛まれ、21歳で祟り殺されたと言います。

いきなり余談が過ぎるのですが、とにかく福岡には天守閣こそ残っていないものの、ちゃんとお城があったのです。別名「舞鶴城」。きっと白くて綺麗な天守閣だったのでしょう。

さて、この福岡城の内堀に面して家老や大組など重臣たちが居住しておりまして、大組に配属されていた家臣を地元の人は「大名」と呼称していました。今も地名として残るこの大名の地の中心部に「ON THE ROCKS」があります。

ON THE ROCKS

〒810-0041 福岡市中央区大名1丁目3-39

このターンテーブルを模したロックな看板が目印。階段を上がって2階

「ウイスキーは、オンザロック」で口説け

冒頭から「ジャズやないんか〜いっ」という出だし、さらに「店名はロックやんけ」と思われたかもしれませんが、オンザロックスとは蒸留酒をロックで飲むスタイルのこと。端的にいうとウイスキーのお店、ということですね。ちなみにウイスキーなんて飲み方がよく分かんない、という飲酒道入門者のために注釈をつけておくと、背伸びしないとお店も自分も見失ってしまいそうなバーに、これからちょっと口説いちゃおうかな、という女の子を連れて行ったときには、

「ウイスキーをロックで」

と注文するよりは、

「ウイスキーをオンザロックで」

と注文した方が、女の子の「オンザロック?わぁ、なにその頼み方、素敵」という反応とささやかなマウントを取る快感を得られることがあります。

ちなみに、この頼み方だと

「バーボンですか?スコッチですか?」

と2回戦が勃発すること間違いなし(3回戦、4回戦も想定されます)なのですが、そこは「マスターのおすすめで」と返しておきましょう。値段は気にしてはいけません。何せ、あなたはこれから意中の人を口説き始めるのですから。高嶺の花に高値のスピリッツを添えて、朗らかに酔うもまた一興、と心得ましょう。

オーナーが供する、はじめてのウイスキー

氷なし角ハイボール

そんなウブでナイーヴで淳朴な皆さんに朗報です。ON THE ROCKSが、初めて来られたお客様にサーブしたい初めての一杯。それがグラスをキンキンに冷やして氷なしで作る角ハイボール。店内に約300本並ぶというウイスキーの品揃えからして、まさに通のウイスキー好きにはたまらないお店なのですが、このハイボールを看板メニューにすることで、

「ウイスキーは、ちょっと、、まだ、、、」

という人にも親しみやすいメニューデザインとなっています。それもそのはず、オーナーの矢田 正幸 氏はサントリーのグルメ事業開発部で、飲食店の開業・運営支援を長らく勤めてこられたキャリアを持つ方なのです。ぼくも、何を隠そうバーを経営しているのですが、ここまでの品揃えだと多種多様なウイスキーを、ストレートとチェーサーで加水しながら飲んでください、みたいな勧め方をしてしまいそうなところですが、お店に入って

「このお店に初めて来た人が、最初に飲むべき一杯をください」

と注文して、このハイボールが出てきたときには度肝を抜かれました。

フードメニューがない代わりに客席に置いてあるスナックはつまみ放題

早稲田大学モダンジャズ研究会、つまりはタモリと同門!

おい、林田。ジャズの話はどこ行ったねん、という声が聞こえてきますが、安心してください。ぼくが今宵、ON THE ROCKSを訪ねた理由。それは矢田 氏が名門、早稲田大学モダンジャズ研究会出身だからなのであります。早大ジャズ研と言えば、、、そう、、、あのグルーヴノーツの最首 英裕氏と同門、というのはジョークで(失礼)、福岡が生み出した日本が誇るエンターテイナー、ミスター タモリと同門なのです。

とそんな話をしていると

「タモリさんが出しているレコードは、全部、あるよ」

と早速、流してくれたのが「HOW ABOUT THIS」。

ミスター タモリのジャズアルバム「HOW ABOUT THIS」

「こんなのどう?」というタイトルも洒落が効いているし、ど真ん中ジャズミュージックなのですが、帯の「行楽のお供に、宴会に、、、」というフレーズもボケ倒しているようにしか見えません。曲も歌唱も素晴らしいので、興味がある方は、是非、氷なしハイボールと共にリクエストしてみてください。

オーナーの矢田正幸氏。店内にあるレコードは推定三千枚

マイルス・デイヴィス「ROUND MIDNIGHT」

ちなみに、矢田氏がジャズで最もフェイバリトな一曲として挙げたのがマイルス・デイヴィスの「ROUND MIDNIGHT」。これは若き矢田少年が中学生の頃、毎週、齧り付くように聞き入っていたタモリがDJを務めるオールナイトニッポンで、真夜中の2時になると必ず流していたからとのことで、ある種、ジャズの洗礼を浴びせられた一曲であり、これを機にタモリに憧れて早大ジャズ研を目指したということですから、運命の一曲とも言えるでしょう。

「ROUND ABOUT MIDNIGHT」もちろんレコード盤もあります

マイルス・デイヴィスは、ジャズを聴く人で知らない者はない、誰しもが通る道といってもいいでしょう。「ジャズの帝王」という異名を取るトランペッターで、ジャズ界に二度目の革命をもたらします。ちなみに最初の革命はチャーリー・パーカーが始めたとされる「バップ(ビバップ)」革命」で、マイルスはそれをさらに発展させ「モード」の世界を切り開きます。

モード・ジャズを完成させたと言われる「KIND OF BLUE」は、ジャズ史全体からみても金字塔で、演奏するメンバーもテナー・サックスがジョン・コルトレーン、アルト・サックス奏者がキャノンボール・アダレイ、ピアノのビル・エヴァンス、ベースがポール・チェンバース、ドラムがジミー・コブと後の巨星たち。おそらく21世紀に生きる人々にとって「20世紀を代表するジャズは?」と質問すると、それはチャーリー・パーカーでもルイ・アームストロングでもなく、マイルス・デイヴィスのKIND OF BLUEである、と断言できるような時代が来るかもしれません。

ちなみに矢田氏のフェイバリト「ROUND MIDNIGHT」は第一幕で紹介したジャズの伝道師セロニアス・モンクの作曲ですが、この曲自体は、むしろマイルスのアレンジによって世に浸透していったと言っても良いかもしれません。

アルバムジャケットを見ると、その風貌はまさにタモリ。タモリさんがマイルス・デイヴィスの影響を受けて時代を駆け抜け、そして矢田さんがタモリの影響を受けていまON THE ROCKSに立っているという状況をアルコールと共に飲み込むと、何か胸に去来するものがあります。

■TEL:092-771-3103
■住:福岡市中央区大名1丁目3-39 [MAP]
■営:OPEN/20:30、CLOSE/2:00 ※日によって前後するので事前に問い合わせされることをオススメします
■SNS:https://www.facebook.com/OnTheRocksFukuoka/
■チャージ:800円
■主なメニュー:角ハイボール 700円、バーボンハイボール 700円、ハイボールLIGHT 700円、アップルハイボール 800円、星子梅酒 850円、星スプモーニ 850円、レモンロック 850円、自家製サングリア 850円

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